エンドロールのあとで マトリフが立ち尽くしている。闘技場には彼しかいなかった。抜けるような青空が広がっているが、マトリフの表情は痛みに耐えるようだった。彼の体は傷つき血を流している。しかし彼の感じる痛みは体のものではなかった。
マトリフは何かを探すように空を見上げてから、胸に手を当てた。やがて力をなくしたように膝をつく。戦いに勝ったはずのマトリフだが、そこに喜びはなかった。
「カット!!」
その声が響いても彼は暫く立ち上がらなかった。どこからか拍手が湧き起こる。私も自然と手を打ち鳴らしていた。迫真の演技に心が引き込まれて、監督の声が無ければこれが演技だということを忘れそうだった。
「お疲れ様です!」
その声と同時にスタッフが彼に花束を持っていく。このシーンがマトリフを演じた彼のクランクアップだった。監督の手を借りて立ち上がった彼は花束を受け取ってにこやかに笑みを浮かべている。多くのスタッフが労いの言葉をかけに彼の元へと行った。
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