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    紀帝柳王フェミニゼートドラゴン

    @femdra
    二人組の同人サークルです
    呪われているので女体化しか書けない
    ホモのヘテロが好き(左右固定の意)

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    POIPOI 9

    【並盛】ごめふし2nd noon展示書き下ろし。イベント後も読めます。
    原作軸の数年前、離反後の夏油が目撃した五条悟の変わり果てた姿とは。好きな子に振り回されてる攻めくんかわいいよねの短編です。

    #五伏
    fiveVolts

    【五伏】『アンドロメダとオレンジジュース』あいつの眼はどんな遠くの敵だって見逃さなかったなと、懐かしい友のあほヅラを想う。遠方まで、個人的な集金へ向かう道中の信号待ち。ドラッグストアの店先から古いJ-POPが耳をくすぐった。学生の頃流行ったラブソング、熱の冷めた色恋の哀しさを甘く歌い上げたもの。

    「交差点で君が立っていても――か」

    あんなにすぐに見つけられたものが、今ではもうぼやけて霞んで見つからない。なんとも薄情な話を詩的に昇華せしめたものだ。視力の良さを鼻にかける女の独白を鼻の奥で口ずさみ、思い出すのがあいつのことというのもなんだか気色の悪い話だ。だが、そこまで考えて思わず噴き出してしまう。

    「いやいや、私もアイツも、自慢じゃないがひと目で見つかるだろ。見失うにはデカいよ、流石に」

    人混みに紛れた程度であの悪目立ちする白髪頭を見逃す能天気は、少なくとも自分の方には演じようがないなと苦笑した。……そう、あいつはとてもよく目立つ。うっかり街のど真ん中で遭遇でもしたらどうなってしまうだろう。そう考えて、一応は彼の行きそうな場所は避けて生きるようになった。まあ、あまり意味のない行動だとは思うが。

    「(きっと、顔を合わせたって何も変わらないさ。私が何も変わらないんだ、彼も、構うことなく通り過ぎてすれ違うだけさ)」

    そうは理屈でわかっていても、どうにもむず痒くていけない。そういうところは大人になりきれていないなと、自分の濯ぎきれない幼さを知る。…車の流れが止まって、人混みが動き出す。ぐるりと見渡して、対岸に懐かしい長身が見当たらないことを確かめてから、成すべき大義のために一歩を踏み出した。帰宅は遅くなりそうだ。今日くらいは学生時代みたく、牛丼でもかっこんで帰ろうか。


    ***

    「――で、なんで君が、こんな場末の牛丼チェーンにいるんだい」
    「こっちのセリフだよ、悪徳成金エセ教祖」

    絶句もするだろう。交差点でうっかりバッタリ☆どころじゃない。デカい白髪がテイクアウト待ちのカウンター前に佇んで順番を待っている。デカすぎて首から上が自動ドアの鴨居に見切れていたのが不味かった。あと、店が店だし流石にないやろと思った。あった。

    「オマエんとこの宗教、意外と経営難なの? あとなんか、ビーガン的な教義で非術師に関わらない衣食住を心がけてるんじゃなかったっけ?」
    「…努力義務だよ、あれは。あいにくまだ術師だけの自給自足サイクルを実用化はできてなくてね、外食するからにはそこは割り切るしかないだろう……ってそうじゃなくてね、きみ」

    でかい図体が二人、狭苦しいカウンター前に雁首揃えた店内はさぞ居心地が悪かろう。イートインは諦めてさっさと出て行きたかったが、逃げたと思われるのも不快なので悟の脇に並ぶ。待合イスを埋めているスーツの猿どもが怯えた様子で鞄を抱きしめている。まあ猿だし、勝手にびびらせておけばいいか。

    「こっちの質問が先だったろ。五条悟ともあろうものが、なんでまた牛丼?」
    「学生時代はみんなでちょくちょく食いにきてたろうが」
    「思い出の味ってこと? いやいや、それにしたって立場があるだろ。今や君は御三家の長の一柱でもある。こんな格好を誰かに見られたら……ていうか、ひとり?」

    そういえば、表に補助監督の標準である黒いセダンは停まっていなかった。やたらと目立つ外車が駐車場の隅に陣取っていたが、あれが彼の足だろうか。

    「……わからないな、ますます」
    「なにが」
    「違和感は二つ。一人ならテイクアウトの列になんか並ばずガラガラの店内で食べればいい。こんな、窮屈な思いで拘束されるなんて君らしくもない」
    「自分ちで食いたいだけかもじゃん」
    「なら尚更。もう一つ…テイクアウトで済むなら補助監パシらせるだろ、君は」
    「けっ なんでも知ってますーってか。僕だってアップデートしてんだよ」

    まさに変化の一端をお披露目しますと、これ見よがしに知らない一人称が耳をつく。でもそれは確かになめらかな慣れのある音で、ぎこちなく無理を取り繕っているようには思えなかった。変貌は、続けてもう一呼吸。

    「僕だって、自分が頼まれた買い物を人任せにしないくらいのモラルはあらぁ」
    「……たの…………」

    再びの絶句。だってそうだろう、目下をパシらせるどころか、自分がパシらされることを良しとする五条悟だなんて。一度は落差に苦悩した最強の看板がやたらと俗いところに転がってきて、ある種のショックのようなものがある。だが、元相棒のすまし顔には凋落の憔悴はなく、どこか気恥ずかしそうな面映さがほんのりと唇を尖らせるのみだ。

    「ハッ そうかわかったぞ、罰ゲームだな!」
    「そうでも考えなきゃ僕が誰かのために使い走るなんてありえないってか??? 信用なさすぎて傷つくんだけど」
    「己が人生の振る舞いを顧みてごらんよ」
    「ちっげーし。『ごじょーさん❤️ 今日はおうちにひとりなの❤️ お腹すいたからゴハン買ってきて❤️ 牛丼でいいんで❤️』って、頼られたんだよ。他でもないこの僕が!」

    裏声は明確に艶っぽさを、ボディランゲージはしなをつくって、おねだりのために重ねられた手のひらを頬の横に添えて小首を傾げる。…………マジか。

    「その歳で悪い女に捕まったか。あーあ終わったな御三家……」
    「まあ否定はしないよ、そこは。もうあの子のために終わらせる気マンマンだし」
    「半分くらい冗談のつもりだったんだけど。マジで言ってる? 私の情報網にも引っかかってない、寝耳に水のスキャンダルだよ」
    「んふふ、秘密の恋人って燃えるよねえ」

    彼のような人の身で人でなしの人外に好かれて、さぞや大変だろうと意中の女性の苦労を偲んだ。……いやだが、そんな化け物じみた彼を尽くさせるその女も大概じゃあないか?

    「私の記憶が正しければ、君しばらく山陰と甲信越を行き来する超過密スケジュールじゃなかった?」
    「うわなんで知ってんだよ、キショ。そうよ、出張続きで今日で四徹め〜〜…その合間に半日だけ、任務の報告がてら東京まで帰ってきたってワケよ」
    「……ここ埼玉だけど」
    「呼ばれたんだから車で高速かっ飛ばすでしょ〜〜…好きな子をお腹すかせたままにしとくなんて、五条さんの名が廃るってモンよ」

    そう、彼はこの国で比類なき唯我独尊の最強だが、それが故に誰よりも忙しい。そんな彼をパシらせて涼しい顔ができるなら、相当に他人をアゴで使う身分の生まれか……貢がれ上手の手練キャバ嬢くらいだろう。まずいな、袂を分って久しいとはいえ、流石に旧知の友がお水に入れ込んでいるのは看過できない。キャバ嬢>五条悟>それ以外の術師、の図式が私の中に構築されると行動の方位磁石がまたグルングルンと病みかねない。

    「悟、残酷なことを言うようだけど相手もビジネスでやってるだけだから…」
    「は? 仮にそうだとして、それがなに? ぼくは頼られることが嬉しい。それが打算からくるものだったとしても。それに僕の愛が真実なら、いつかあの子も僕のサイフ以外も見てくれるようになるかもだろ。ていうか、あの子に足の生えたサイフ扱いされるの、なんか未知の扉がくすぐられてクセになるんだよねえ…」

    ふへ、ふへへと気持ちの悪い吐息を漏らして巨体が揺れる。その脇を、出来たての牛丼を抱え脱兎のごとく離脱する猿よ、私は君が羨ましいぞ。

    「やばいな、完全にリアコ拗らせてる。きみってば、いったいこれまでにいくら注ぎ込んだんだい」
    「え? えーと、子供一人を高校にやるまでにかかる養育費って平均一千万くらいだっけ? それ×2かな、ざっくり」
    「私が逃亡潜伏しながら苦労して美々子と菜々子に費やしてきただけの金と同等ォ!? 馬鹿にしてるのかい、もっと建設的な用途に使えバカ!!!」
    「そっちこそ馬鹿にすんな! 明るい未来を築くための先行投資だぞ!!」

    そう言って騙されてきた老若男女を私はよく知ってるんだよ!騙す側だから!! 見ていられない、かくなる上はと呪力を回し臨戦の構えをとる。

    「そんなくだらない落ちぶれ方で最強の看板が朽ちるなら、その前に引導を渡してやるのが君に憧れた友の務めだろう!!」
    「ハッ 大義だなんだに振り回されるお坊さんは可哀想だねえ、これほどに貴(たっと)いモノは地球上のどこを探したってないっつうのにさ!!」
    「ひ、ひぃいい!」

    視えてはいなかろうが、我々の気迫に気押された猿が椅子ごとひっくり返り派手な音を立てる。だが低賃金で夜勤に励む非正規労働猿が様子を見にくることはない、厨房をワンオペするので手一杯のようだ。

    「今、ここで! 決着をつけようか!」
    「ははァッ! 望むとこティリーーーン あっ ちょっ、ゴメンほんとゴメンたんま」

    目にも止まらぬ速さで構えを解き、悟は私に背を向けてケツポッケから出した携帯端末をスワイプし始めた。肩越しに覗き込めば、メッセージアプリのトーク画面に『まだ?』のスタンプ。女子供が好みそうな、ファンシーな絵柄の犬がエサ皿の前で眉尻を下げている。

    「あっあっ やば そういや待ち時間かかりそうってメッセ送れてない 傑に絡まれたせいで!!」
    「なになに…『まだですか 混んでるならもう冷食チンして食うから牛丼要らないです』……かなりドライな突き放しだね、思っていたより猿回しの得意な子じゃないな…」
    「あーー覗き見んなスケベ!! 僕らの愛が穢れる! って、相手してる場合じゃなかった!!」

    血相を変えた悟は私を腕で押しのけて懸命に液晶をたぷたぷしている。性悪の夜職へ、さぞや懸命に言い訳を取り繕っているのだろう。あんな下手くそな営業にこうも顔色を変えて……あれほど遠く思えた背中が、身の丈より小さく見えた。こんな有様ではきっと、まさしくあの歌の通りに見失って――

    「ごめんよ、めぐみ〜〜〜〜!!!」
    「……ん???」

    悲鳴に近い涙声で、いつのまにやら旧友は電話をかけていた。すがりつく有様はなんとも情けないが…今なんて言ったかな、源氏名、確かに女の子の名前ではあったけど……

    「連絡おくれてごめんねえ! 既読無視したら一生呪うぞ☆って言い出したの僕の方なのにぃ〜〜〜〜!」
    『いや別におれはそういうの気にしないんで。メッセ飛ばした通り、別に、冷食あっためればいいだけですから牛丼無くても…』
    「そんな寂しいことゆわないでよォ〜〜〜せっかく君から頼ってもらえたのに!! かっこよくて頼りになるところ、魅せられるチャンスなのにー!!!」
    『大袈裟すぎでしょ』

    ぎゃんぎゃん騒ぐ悟に対して、冷めたか細い掛け合いが漏れ聞こえる。商売女にしてはやけに幼い声色、ああこれは、あれか。

    「バカはバカでも、親バカってやつか……」

    目に入れても痛くないほどかわいいあの娘たちを想う。テンションの落差はあれど、その愚かさは自分も知るところだ。どうやら自分は、彼の醜態の正体を見誤っていたらしい。

    「は!? テメェいま何つった! 僕はなぁ、淫行だメンヘラだ言われても構わないけど、恵の父親にだけはなりたくねえんだよォ!!! 訂正しろ、これは混じり気のない純愛ーーーーーーッッッ!!!!!」
    「見誤らせておいてくれよそこは キッショいなあ」

    いい話に着地させてほしかったが、キャバ狂いからペドフィリアにジョブチェンジしただけの旧友はそれらの汚名よりパパ呼ばわりが嫌なようだ。まあ、あの大猿のことを思えば無理もないか。

    『? 五条さん? マイクミュートになってませんか? 五条さん?』
    「あ、ごめんねめぐみぃ❤️ へんなとこ触っちゃったみたい❤️ もうちょっとで着くから、王子様の到着をお腹すかせて待っててね❤️」

    んーーーーっま ちゅばっ ちゅばっっ  念入りに粘ついた水音をスマホに押し付け通話を切り、白髪男は雑菌まみれの口から輝く歯を見せて振り返った。

    「すまないね非モテくん、そういうことだから僕はプリンセスの元へ急行せねば。勝負はまたの機会とさせてもらうよ! チャオ☆」
    「颯爽と去る流れだけど、きみまだ牛丼受け取れてないだろ」
    「ギエーッ!! すげえ気まずいインターバル!!」

    その後、『快く』順番待ちを代わってくれた猿の、偶然同じオーダーだった品を代わりに受け取った悟は謝礼金をばら撒いて店を飛び出し、マセラティで国道をかっ飛ばして行った。残された私は、諭吉の散らばるカウンターに肘をついて自分のスマホをたぷたぷ。たまにはこんな俗いお土産もいいかと、愛しい娘らへ腹の減り具合を尋ねてみる。

    「ま、何買っていっても喜んでくれるんだけどなぁ、あの子らは」

    あの笑顔に救われ、背筋を伸ばされ、子育ては親育てという格言のなんたるかを知った。その思いはたぶん、悟のほざく純愛にも多少なりとも共通する面があるんだろうと推測する。その理解を先ほどまでの失望へと代入すれば、若さを失くして縮こまるあの背中が、情けなくも駆けずり回る忙しなさが――不思議とかっこよくも見えてくる。淫行のくせに。
    変わったのは、変えられたのはお互い様か。隣人は過ぎ去っていく。だがそこにあの歌のような哀しさはない。

    「うかうかセンチメンタルに浸ってると、あっという間に差をつけられるぞこれは」

    だってすっかりそのまなざしは盲目で、たった一つの光めがけて足取りに迷いはない。祝福してやりたいが、なにせ犯罪。そのくせ彼をひた走らせるのに十分な動機ときた。こちらは大義だぞ、小学生じみた不純なオス欲に負けてたまるか。
    まあそれでも、彼に、ただ漫然と頂点に立つだけだった彼に、転がり落ちてでも駆け寄って向かいたいしるべが見つかったというのは、なんだかうれしい話ではある。このゴミ溜めみたいな世界において、私のように絶望せずに一番星を見つけ出すなんて。やっぱり君は、言うだけあって目がいいらしい。

    国道を四駆の閃光が、さいたま目掛けてかっ飛ばす。その弾丸は東奔西走、マグマの中でも躊躇わず。お姫様の気の向くままにどこへだって駆けつけるのだろう。


    ***

    「メシ、ねぎだくにしてくださいって言いませんでしたっけ。てか、紅ショウガついてねえし。まあ、別に食えたらなんでもいいですけど。ありがとうございます五条さん、お茶飲んだら帰っていいですよ」
    「わーーーんもっかい行って取ってくるよぉーー!!」

    まあオチはたぶんこんなザマで、格好なんてついてないんだろうけどさ。


    《了》




    ***

    あとがき

    タイトルはaikoのお歌と、古い漫画からとっています。いますぐ100%オレンジジュースが飲みたいって彼女のわがままを叶えに夜中の町中を走り回る彼くんの可愛い話。振り回されてほしいね、最強。
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    紀帝柳王フェミニゼートドラゴン

    SPOILER本誌236話バレ 

    ここから入れる保険はある 僕の考えた最強の237話以降の展開を全七話で毎日更新します。一種の祈祷です。
    ①はタメなので堪えてください。書いてる人間は常に自カプを信じています。

    【追記】見づらいとのお声があったので、べったーにお引越しして続きを載せています→ https://privatter.net/p/10434569
    【五伏】To the Polaris,From236 ①波止場のインターバル1.波止場のインターバル


    Congratulations 人生のエンディングに乾杯を。斯くして『最強』の名を欲しいまま窮屈に生きた五条悟の二十九年は堂々の終幕を迎えた。出迎えには親愛なる同窓が集い、紙吹雪でも散るに相応しい感動のフィナーレだ。目尻の潤む熱き再会、万感の思いを胸に下段を過ぎゆくエンドロールを見送る。

    「僕は、僕が病や老いでなく、僕以上の強者に殺されたことを嬉しく思うよ。ああ楽しかった、満足にはすこし足りないし、あいつにも申し訳ない半端をしたけど――」

    概ね良好だ。望むべくもない己の結末にしては、随分な贅沢をさせてもらったと五条は満ち足りて目を伏せる。ただひとつ、やり残した喉のつかえが……いや、ひとつどころで済まないほどにはあるけれど、何事も足るを知るのが肝要だとこの歳にもなると分別がわかってくる。不甲斐なさの苦味も味かとすっかり完走の余韻に浸る五条へ、馴染みの面子で最も惜しまれ夭折した少年が、穢れを知らぬ眼差しでふと無邪気に問いかけた。
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    紀帝柳王フェミニゼートドラゴン

    DONE【大盛り④】ごめふし2nd noon展示、七月発行新刊の一部先行公開です。イベント後も読めます。長いので一話ずつに小分けします。
    両片思い先輩五×後輩伏♀のもとへ未来から28歳の五が現れて奇妙な三角関係が始まる、甘く切ない初夏のSF青春アニメ映画(概念)です。
    タイムパラドクスゴゴフシ♀ Ⅳ 『エスコートとストーキング』***

    賑わう駅前、一際目を引くライトグリーンのショウウインドウを背に、ねこ耳帽子を目印に。指示された通り、きっかり正午を目前にして伏黒恵は週末の都心に佇んでいる。休日というのに途切れぬサラリーマンの群れは西へ、ぎらつく若さを身に纏う男女は東へ、老若男女が伏黒の前をずいずいぐんぐん行き交ってゆく。埋もれそうな人混みの中で、果たしてこんなチャチな目印がどれだけ役に立つやらと、少女は頭に被せたキャスケットの角度を所在なく調整した。

    「ねー、あの子、一人かな? 声かけてみる?」
    「いや待ち合わせでしょ。てか、男? 女じゃないの?」
    「えー男の子だって、帽子以外みんなカッコいい系じゃん」

    生業上、自然と周囲に注意を払う癖がついている。ショウウインドウから少し離れた信号の前で、立ち止まった女たちがひそひそと、しかし白熱した様子で伏黒の容姿について議論を交わしているのが聞こえてきた。
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    紀帝柳王フェミニゼートドラゴン

    DONE【大盛り③】ごめふし2nd noon展示、七月発行新刊の一部先行公開です。イベント後も読めます。長いので一話ずつに小分けします。
    両片思い先輩五×後輩伏♀のもとへ未来から28歳の五が現れて奇妙な三角関係が始まる、甘く切ない初夏のSF青春アニメ映画(概念)です。
    タイムパラドクスゴゴフシ♀ III 『奇妙な三角関係』***

    「未来から来た五条? なにそれウケる、負担が2倍で夏油が死ぬじゃん」
    「君が多少は引き受けてくれるという配慮とかはないんだね」
    「あたぼうよ、うわマジだ、二匹いる。一匹頂戴よ、解剖してみたい」
    「駄目、別人に見えて一応地続きの悟…のはずだから。危害を加えたら将来の悟が大変なことになるよ」

    小柄な同級生がヤニ代わりの棒飴を咥えたままへらへらと事態をおちょくるが、すでに夏油の胃はきりきり痛み出していた。目下話題の彼はというと、高専応接室の革張りソファーにどっかりと腰を下ろしていちごオレなど啜っている。顔面には真っ黒な目隠しがへばりついていて、風体が胡散臭いことこの上ない。

    「そうそうコレよコレ! 学生時代いっつも飲んでたなぁ〜〜! このパックのやつ、僕の時代では終売しちゃっててね。やば、超懐い、ノスタルジーで泣きそう」
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