ハンク・アンダーソンの攻略法(序章)「ハンク、そろそろ同棲生活にも慣れてきました。次は結婚ですね。」
口に含んだコーヒーを思いっきり噴き出した。
「はぁ!?結婚!?」
「汚いですよ。」
「誰のせいでこうなってんだっ!」
口元を拭いながら叫んだ。アンドロイド革命後、行き場を失ったコナーを引き取って約3ヶ月。コナーとは友達以上恋人未満な関係が続いている。たまのスキンシップは軽いハグや、頬への挨拶のキス程度だ。現状に不満はない。この歳になって愛だの恋だの正直恥ずかしい。爆弾発言だった。突拍子も無いことを言い出した相棒を睨みつける。
「答えはNoだ。お前本気か?」
「何故!?僕は本気ですよ!結婚しましょう!」
クソデカボイスで迫って来るコナーから逃げ惑っていると、いつの間にかこの地獄の鬼ごっこにスモウも参戦している。
「あーーっ!!保留だ!返事は保留にしてくれ!」
「保留?」
ピタッと停止したコナーに安堵する。
「結婚なんて急に出来るもんじゃねぇんだよ。色々準備も必要だ。気持ちの整理だってしたい。だから一旦保留にしてくれ。」
「確かにそうですね。急すぎました。今日は保留という事で。」
暫く思案していたコナーは納得した様子で、まだ遊び足りないスモウの相手をし始めた。
「成程これがマリッジブルー…」
何か聞こえた気がする。いや、聞かなかったことにしよう。
翌朝、テーブルに並べられた書類とドヤ顔のコナーを前にし頭を抱えた。婚姻届その他諸々。
「僕にかかれば婚姻手続きなんてお手の物です。さぁここにサインを!」
どうやらこのポンコツは準備=結婚手続きだと解釈したらしい。
「確かに準備が必要だとは言った。お前にとって結婚は事務手続きなのか?気持ちの伴わない事務的な結婚?そんなの願い下げだね。俺は秘書を雇ったつもりはないし、秘書と結婚する気もない。それ片付けてさっさと支度しろ!」
「……はい。」
いつもは自由奔放なコナーがその日は恐ろしい程静かだった。