Call Me Meybeある日、松野家のリビングには末弟と一松が残っていた。
テレビでの特集は「巷に流れる都市伝説」。噂話やちょっぴり心霊スポットの話を見て、一松はふと学生時代のことを思い出す。
「神様に繋がる電話番号がある」
学生の頃、そんな噂を聞いたことがある。18の頃、兄への恋心を募らせた一松は苦しさのあまり、その番号にかけてみたことがあるが、電話は繋がらなかった。
トド松にそんな話をすると、「兄さんの言ってるやつ、番号が違う」と言い出した。末尾一桁が違っている。
好奇心に駆られ、再度公園の公衆電話からかけてみるが繋がらない。がっかりするが、どこかほっとする。
結局そんなことでこの恋心がどうにかなるわけないのだ。
後日、リビングでみんなでいるときに「そういえばあれどうした?」とトド松に訊かれる。
「かかんなかった」「そうなんだ?なあんだ。どこからかけたの?家?」「いや、公園の角にある公衆電話……」「へー、今時公衆電話。そんな聞かれたくない願いなの?」
それはそうだ。兄への恋心なのだから。その兄は、まるで気づかず鏡を見ている。
一松が再び公園を通りかかると、突然公衆電話が鳴った。
飛び上がって驚いたが、ずっと鳴っているのでおどおどしながら電話に出る。
「松野一松くん?」
知らない声だった。どこか機械的なものも感じる。
「電話、くれたよね?」そう語る『神様』に、一松はまた驚いて電話を切る。
だが後日になって、再び公衆電話から電話をかける。
神様は出てくれた。
一松はカラ松への恋心を、その苦しみを、電話の相手に吐露するようになる。
そんなことが何度かあって、やがて、一松の気持ちが落ち着いてきた頃、神様は尋ねる。
「一松くんはカラ松兄さんとどうなりたいの?」
一松は答えられない。答えてしまったらもう救われない気がするからだ。
ある時、一松は子供部屋でチョロ松がおそ松に「お前こないだ変な電話してなかった?」と言っているのを聞いてしまう。
『神様』の正体がおそ松だと気づいた一松は思わず音を立ててしまい、気づかれる。
「おれを騙して楽しかったの?」と絶望する一松に、おそ松は言う。
「電話、かけてみなよ」
その場にいたトド松のスマホを突きつけるおそ松。恐る恐るかけてみると、『神様』は出た。
「それ、俺じゃないよ。俺が出たのはお前からかけてきた最初の一回だけ」
*視点変更してもいいし、説明してもいいです*
おそ松は、学生の頃少し荒れていた。見かねた母が、「悩んでいるのはあんただけじゃないんじゃない?」と言うので、お悩み相談室的なことをやってみようと思いつき、携帯を買ってもらって噂を流した。
だが来るのはくだらない電話ばかり。だがその中でおそ松は、兄弟たちが動揺に悩んでいたことを知った。それでおそ松は落ち着いた。
けれど一松だけはかけてこなかった。
そのことがずっと気がかりだった。
トド松との「あれからどうした?」という会話を聞いていたおそ松は、一松のあとをつけ、調べた公衆電話に電話をかけた。(声はデカパンの変声機)
だがすぐに思った。「これは俺が聞いていていい電話じゃない」
電話を取っているのは誰だ。着信音は背後から鳴っている。
そこにいたのはカラ松だった。部屋から一松を連れ出すカラ松。
公園の公衆電話の前で気まずく向き合う二人。
一松は「お前おれのことばかにしてたんだろ」と自虐的になるが、カラ松は真剣だ。
「まだ質問に答えてもらっていない」
「オレとどうなりたいか、お前の口から言ってくれ」
「オレはお前の望みを叶える『神様』だ」
「かわいそうに、一松。あんな箱の中で、小さくしか愛を語れないなんて」
その場ででかい声で愛を叫ぶカラ松と、もう秘めなくていい一松は想いを通わせる。
その頃チョロ松が、「あの電話お前だったのかよ……」と頭を抱えている。
笑いながらおそ松は思い出していた。
「ボクの弟が、ボクのことを好きなのに、避けるんです。どうしたらボクのものになりますか?」