満月に身を尽くし(仮題) 大陸の東側の国、その中で大きな領を持つブランシェット家。シノはその家の小間使いだった。小間使いの仕事は様々であるが、城外での見張りや庭仕事がシノの仕事にあたる。他に何人もの使用人達が屋敷の内、外と働く中、シノには特別な役割がもう一つあった。
それは満月の夜に訪れる。星ですら輝くことを許さないほどに夜空を明るく照らしている。月明かりで影をつくりながら、シノは普段は歩くことを許されない城の廊下を静かに進む。人の世ではないような、不思議な感覚だった。
一際豪華な扉の前で止まり、手をかける。押そうとした瞬間、来たことがわかるようにノックをしろと言われたことを思い出した。慌てて決められた回数ノックをすると、それは静かな廊下に大きく響き渡る。ずっと待ってたように開いた扉がシノを招き入れた。
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