Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    daimrkw

    @daimrkw

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    daimrkw

    ☆quiet follow

    パロ。剣舞してる。
    冒頭のみ未完なうえ、文章をあまり整えてないです。

    剣舞迅嵐 宴は賑わいをみせていた。
     戦争続きの昨今、束の間の休息という名目のその催しはその実、権力者たちの腹の探り合いをする場でしかない。
     今行なっている隣国との戦争はあと少しで勝利するところまで来ていたが、それが終われば今度は敗戦国の分配について同盟国同士で争うことになるだろうことは火を見るよりも明らかだった。
     だからこそ、同盟国の権力者が多数集うような場は重宝された。笑顔の仮面をつけて、次はどう動けば、誰につけば利となるのか、または不利にならないのか、見極めるにはもってこいなのだ。

     主催者である城戸のスピーチが終わり、立食形式の会場で参加者たちは思い思いの場所で話に花を咲かせている。テーブルの上に乗っている料理は全て今夜のために集められたシェフたちが腕によりをかけた一級品ばかりだったが、参加者の興味が飲食にないことは明らかだった。
    (京介が見たら卒倒しそう)
     人の合間を縫って歩きながら、ほとんど手をつけられていない料理を横目に迅はそう思った。今頃、会場の外で警備をしているであろう迅の後輩は、がめついわけでも意地汚いわけでもない、ただの家族思いの青年だった。彼は、彼の同僚らよりも少しばかり兄弟が多く、平均収入が低い地域の出であったので、給料はほとんど全てを仕送りとして家族の元に送っているという。以前昔話に花を咲かせた時、ご想像よりは困窮してませんでしたよ、と迅に言っていた。けれどただの性格だと主張しながらも、彼は食べ物を粗末に扱うことを良しとしない。好き嫌いもなく、そのおかげか、彼は殆ど迅と同じ身長だった。
    (後で少しくらい持っていってやるか)
     今夜、必ず話をしろと命じられた人々とはもう既に挨拶を済ませた。
     迅は壁にもたれかかり、会場を見渡す。そして通りがかった給仕が運んでいたグラスを一つ貰い、口をつけた。
     赤黒いその液体は濃厚な甘い香りがする果実酒だった。迅は飲んだことがないものだったが、甘酸っぱい味と香りに心当たりがあったので思い出そうとしていると、ふと向かい側の壁辺りで話している林藤の姿が目に入る。
     照明を反射している眼鏡のせいで、目があったのかまでは分からなかったが、林藤のことだ、迅がいる位置くらいは把握していることだろう。
     グラスを傾けながら、林藤に視線を送り続けたが、林藤は胸元のぱっくり割れたドレスを纏う夫人との話に夢中でこちらに気を移す気配はない。
     迅は林藤に無言で帰りたいと訴えることを諦め、会場内を見渡す。見知った顔はいくつかあったがそれぞれ会話に勤しんでいた。
     城戸が話しているのなんて、同盟国最強と名高い将軍ではないだろうか。豊かな髭を蓄えた口元は朗らかに緩んでいたが、眼光は城戸以上に油断なく光っている。
     一方で、将軍の目の前にいる城戸はといえばいつも以上に堅苦しい表情を浮かべていた。城戸をよく知らない人からすれば不機嫌に見えてもおかしくない顔だった。この間、唐沢と根付に挟まれて表情の指南を受けていたというのに、結局改善はしなかったようだ。この後また、同じ二人に挟まれて、片方には苦笑、片方には冷や汗を浮かべられてくどくどと表情筋の使い方をレクチャーされる場面が容易に想像できて、迅はこっそりと笑った。
     城戸と隣国の将軍の手には、色からして迅と同じ果実酒が握られている。城戸が普段好んで飲む酒よりかなり甘い物だったので、迅は不思議に思い再度一口、口に含んだ。甘酸っぱい苦味が口の中に広がる。そういえば、どこかで味わったことがある気がする。味の正体を確かめるために下の上で酒を転がしてみる。そうしてはみたものの、最近やっと酒を嗜むようになった迅に得られる情報は皆無に近い。諦めて吞み下す。するとあんなに思いを巡らせていた時には働かなかった頭が急に冴えてきた。そして迅は漸く、酒の正体を思い出した。
     それは背の低い木になる、拳よりふた回りほど小さな果実だった。皮は赤く、果肉はその赤に黒を混ぜ込んだような色をしている。かじりついた時に溢れる果汁はまるで血のようで、初めて見た時、迅は薄気味悪いと思ったものだ。しかしその実は甘みが強く、栄養価も高い。暖かな地域を好んで育ち、四季がはっきりと分かれている自国ではあまり生産されていなかった。
     主な生産国として筆頭に上がるのは、目下戦火を交えている隣国だ。
    (前祝いってやつか)
     そういえば、酒の種類は豊富に用意されているにもかかわらず、殆ど全員がこの酒を飲んでいるようだ。
     急に口の中で酒が苦味を増した。
     給仕に声をかけ、手の中にあるグラスは下げてもらう。代わりに別の果実酒を頼む。運ばれきたのは爽やかなオレンジ色で、自国で多く栽培している果実から生産しているものだった。
     口の中の味を打ち消すために一気に呷る。馴染みのあるその味に迅はやっと一心地がついた。

    「迅くん」
     いつのまにか、根付が迅の横に立っていた。話しかけられるまで気がつかなかったことにまず迅は驚き、改めて気を引き締めなおす。
     この場にいる殆どと同様、迅も食事を楽しみに来たわけではない。仕事の一環だ。それなのに集中せず呆けているなど職務怠慢と謗られても反論できない。迅は努めて彼の存在に気がついてましたという顔を作って根付のほうを向く。
    「根付さん」
     けれどそんな迅の小さな努力は無駄に終わった。根付は迅よりも気になることがあるらしく、ちらちらと忙しなく視線を会場の中央へと向けている。明らかに不安そうだった。
     根付のこういう表情は身内同士の会議などではよく見る類いのものだったが、他国の要人も出席しているこのような場ではとても珍しい。視線を追って中央を見ると、給仕と同じ服を身につけた者たちが客人たちに声をかけ、中央から壁際に移動させていた。
     今までこういった集まりでは無かったことだ。迅が他の客たちと同じように、興味が湧いてその者たちを見つめていると、やがて会場の中央には円形のスペースが出来あがった。

     ふっ、と照明が落とされる。円形の空間の縁には先ほどの給仕たちが蝋燭を持って立っているため、真っ暗にはならなかったが、中央で丸く揺らめく炎の円は余興としては不気味だ。
     会場が困惑に包まれる。
    「上手くいくといいのですが……」
     根付が誰ともなしに呟いた。その意味を問うために迅が口を開いた瞬間、パッと照明が一つだけついた。会場の中央、つまり今しがた出来たばかりの空間だけを映し出している。
    「いつのまに……」
     場の中央には、暗闇に紛れて、いつのまにか一人の男が立っていた。

     一枚の薄布を目深に被り、体に纏わせているため顔がよく見えない。男の首元や手首で、見事に磨かれ照明を反射しているアクセサリーは線が細く、迅には遠目でも女物だと分かった。それでも、顔が見えずとも女だと間違えなかったのは、布の上からでも男が持つ筋肉のしなやかさが分かるからだった。

     タン、と打楽器が一つ打ち鳴らされた。これもまたいつのまにか、楽師たちが拓けた円の端に座り、それぞれの楽器を構えている。
     その一人が弦楽器を優しく撫でる。奏でられた音に合わせ、中央の男が周囲にいる全ての者に見えるようにとゆっくりと回りながら布を解いた。
    「まあ……」
     迅の前にいた女性が少女のような弾んだ声を上げる。彼女だけでなく、会場の様々な場所から同様の声が上がった。
     それもそのはずで、布の中から現れた男は、稀に見ぬ美丈夫だった。その男が綺麗に鍛えられた上半身を惜しげもなく晒している。ほう、と男女入り混じった感嘆の息が聞こえる。
     男は注がれる数多の視線に物怖じすることもなく、真っ直ぐに立っていた。よく見れば首や手だけでなく、男は体のいたるところにアクセサリーを付けている。
     緑色に輝くそれらに、迅は心当たりがあった。自国で多く獲れる宝石の一つで、通称トリオン石。確か最近その石を加工し、輸出していきたいのだと唐沢が言っていたのを思い出す。
     迅は隣を横目で伺う。根付は息をするのも忘れているかのような面持ちで中央の男を見つめていた。
    タン、タン、タンと打楽器がリズムを刻み、それに合わせて他の楽師たちも各々の楽器を操り、演奏が始まった。

     中央の男はもう何度かくるくると回り、その後に腰に下げていた剣をすらりと抜いた。
     鞘にも柄にも装飾が施されている、宝刀の類いだ。もちろんそこにも緑色の石がはめ込まれ輝いていたが果たしてどれだけの人がそれに気がつけただろうか。

     ダンッ。
     一際強く打ち鳴らされた打楽器に合わせて、男が飛んだ。
     すぐに管楽器や弦楽器の旋律が後を追う。
     美しさと力強さが見事に融合する音色に合わせ、男は会場の視線を一身に集め、踊っていた。
     音楽に合わせて剣を振るい、時に力強く、時にしなやかに身体を動かす。
     男が跳ね、回るたびに揺れる毛束はまるで鳥の羽のようだった。一見硬そうだが、きっと本物の鳥のように、見た目だけで、実際に触れればふわふわとしているに違いない。

     ぱちり、と舞う男と迅の一瞬だけ視線が絡み合い、解けていく。否、絡んだというのは迅の願望かもしれない。けれどその一瞬、男の瞳は身につけている数多の宝石よりも輝いて見えた。


    ――ワッ。
     歓声が空気を割った。
    迅はその時、初めて自分の耳が音を拾っていなかったことに気がついた。それほどまでに男の舞いに熱中していたのだ。
     顔に集まった熱を誤魔化したくて、わざとらしく口笛を吹いてみる。けれど迅の小さな努力はまた無駄に終わった。誰も迅のことなんて気にしていなかった。熱狂的に演舞を終えた男を取り囲み、口々に話しかけている。彼に話しかける栄誉ある第一陣から漏れてしまった客人たちも、第二陣には加わらんと周りを取り囲み、隙を伺っている。唯一迅に気がついても良さそうな根付はと言えば、安堵から脱力しており、視線はやはり男に注がれていた。
     輪の中心にいる男が、にこやかに応対しながらチラリと迅の事を見た。心臓が大きく鳴ったが、迅はすぐに根付を促す。
    「根付さん。そろそろ行った方がいいよ。ヘルプ求められてる」
    「そうでした」
     根付はハッとなると足早に輪の中に加わっていく。それにいち早く気がついた男が、あからさまにホッとしたのが見て取れて、迅は自嘲した。彼は根付を見たのだ。迅の方を見るはずがない。彼と迅は面識が無いのだから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏🍷❤💙💴💴💴💴💴💴💴💴🙏👍👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works