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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    ビクトールはカフェでケーキのお代わりをするし、フリックはそれに本気でカルチャーショックをうけるとおもう。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-08-21

     最近は暇になって良いことだ。専門家が増えたって事だからな。昼までに仕事を片付けて、少しばかり遅い昼食を一緒に取る事も増えてきた。ぽかぽかとあったかい日差しを受けながら、随分と品数の増えたハイ・ヨー自慢のランチセットを二人でつついていると、戦争なんてもう遠い話にすら思える。
     いつの頃からか、ランチセットには小さな甘いものがつくようになった。シュウの采配のおかげか、ありがたくも食料に不自由したことがないこの城だが、流石に嗜好品に近いものが出るようになった時には驚いたものだ。今となっては壁際にならんだショーケースの中に数種類のケーキが並んでいる。
    「……ケーキ、食おうかな」
     今日は本当に暇で、さっさと仕事に戻る必要もない。腹にはもう少し入るし、何より甘いものは別腹だ。
     ビクトールのつぶやきに、いままさにセットの小さなロールケーキを食べきったフリックが目を丸くした。
    「甘いもの、今食べただろ」
    「食ったけどさ」
     たまにはいいかなって。戦況は安定しているし、周りを見ればみんな幸福そうにそれぞれ好きなものを食べている。酒を入れるには少しばかり時間が早いが、ケーキあたりならこのどこか浮ついた気持ちをなだめるにちょうどいい。
    「ケーキを、追加で?」
    「お前、どこに引っかかってんだよ」
     フリックがビクトールの食べる量に文句を言うのは今に始まったことではないが、今日の反応はいつもとは違った。なにか、意味の分からないことを言っている。確かに通じる言語をしゃべっているのに、うまく理解ができない。
     そんな風情に、ビクトールは眉を寄せた。フリックがフォークを置いて腕組みまでして考えこむのを横目に、メニュー立てに刺さったケーキのメニューを眺める。秋の真っただ中。栗だのサツマイモだの、おいしそうなケーキが並んでいた。
     そのうちの一つ、濡れたような艶が美しいケーキが目に留まった。ブランデーもいいが、今はまだ昼の日中。コーヒーのいい奴が入ったという話も聞いたことがある。たまの贅沢、たまの楽しみ。
     ビクトールはミンミンを呼び止めると、メニューの中から一つを指さした。
    「オペラとコーヒーを追加でもらえるか? フリック、おまえは」
    「しかもオペラ?!」
    「うるせえな、なんだよ」
     まったく様子のおかしいフリックにビクトールは彼の意向を聞くのをあきらめ、ミンミンに一つ頷いてみせる。ほしいなら後で頼めばいい話だ。ミンミンはおかし気に笑って、軽やかな足取りで厨房へと消えていく。
     フリックはと言えば、ああと一人何かわかったように頷き、でもなとまた首をかしげた。
    「お前はいらねえのか」
    「……ケーキって、一日に二つも食っていいんだな」
    「んん?」
     なにをそんな当たり前のことを。そりゃあ食いたくもないのに食う事は無いだろうが、食いたいんなら食えばいい。それぐらいの余裕はいつだって持っていないと話にならない。フリックが手を伸ばし、ビクトールが戻したデザートメニューをつまみ上げる。
     誰が描いたか知らないが、モンブランやらスイートポテトと並んでオペラや桃のシロップ漬けのタルト、サクランボの小さなガトーのセットなんかが食欲をそそる筆致で所狭しと描いてある。
     戦時中とは思えない、幸せの具現化みたいな様相だ。
    「さっきケーキ食べただろう。だから、今日のケーキはおしまいなのかと思って」
    「食いたくないのか?」
    「食いたくないとかじゃなくて、一日に二個食うって選択肢がそもそも思いつかない。しかも、果物ののってない奴を……」
     そもそもケーキを食べている印象があまりないが、その数少ないなかでもフリックが食べていたケーキと言えばフレジエだの桃のタルトだの、果物がのったものが多かったような気がしないでもない。
    「……オデッサが」
     メニューを眺めながら、フリックが困ったように笑った。
    「ケーキは一日一個だって、まるで世の真理みたいに言ってたし」
     酒も甘いものも好んでいたオデッサはいつも眉を寄せて真剣にメニューを眺めていた。フリックがそれを嬉し気に見ていたのもビクトールは知っている。
     ミンミンがオペラをショーケースから出すのが視界の端に見えた。
    「で、お前は何を頼むんだよ」
    「……二つ食うと、怒られそうだよな」
    「誰にだよ」
    「オデッサ……?」
     あなたが頼んだの半分こにして。甘えた声でフリックにいうオデッサの顔がありありと浮かんで、ビクトールは小さく笑った。
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