ありふれた星の子は皆と言っていい程、この世界の色んな場所で眠る。
草原の綺麗な景色の花畑で眠る子、雨林で雨音を聞きながら眠る子、自分の巣で眠る子、好きな場所に作った秘密基地で眠る子…
リノは他の星の子には決して素顔を見せずに長い間生きてきた。ノスに素顔を明かしたのも最近の話でまだ周りに見せる事も抵抗があるだろうと、ノスの計らいで2人で居れる巣で眠る事の方が多かった。
けれど色んな場所で寝たいとはいえ、ノスにとってもそれは周りの目を気にせずリノに甘えられる特別な時間でもあった。
毎日同じ布団に入って抱きしめられて寝る事が幸せで、素顔を見せてくれてからは毎日のように素直に愛情表現をしてくれる。
ほとんど月明かりでしか見えない暗い部屋で過ごす2人だけの時間は様々な場所で寝る事よりも大切なものになっていった。
「今日はね、昨日より上手に花冠作れたんだよ」
横になってお互いの顔を見ながら今日のことを楽しげに話すノスの頭を撫でながらリノは目を細めた。
「毎日飽きないなぁ…」
「俺はリノより上手くなるの!」
ふんす!と意気込んで笑うのがおかしくてつい頬が緩む。
「それなら、捨て地も上手く飛べるようにならないとダメなんじゃないか?」
「うっ…それは!作るのに関係ないからいいのっ!」
勢いよく布団を頭まで被ってしまったノスを横になったまま引っ張り出して抱き寄せる
愛しそうにその体温を手放すまいと強く抱きしめた
「…上手くなってくれないと困るんだ俺は…お前は出来もしないのに無茶をするから」
「ごめん…なさい。でもっ!これでも頑張ってるよ!いきたくは…ないけど…」
リノの胸に顔を埋めてそのまま黙り込んでしまうノスの額にキスをして、もう寝よう。と告げる。
「心配かけないように頑張るね…」
ノスもリノの頬にキスを返してそのまま眠りについた。
リノの朝は早く、ノスはいくら起こしてももう少し日が高くならないといつも絶対に起きない。
だからリノも目覚めてから1時間ほどは隣で寝てるノスを見てぼーっとしている事が多かった。
他の子よりふわふわで少しくせっ毛な柔らかい髪の毛に指を絡ませながら撫でるとふにゃりと口角の上がるのがとても可愛いのだ。
寝ている子犬を撫でてる感覚というのだろうか…
大きなごつごつした手で何度撫でても気持ちよさそうに眠るノスをたっぷり堪能した後は寝ぼけて起きる彼の為の朝食を作る。
取ってきた魚や果物、山菜などを使って朝食を作りながら空いてる時間で汚れたケープなどを洗ってノスを起こす。ここからなかなか目が覚めきらずぼーっとしてるので抱きかかえて顔を洗ってやってめちゃくちゃな寝癖を直して、着替えさせてやっと目が冴えてきたとこで一緒にご飯を食べる。
ノスは生まれた時から他の星の子よりバグが多く、例えばリトルになればなかなか戻れなくなる事が多かったり、なぜか猛烈な眠気に襲われたりする。
身体への負担が同じ事をしていても他の子より大きいのだろうと考えたリノは朝早くノスを無理に起こす事はしなかった。
ナタルからは過保護すぎないかと怪訝な顔で見られたが構わなかった。
「んぅ……いい匂い…」
目を擦ってやっと目が冴えてきたノスはまだ眠そうな顔をしながらも美味しそうにリノが作ったご飯を頬張る
「おいし〜さすがリノだね」
下手くそなフォークの持ち方で下手くそな食べ方で口の周りを汚しながらも美味しそうに食べるノスは毎日必ず褒めてくれた
「ちゃんと皿持てよ」
「うん」
食べ終わるとすっかり目も冴えてちゃんとお礼にといつも食器を洗ってくれる…のはいいのだが、
これがまた驚くほどドジでどうやったらそんなに皿が飛んでいくんだというほど手から滑らせて割りそうになる。
リノからしたらハラハラして見てられないのだ。
しかしノスは一度決めたら絶対に曲げたくないのか意地でも自分がやると聞かなかった。
(むしろ心臓に悪いからやめてほしいが…これだけ頑張っていると流石にやめろとは言えん…)
嫌な事がすぐ顔にでるリノは眉間に皺を寄せて割らないように黙って見てるしかないのだ。
毎日2人一緒に過ごす。
という訳にもいかず、リノはどうしてもたまに数日ほど出かける時があった。
「行かないでぇぇ」
びぇぇと涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして我儘をいうノスをこの度に引き剥がさないといけないのだが、泣き方の割に素直な聞き分けのいい子で
「3日くらいで戻るから。それにそんなに遠くはないからな。お前が捨て地で雀助けてやるんだぞ。でも無理はするなよ」
手を取って言い聞かせてやるといつもこの間預けている自分のアヌビスのお面を抱きしめて頷く
「お前は俺の弟子だから出来るよな」
頭を撫でると首に腕を回して飛びついてくる
「リノも怪我しないでね、無理しちゃダメだよ」
いつも相手の心配ばかり。本当に強い子だな…と思わされる。
「俺は大丈夫だ」
力を込めて抱きしめ離れるとまだ寂しそうなノスにキスをして巣をでた。
ずっと誰かと一緒にいると巣で1人でいる事はどうしても寂しくなってしまい外に出たノスは同じく巣から出てきたナタルと鉢合わせた
「あれ、ナタルさん」
「なんだお前もキャンマラでもいくのか」
首を横に振って俯くとナタルは全部理解したようで黙って手を引いてくれた
「いいか、雨林しか行かねぇからな。」
「ありがとう…ございます」
拙い敬語でちゃんとお礼を言うのは偉いと思うが…それはもう驚くほど飛ぶのが下手…ではないが鈍臭くて手を引いていても雀を運ぶより時間がかかるとナタルは密かに思っていたのだった。
ナタルはリノの昔馴染みでノスが幼い頃から見ているのでリノの次によく面倒を見てくれており、2人の良い理解者だ。
そんなナタルに面倒を見てもらえてやっと機嫌も良くなってきたようで、晴れ間に着く頃にはすっかりにこにこして蝶と戯れていた。
「パン焼き終わったら捨て地行くんだろ」
「うん。雀ちゃん助けないとなの…です!」
「…今日だけ見ててやるから明日から1人でやれよ」
「!! いいんですかっ!」
大きな目をキラキラと輝かせてあからさまに嬉しそうにするノスについ口角が緩む
「今のお前見てたら鈍臭くて死ぬんじゃねーかって思ってな」
ナタルは口は悪いが面倒見が良くて優しい事を知っている
ノスはにっこり笑うと、ちゃんと明日から頑張るますっ!と相変わらず拙い敬語で返事するのだった