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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    ビクフリ。ビク→フリ的な。傭兵隊を作るより前。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-07-10

     帰ったのはもうずいぶんと遅くなってからだ。
     酒場のドアをくぐったとたん、わっと喧騒が耳をうつ。大小さまざまな傭兵たちがそう広くもない酒場にたむろしている。常連たちは慣れたもので、いかつい傭兵のことなどお構いなしに騒いでいるから、いつもの通りに大賑わいだ。
     一応の旅の目的地であったミューズに居ついてひと月足らず。これからの話をする間もなく日銭を稼ぐ毎日だ。ミューズは隣国のハイランドと長く緊張状態で、稼げる仕事はいくらでもある。俺ともう一人ぐらいを食わせていくなんて簡単だ。だというのに本人はこの状態がどうやら我慢ならないらしく、ホウアン先生の所で何やら書類仕事なんて始めているようだった。
     まあ先生の下なら無理はさせないだろうし、そっちはそんなに心配していない。しているとすれば、別の事だ。
     まず酒場の主人に挨拶をし、そうして何も言わずとも手渡された酒を手に真ん中へ向かう。おかえりなさいと何人かに言われて、心のどこかで面映ゆく感じながらも返事を数回したところで目当ての姿を見つけて名前を呼んだ。見慣れた顔は酒精に赤くなって、どこか頼りなく緩んでいる。
    「おかえり」
     フリックの周りを囲んでいた俺の昔馴染みは、やたらと強い酒をグラスに注いで俺に差し出しながら笑う。
    「おうビクトール。遅かったな」
    「明日は一緒だよな、頼むぜ」
    「ほら飲め飲め」
    「自分の分がある」
     別に悪い奴らではない。ただ、これは習性だ。目の前にいる人間を値踏みする。それは単純な腕力であったり、剣の腕、紋章魔法の習熟度合い、頭の切れや口のうまさ。そのすべてだ。こいつはどんなふうに使えるのか、何を任せられるのか。逆に何を弱みとしているのか。
     それを自然と計り、自分の中にため込んでいく。そうでなければ戦場で背中を預けることなどできない。
     男たちはビクトールを知っている。剣の振り方、その思考。望みはかつてとは違うけれど、金よりも命を重んじる。今はどうやらもう一人飼ってるらしい。そのもう一人が問題なのだ。
     だからかこいつらはとかくフリックに絡む。俺よりもでかいやつらだから、すっかり肉の落ちたフリックが余計に細く見えるのがなんともこう、ちょっと嫌だ。一つの卓を囲んでいるから手を伸ばせば届く距離は、なんか近い気がする。
     出来るだけ自然に体を割り込ませた。でかい男のそばにフリックがあんまりいたがらないことは知っていた。
    「飯は食ったか?」
    「食った」
     お前は、と問われて自分も済ませたと答える。周りのやつらときたら、そんなどうでもいいようなやり取りをなんだか嬉しそうに眺めているのが気に入らない。
     気に入らないといえば、こいつらの判断材料に酒の強さが入っているのも気に入らねえんだ。フリックの前におかれたグラスは乾いていたが、その中にあいつらの好む酒がどれだけ入っていたかを知るすべが俺にはないときたもんだ。
     こいつだって立派な大人なんだから、自分の酒量の限界ぐらい分かっているに決まっている。だからこれは100%俺のお節介に過ぎない。
     フリックは赤くなった目元をこすって、じゃあと立ち上がった。ふらつくのを抑えようと何本か手が伸びるけど、それは全部そっと本人によって押しとどめられた。酔っているか、と聞かれりゃ、酔っていないとこたえるんだろうが、それが本当かどうか。
     ホウアン先生の所で事務なんてやっていても、こいつの本質は戦士だし、戦場でこいつ以上に役に立つ人間なんていない。俺はそれを知っているが、ここにいる奴らは知る由もない。
     値踏みをされているなんて、フリックにだってわかっている。あいつらの価値基準に合わせてやる必要なんてないはずだが、いつか戦場に戻った時に弱者とされちゃたまったもんでもないんだろう。
     それは分かる。いずれ思い知らせてやりゃいいだろ、と俺だって思う。
     あくびを噛み殺しながらフリックは皆に適当に挨拶をすると、ふらつきもせずに二階への階段へ向かった。傭兵たちはそれぞれの視線でもって、俺の連れを眺めている。
    「ビクトールお前さ」
     一人が言う。生返事をしながらグラスに口をつけた。俺もこれを飲んだら風呂入って寝ようかな。
    「あいつの事、好きなのか?」
     ちょうど飲み込んだ酒が気管に入って思い切りむせた。派手にせき込む俺をよそに、男たちは好き放題に言い募る。
    「そんな聞くまでもないだろ」
    「こういうことははっきりさせといたほうがいいと俺も思うがな」
    「ちょっと待て!」
     自分の声が悲鳴じみている。耳が赤いのも分かる。真っ赤になっているんだ。ガキかよ。
    「なんでそう言う話になるんだ?!」
    「いやだってさ」
     男たちは顔を見合わせ、それこそ色恋に目覚めたばかりの思春期みたいに目を輝かせた。
    「俺たちに取られたくねえって顔して」
    「違うだろ。俺たちがかまうのが気に入らねえ、って顔だ」
    「似たようなもんだろ」
     だから、それが何でそう言う話になるのか、と聞いているのだ。階段のほうに視線をやれば、フリックがまだそこにいて聞こえているのかいないのか、眉を寄せた面倒そうな顔していて、俺は鋭く息を吸い込む。
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