指先に劣情(仮題) ヒースクリフの指先をつまみ、ゆっくりと丁寧に手袋を脱がす。細く、すらりと伸びているが、骨張った男らしさもある指。手袋の色とのコントラストがより華奢に見せた。ちらとヒースクリフの顔を伺えば、この後の展開を知っているからか深い青に情欲が滲んでいる。
「……早く」
「そう急かすなよ、坊ちゃん」
手を取って甲にひとつキスを落とす。薄い肉を唇だけで軽く食むと、ひくりと指先が強張るのがわかる。逃げないように、もう片方の手を強く繋いだ。まだ残る手袋のが、シノの指を摩った。
「シノばっかりずるい」
そう言って、ヒースクリフはシノの手から自分の手袋を奪って床へ落とす。シノが「おい」と声を出す前に、ヒースクリフは自分の指をシノのグローブと手のひらとの間に指を滑り込ませる。ぐっと手を這わせるように持ち上げられると、するりと、脱げる感触。あっという間にヒースクリフの手に渡ったグローブも同じように床へ落とされた。
どちらともなく、裸になった手を絡める。すり、と指の間を擦ってくる白い指や、普段はあまり触れない手のひらを合わせる感覚がくすぐったい。ヒースクリフはもう一つ、まだ服を着たままの手をシノの手から解き、改めて差し出して言った。
「早くって言っただろ」
「仰せのままに」
シノがそう返事をすると、ヒースクリフは眉を上げてむっと唇を結ぶ。そういう顔も可愛くて、シノの頬は緩んだ。
ヒースクリフはこういう場に主従の関係を持ち込むのを嫌がる。それは主従の関係に対して元々思うことがあるからかもしれないし、この行為が許されることではないと気づいているからかもしれない。シノもそのことを重々承知しているが、つい嫌がられてもそういう態度を取ってしまう。自分が彼を愛し、彼に愛されることで、自分がいるべき立場を忘れてしまうのが怖かったからだった。
差し出された手を取って、先程されたのと同じように脱がせていく。手袋と手のひらの間に指を入れ、少しずつ暴くように。まさか同じようにされるとは思っていなかったのか、ヒースクリフの頬はかっと赤く染まる。
「ヒースからしたんだから照れるなよ」
脱がせた指先にまた唇を寄せる。小さなリップ音が、静かな部屋に転がった。煽られたヒースクリフは、シノの手をそのまま捕まえると、指の方をつまみグローブを脱がせていく。丁寧に、細かな部品を扱うように。指先からグローブが抜け落ちるまで、どのくらい時間が経ったかはわからなかった。ただ、焦らされて暑すぎる空気だけがそこに存在する。
「シノ」
落ちていったグローブも気に留めず、ヒースクリフはシノの手のひらにキスをした。名を呼んだとき、寄せた唇から漏れる吐息は熱すぎるほどで。緊張で動けないシノを見つめるヒースクリフの瞳もまた欲に揺れていた。
「ヒース」
もう片方の手も伸ばして頬へ添えれば、欲を閉じ込めた青は瞼に隠される。
ぜんぶ、すきだらけだ。
揺るがない信頼を置かれていることが嬉しいと同時に、絶対に守り抜かなくてはという気持ちが強くなる。こんなふうに愛しく触れる相手が、たとえ自分じゃなくなっても、近くで、誰よりもおまえを思って。
ただ、言葉にしたらまた悲しい顔をされるから。全て閉じ込めて、柔らかな唇に自分のものを重ねた。