次男だから白夜の魔眼とかいうテロ集団のせいで、俺の住んでる町も被害を受けた。
でも幸い、家も栽培室も無事だから商売はできる。
キノコ売りに行くがてら、町の皆の手伝いでもするか。
そーいや、兄貴は元気かな。
復興作業もまだ残っているのに、団長が「家族に無事だって伝えてねぇんだろ?行ってこい」って言うものだから、帰ってきてしまった。
町にも被害の爪痕は残っているけど、思っていたより復興が進んでいて、安心したよ。
「お、リンガードさんとこの!いやー、イルさんには世話になってるよ!」
馴染みの八百屋が声をかけてきたので会釈をする。
「そうですか…私の家族は無事ですか?」
「皆元気そうだし、復興の手伝いもしてくれてるよ。ほら、そこ」
八百屋が指さした先を見れば、次男のイルが雲魔法で瓦礫を運んでいた。
「やぁ、イル」
「兄貴!」
近づいて話しかければ、相変わらず土汚れをそこかしこに付けて、屈託のない笑顔を見せてくれる。
「良かった無事だったんだな!てか、無事なら早く連絡してくれよな!」
「ごめんね、色々忙しかったから…」
「それ、何持ってんだ?」
イルが小脇に抱えていた王選騎士団のローブに気づいたので、広げてみせる。
誰よりも綺麗なローブを。
「王選騎士団っていうのに選ばれて、そのローブなんだ」
「あー!そーいやこないだ試験受けるって手紙で言ってたもんな!受かってたならそれも連絡しろよ!?全く昔っからそういう大事な事言わねぇんだから。ま、立ち話もなんだしちょっとその辺で話そうぜ」
「じゃあ、あそこでいいね」
少し歩いた先にある河原に着くと、イルは足元の小石を拾って水面に向かって投げれば、小石は跳ねて向こう岸に辿り着いた。
「私も、久しぶりに…」
エンもやってみたが三回跳ねただけで沈んでしまった。
「相変わらずヘッタクソだなー」
「イルが上手すぎるんだよ…。思えば、遊びじゃイルには勝てなかったね」
その場にしゃがんで陽光で煌めく水面を見つめるエン。
隣にイルも座る。
「魔法と勉強、ケンカは兄貴の方が上だったけどな」
「……そうでもないよ」
なんだか今にも消えそうなくらい悲しそうな横顔のエンを見て、何かを察したのかイルは肩を抱き寄せて言った。
「ほんとに抱え込むの大好きな。俺の前でくらい泣けよ、ローブが綺麗なのが役に立ててないみたいで嫌だって」
「………」
「しゃーねぇーよ。王族貴族沢山だろ?そりゃあサポートに回るしかねぇよな」
「………途中で気絶したから、大事な時に動けなかったんだ」
「不慮の事故ってやつか。それも仕方ねぇよ」
啜り泣くような声が聞こえてきたので、肩に添えた手の力を強くするイル。
「過去は過去だ。これから強くなって役に立ってきゃいいだろ?兄貴なら大丈夫。俺が保証する」
「イル……ありがとう。こんな情けない兄でごめんね…」
「いーんだよ、少し情けない位が。こうしてたまに俺に頼ってくれるしな。さ、泣き止んだら帰って飯にしようぜ!今日は兄貴の大好きなリゾットだ!」
細腕を掴んで立たせると、家に向かって二人で歩き出す。
帰りを待ちわびている家族の元へ、最近話せていなかったことを話しながら。