練習会諏訪はアルコールで上気した頬で、久しぶりに俺ん家で飲まねぇ?と寂しそうに笑った。
「わりぃな、まだ、片付いてなくてさ」
一人暮らしだった時のような1DKは中途半端に開封された段ボールがいくつかあった。
「冷凍の枝豆あるけど食う?」
「食べる」
温めるというシンプルな機能しかない電子レンジが、庫内に入れられた枝豆をくるくると回している。単身者向けの冷蔵庫も真新しい。ぐるりと見渡すと、カーテンやベッドも真新しい感じがした。
つい先週、諏訪が離婚した。
きちんと話し合っての円満離婚だったらしいが、それでもやはり心が擦り減っているようだった。周囲にはなんともないように振る舞っているくせして、俺の前では気弱な面を見せる。嬉しくもあり、悲しかった。
座ってていいぞと促されて、とりあえず卓袱台の上の書類や郵便物をざっとまとめて床に置き、座ろうとした時に何かを蹴飛ばしてしまって、卓袱台の下を覗き見た。
ティファニーブルーの小箱がひとつ、転がっていた。
かつて諏訪の薬指を占領していたそれが入っているのかもしれない。
嫌な気持ちが沸々と湧く。知らないところで幸せでいて欲しかった。友達づきあいもしつつ、妻との時間を大切にする男が、どうして。やるせない気持ちと憎らしさでそれをベッド下へ放りやる。
「ん、枝豆」
諏訪が枝豆が入れられた皿はなんとなく使い込まれている感じがした。元の家から持ってきたものかもしれないと思って、また掻き乱される。
「諏訪。飲みたくなったらいつでも誘っていいぞ」
諏訪がきょとんとした顔で俺を見て、ぷっと吹き出した。
「何言ってんだよ、そんなにお前の面倒みたくねーっつの」
俺ならどこにもいかないのに。