傷よく帰ってこれたと自分でも思う。
折れてはいないが、出血の酷い右足を引きずって本拠地に戻ってくると、真夜中だからか誰もいない。
いや、今一人増えた。
「しなびたキノコ君…!!」
恋人であるキルシュだ。
あちこち怪我をしてボロボロになったエンの姿を見て、心配を全面に出しながら傍に寄った。
「大したことないよ、傷薬と包帯で間に合うから…」
「しかし……」
「今の時間に医療棟に行ったら迷惑だろうし、他の人も起こしたくないんだ。大丈夫、大丈夫だから…」
「では、私になにか手伝わせてくれないか?」
「キルシュ君……いいよ、今日は少し厄介な傷も負ってしまったし」
そう言って、小さいキノコ君に治療道具を持ってこさせると、上着と靴を脱いで、ズボンの裾を捲りあげた。
足以外にも腕や腹も魔獣の爪と思わしきもので傷つけられていた。
よくこんな体で…キルシュは労りながら消毒をしていく。
初めて見た彼の痩せた体は様々な古傷ばかりで、今回のように回復魔法に頼って来なかったことが分かる。
そして、今回何よりも目に付いたのは背中の傷だ。
何かを刺されたように見える。
「この傷は…」
「魔獣の角が、ね……無理矢理抜いたら少しだけ体に残ってしまったみたいなんだ。それに癒着してしまっているかもしれないから…これで、抉りとってくれないかな?」
エンはブックポーチから小型のナイフを出してキルシュに渡した。
「そんな、恋人の体を傷つけられるわけがないだろう!?」
「……そうだね、酷な事を言ってごめんね。一人でやるよ、これは」
ナイフを返してもらうと、背中に手を回して傷口に刺した。
「この辺りかな…」
見えない上、少し体が硬いので、適当にナイフを動かすしかなく、見当外れの所を抉って余計に傷が酷くなる。
それに耐えられなかったのか、キルシュはナイフを奪った。
「やはり、私がやろう」
「…ありがとう、キルシュ君」
肉料理とは違う感触だ。
ナイフを刺して、くっつきかけている白い欠片の周りの生肉を削いでいく。
「痛くはないかい?」
「平気だよ。怪我なんてよくある事だから」
失血で青白くなり始めている顔で笑ってみせるも、キルシュの方は向かない。
「………よし、取れた」
尖った欠片を取り除くと急いで止血してガーゼと包帯を巻く。
「終わったが…本当に平気なのかい?」
「少し、目眩がするかな…。寝たら、治ると思うけど…」
エンはそう言ったあと、ソファーに倒れ込むように気を失った。
無理に動かしたら傷口が開くだろうかと考えたキルシュは自分のローブをかけて、起こさないように膝枕をしてやる。
パサついた色の薄い緑髪を撫でながら、身体中にあった傷を思い出す。
平民故に前線に出て、危険な任務を行う。
王族である為守られてきた私とは違う立場にいるからこんなに傷つく。
私は君を守りたいのに、守らせてくれない現実が嫌になる。
本当にできることは無いのか、それを考えながらキルシュは瞼を閉じた。