Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    そのこ

    @banikawasonoko

    @banikawasonoko
    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 💙
    POIPOI 123

    そのこ

    ☆quiet follow

    幻水2、坊ちゃんが帰ってくる前のクレオさん。
    言及してる絵、例のあれです公式のシチュー作ってるやつ。ゲーム中は顔グラですが。はい。

    #幻想水滸伝

    2025-06-15

     日が昇る前に目が覚める。目を開ければ見慣れた部屋がある。小さなサイドボードに色褪せた壁紙。一人用の机といす。私に必要なのはそれだけなのに、着替えて扉を開けてみれば、もっと大勢で住む豪邸が目の前に広がっている。
     赤月帝国にその人ありとうたわれたテオ・マクドール邸。赤月帝国を打倒した解放軍を率いたセキア・マクドールの生家。いまは私一人が暮らしている。しんと静まり返った屋敷の中を、私の足音だけが響き渡っている。
     さて今日も、汚れてもいない部屋を掃除し、見る人もいない花を飾る。あの頃のように、あの頃とは違うと私に刻みつけるように。

     年金があるから、日々の暮らしに不自由はしない。それが坊ちゃんの指図であることは聞き及んでいた。この国を出ていく前、レパント殿にいくつか残した頼み事。そのうちの一つが私の事だった。
     荒らされもせずに残っていたマクドール邸。所有権こそいまだに坊ちゃんのものだが、住んでいるのは私だけだ。あの方は今どこの空の下だろう。暖かくしていればいい。おなかが空いていないといい。悲しい事なんて何一つなければいい。
     連れて行ってもらえなかったとすねたように考えたこともあるが、帰ってくる場所を任されたと考える事もできると思い直した。私がここに居られるようにしてくれたという事は、坊ちゃんはここに帰るつもりがほんの少しでもあるという事だ
     台所に火を起こして一人分の朝食を作る。と言っても、昨日からずっと煮込みっぱなしのスープと固くなりかけのパンだけだ。水と共に一人で祈り、ゆっくりと口に運んでいく。使ったワインが古すぎたせいか、少し酸っぱい気がする。痛んでいるのなら嫌だな。今日中に食べきってしまおう。パンも新しいのを焼くか、買ってこなくては。
     一口すするごとにスープの事を考え、一口齧るごとにパンの事を考える。ジャガイモはもう溶けて原型がなく、ニンジンはしっかりと火が通っておいしい。肉はどこまで煮込んでも筋張っているな。グレミオが作るとこういうことはなかったから、やはり下処理が丁寧だったりするのだろう。
     ちらりと台所の隅に立てかけられたものを見やった。丁寧に梱包されたそれは、マクドール家お抱えの絵師が描いた絵だ。ここで食事を作るグレミオと坊ちゃんとテッド君、私とパーン。確かにこの家にあった、日常の風景。手慰みに描いたものを、綺麗に仕上げたのだという。グレミオとテッドの死を知った絵師は、少しでも坊ちゃんの慰めになれば、と持ってきたのは半年ほど前の事。
     いつ帰ってくるとも知れないと応えれば、馴染みの絵師は眉根を寄せて頷いた。私は彼が子供だと知っていたのに皆と一緒に祭り上げてしまった。セキア様、我々をお救いくださった英雄だと皆と拍手をし、声を上げた。我々の期待がどれだけ重たいか、セキア様に何を背負わせてしまったのか。私はあの方の笑顔も知っていたのに。
     絵の中の坊ちゃんはあの戦争のときには一切浮かべることがなかった、年相応の笑みをグレミオにむけている。
     それを描く残酷さを絵師は分かっていた。だが、描かざるを得なかった。二度と戻らないとしても、それがあったことを否定したくはないのだと。
     この絵は坊ちゃんのものだ。私にはあまりにもまぶしすぎる。
     いつか帰っていらしたときに、どうするかを問う事を許してほしい。
     私の役目はここを、帰ってきてもいいと思える場所にし続ける事でしかない。暖かく、乾いていて、清潔で。花は品よく飾られ、そこここに掛けられた絵はその家の栄光を感じさせ、歩くだけで深く沈むカーペットは美しく掃き清められている。
     私一人に出来る事は、それだけだ。
     ゆっくりと立ち上がり、いつもの仕草で絵をなでる。
     あまりにも懐かしいものは凶器にさえなる。坊ちゃんが見たくはない。己が失ったものを直視するなんて出来ないとおっしゃるならば、この絵は葬ったほうが良いのだろう。
     そう命じられたら、きっと私は情けなく泣いて縋るだろう。それだけは確信があって、絵をなでるたびに自嘲の笑みが浮かぶのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGカミューを失いたくないマイクロトフのお話。
    女神の加護 自分が無神経な人間だということは分かっていた。そしてそれを強く感じるのは、カミューという男と、よりにもよって親友と話している時なのだった。神に誓って、心から誰かが傷付けばいいと思って行動したことはない。知り合う人皆が幸せに暮らせるよう、騎士として手を尽くして生きてきたと思うし、実際のところ周りからの評価もそんなところだった。真面目で面白味に欠ける男。祖国を離反しても騎士としてなお行動しようとする石頭。けれどそんな男の側にいるのは、馬が一番あったのは、西の国からやって来た、奔放な男なのだった。
     その男が国に帰ると聞いたのは、同盟軍の勝利が決定的になり、城で記念の祭りが催された時のことだった。彼は最初に俺に話すつもりだったらしく、「実はまだ誰にも言っていないんだが」と、人々に配られたワインに口をつけ、自室の窓辺に寄りかかって言った。窓からは満点の星空と、誰かが組んだ焚き火の火が見えた。人々は歌い、踊り、花が舞い上がり、自分たちの勝利を喜んだ。人々は言葉に尽くせない高揚の中にいた。俺だってさっきまでその中にいた。脅威は去った。明日、盟主殿と軍師のシュウ殿によって、正式に建国が宣言される。各国の大臣もこちらに来る準備をしていると聞く。だというのに、お前は。
    2543