鏡の華はマゼンタに咲く 風が吹く。
捨てられ損ねたティッシュが一枚、舞い上がる。ふわふわと不規則に動くそれを眺めながら、神は独り、夜の町に佇む。
風が吹く。
枝葉が微かに揺れる。風の音も、木々が揺れる度に立てる音すら耳障りでも、神は耳を塞ぐこともせず、身動ぎ一つしなかった。
風が吹く。
でたらめな強さのそれは、人間には耐えきれずよろけるレベルだ。
そんな風の中、神は微動だにせず、今夜もビルの屋上から町を凝視していた。
「こんばんはぁ」
強風で荒れる町には場違いな、あどけない少女の声。声のした方を顧みることもせず、神は呟いた。
「また、貴女ですか」
「もー、三回目になるんだよ? 敬語なんてやめて、フランクにいこうよフランクに!」️
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