タイトル未定 暑いのは苦手だ。
一体誰だ、夏でも朝は気温が低いと言い出した奴は。そんなもの、俺が人間だった頃から元号が二度変わった今では通用しない。
こんなところを歩くくらいなら部屋に籠って作品を仕上げた方が生産的だ。一体なぜ自分は朝っぱらから炎天下の中を歩いているのか。理由は至って簡単だ。起き抜けに「せっかくですし、散歩に行きませんか」という裏居の誘いに自分が二つ返事で答えてしまったから。それだけ。乗った理由は特にない。ただ、拒否する理由もなかった。
だがそれは現代の夏の暑さというものをすっかり忘れていたからであり、それを思い知った今では断ればよかったなと後悔している。
暑さなどものともしないと言ったようにすいすいと前を行く裏居は、いつものように布で口を隠していない。何ならあの胡散臭い羽織も纏っておらず、ポロシャツにデニムのズボンという至ってシンプルな格好だ。雑に束ねられたぼさぼさの髪はいつも通りだが、あの羽織と布が無いだけでも印象は変わる。
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