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    かつみぽいぴく

    @katsumi_kitk
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    かつみぽいぴく

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    セワしない!デート続き
    桜の下で炎さん撮ってるとこあたりです。

    このまま、このまま。
    カメラを構えて桜に囲まれたあなたを撮ってしまいたくなるけれど。
    けど俺ちゃんと学習しましたよ、周りの桜の方が明るいからあなたが暗くなってしまうって。なので俺はまだ中身のあたたかいコンビニコーヒーを剛翼に渡して、一度手元のカメラに視線を落とす。あなたのホークスは失敗をすぐに取り返す男なので。
    外撮ならこのくらい、よし、と決めていざファインダーを覗きエンデヴァーさんをその中に映し込めば、
    「あれ?」
    当の被写体である俺の恋人さんは――さっきは横を向いていた身体の正面をこちらに向けていて。自然に垂らしていたはずの腕は、もう空っぽになったペーパーカップを持ったまま何故かいつもみたくがっしりと組まれていた。
    ずいと持ち上げた顎は見慣れた輪郭のカーブ。炎をそこからめらめら燃え盛らせれば街中で見かけるヒーローエンデヴァーの写真に早変わりだ。
    「いやエンデヴァーさんさっきまで自然にしてたじゃないですか? エー、どうして?」
    「……」
    カメラを下ろすのと一緒に眉を垂らし思わず笑ってしまった。
    俺ちょっと目離しただけですよ。
    む、と更に少し尖った唇はこれではいかんのかと言わんばかりで。恋人可愛さにダメ出しの前にひとまずそのままパチリと撮ってしまう。
    「ハイじゃあ一枚目。桜とエンデヴァーさん」
    確認してみれば、マー桜の下でこんなに身を固くして映る人、そうそういないでしょという出来栄え。もしくは入学式で気合の入った新一年生が看板の横でふんぞりかえってる時くらいだ。あなたの小さい頃を垣間見た気持ちになるが、いや今でもあながち間違っていないかもしれない。なんせこのひと情緒一年生だってサイドキックの二人お墨付きなので。
    ああ、本当に写真得意じゃないんだなぁ。で、俺に任せてくれたんだなぁ。
    それを噛み締めてから。カメラを身体の脇に除けて、俺はついさっきまでいたあなたの傍にもう駆け戻ることにした。
    「ハイじゃあまず腕組みを解きましょっか!」
    「ム…」
    ひょいとカップを受け取りすぐ傍で見上げながら笑う俺の指示に、桜の下で仁王立ちしたエンデヴァーさんが右眉を動かした。
    腕に触れるとコートの柔らかい素材が気持ち良い。だがその下に隠れている腕の感触は裏腹、筋肉が詰まって逞しい硬さ。もうがっちりと組まれていて俺が引っ張っても外せっこない。
    「エンデヴァーさんってこう……こんな感じで若い時も威風堂々卒業写真とかに映ってそうですもんね。気の抜けたとこなんか撮らせんというか。でも焦凍くんの入学式とかではもっと柔らかく映ったりしたでしょ?」
    「焦凍の入学式だぞ、気を抜くわけがなかろう全力だ!」
    「おーっと!シツレーシマシタ!それに比べたら抜いてくれてますよね!それができるならあともう一歩ですよ!」
    ゴウッと目元に噴き出した炎で一瞬俺の恋人は活火山になる。近くを舞いかけた花弁があおられて慌てふためきあなたの周りから逃げていくのが余計におかしくって顔が緩んでしまう。
    相変わらず患い息子さんの名前を出すとすぐ声がおっきくなってしまうし、一気に大人気なくなってしまう。もー。それを惚れた欲目でかわいいと思ってしまう俺も大概だ。
    ペーパーカップを一枚だけ出した剛翼に任せてから、爪先立ちになりエンデヴァーさんの怒りがちな逞しい肩をふわっと叩く。常に気を張っているそこを安心させるようにマッサージにも満たない力でゆっくり何往復も撫でていく。それと一緒にゆっくりと口でも手ほどきを始めることにした。
    「じゃあ腕組みしたままで、肩の力抜いてみたりとか、そこからいきましょーか。リラックスして、それだけでも映り変わってきますよ」
    炎を纏ったあなたを上手く切り取ることはできないけれど、映る側の感覚を伝えることはできる。
    さっき息子さんに熱を上げたエンデヴァーさんは俺の読み聞かせるみたいな声に、ぎゅっと力の入っていた口許を少しずつ平らに戻していってくれる。
    「ちなみに最近で違うポーズをした写真は?」
    「あれだ。芋を持たされたやつだ」
    「突然の芋!……あーヒーローチップスのパケですか!身近なNo.1の写真っていうと子供からしたらやっぱりアレですよね。っていうかあの仕事のことそんな風に言います?あなたくらいなもんですよ?」
    あなたの一言に三つも四つも惜しげもなく俺が返せば、エンデヴァーさんは相槌の代わりに鼻を鳴らして答える。これは悪くない時の反応ですよ。覚えていってくださいね。
    ――さて皆さんご存じのヒーローチップス。ヒーローを起用したお菓子なんていくらでもあるが、これはその中でも特別だ。
    ヒーローカードがおまけについてるこのロングセラー商品は歴代のNo.1ヒーローだけがパッケージになれる、子供にとって一番身近な憧れの象徴でもあるのだから。
    なんて、そんなルールはこないだまで誰も彼もが忘れていた。
    なんせ中のカードはその年のチャートを反映して変更されるも、外袋はずっとオールマイトだったから。
    それだけずっと元No.1は揺るがずそこにいたことの証でもある。
    俺も生まれてこの方ずっとオールマイトのしか知らないし、変わるのを見るのは初めてになる。
    そんな特別な意味をもつお菓子であり、そして――オールマイトからエンデヴァーへとどこよりも早くパッケージを刷新したのもこの商品だった。
    No.1を銘打っているが、オールマイトからエンデヴァーにパッケージを変え売上が落ちるのを恐れて現行のままいこうとする製品ばかりのなか、一番大手だけが彼に代替わりを打診した。
    新しいNo.1の到来を微力ながら応援したい、と。営業が伝えてきた社長のメッセージを古参SKの二人から聞いた。(あとあなたがこのお菓子がめちゃくちゃ嫌いだったってことも。No.2時代の封入されるカードの撮影は本当に大変だったと思い出しただけで二人は顔をげんなりさせていた。)
    ビルボードチャートのすぐ後から企画はあったけど、相手方の熱意が満ち満ちたのは福岡のあの戦いの後だという。
    逆風からのスタートだったけれど、あなたに対する風向きは少しずつ、それでも確かに変わり始めている。
    ――あ、ちょうどいい。折角なのでこれもあなたをやらかくほぐすのに使おう。
    「……アノ。今のあなただから聞けるんですけど。俺小さい時からあのパケ見て、ずーっと思ってたことがあるんですけど……」
    「何だ」
    桜にも聞こえないようにと手を添えて内緒話のポーズを作ればエンデヴァーさんは腕組みしたまま俺に顔を傾けてくれる。ひと月前の別れ際もコレで痛い目みたのに。もう忘れちゃったんですか?今は大丈夫なやつですけど!
    「……ここだけの話、あのジャガイモ本物でした?」
    俺がわざとらしく声を潜めて聞けば、つられたのかエンデヴァーさんも少しだけ声を落として真面目に答えてくれる。
    「いや、造り物だった」
    「……ですよね!おかげで俺の長年の疑問が解けました!」
    俺が大げさに肩を落として息を吐くと、それを見ていたエンデヴァーさんの口許がふっと和らいだ。作戦成功だ。
    「そんなことずっと気にしとったのかお前は」
    「だってあなたしか分からないじゃないですか!」
    「それはそうだがな」
    旧No.1のの名前は出さない。なんせ俺の口が「オ」の形になっただけで顔顰めるのだこの人。そんな口しょっちゅうしてるってのに、あなた曰く「奴の名を言おうとしているのか分かる」とのことです。どんな個性ですか。なんて。
    気を良くしてくれたあなたの肩は、きっとあなたの気付かぬうちに随分とやわらかくなってくれていた。
    それを見つけて俺の眉が綻ぶ。じゃあ次の段階だ。
    俺の両手は今度は恋人の上向いた両頬を包む。乾燥しがちなあなたの肌ざわり。小指側の外側から掌、付け根にまであなたの固めの髭があたる。
    「その調子です。顎もそこまで上げなくてもいいかも知れませんね。あなたが強いヒーローなのはもう皆知ってますから。違う角度のお顔もファンに見せたげましょうか」
    「そういうものか」
    「そうですよ、色んな顔が見たいもんですよ。あ、それとあまり力込めて見つめんでも、あなた元々目力強いのでほんのり注視してあげるだけで充分なんです」
    「フム」
    アドバイスに耳を傾けては、俺に頬挟まれてるのにそのまま僅かに頷いてみせる。瞼も一緒にた。おかげで髭がこそばい。たまに見せる真面目さと、年齢の割にすれていないところについぐっときてしまう。
    ほんと、あなたの些細なうごきひとつ、目配せや視線ひとつでどれだけ人の心に影響を与えるのかいまいち自覚していない。
    あなたのしっかりと引き結ばれている口が、その端っこが少し上向くだけで俺はこんなにも心が浮き上がってしまうのに。
    自覚されて使われたら俺は堪ったものではないのだけれど。なのですっかりカメラ慣れしても少しは疎いままでいてくださいね。
    なんて思っていることなど知らないだろうエンデヴァーさんの両頬を包みながら、こっち向いてとお顔を下げさせようと促す。上背のある恋人はすんなりと俺へ顔を傾けてくれた。
    両手のあいだで澄んだ青が真っ直ぐに俺を見て。少し下に顎を向けたから彫りの深い顔にうすく影ができて――さっと、瞼の裏に焼き付けた、はだかで俺に被さるあの晩のあなたと重なる。まださっき噴き上がらせた炎の熱が残った肌があの晩の余韻みたいで。
    ああ俺、ひと月ぶりに恋人の肌に触れているのだと今更に気付いた。ぐっと胸の内側で熱が生まれたのがわかる。
    嘘のつけない掌も熱くなってしまったのか、怪訝な顔になったあなたにも気付かれてしまう。
    「どうした」
    「いや……俺、このお顔とキスしたんだなぁって」
    あなたのお顔堪らんですけど。でもきっと、ここまで整っていなくても大好きだった。
    ずっと背中を見てきた人がまっすぐ俺のこと見て、色んなことを許してくれてる。出来すぎってくらいの幸せを桜の下で噛み締めてしまう。のだが、俺よりも桜たちに近いところにいる恋人のお返事はすげない。
    「何を言っとる」
    一つ瞬きをした後で綺麗な眼光が細まる。あ、照れお怒りがくるかな。そうして欲しい、こんな昼間からって。叱ってくれませんか。
    けど次のセリフは予想外のところに飛び火した。
    「キスどころじゃない。顔中を舐めたり吸ったり噛んだりされたが?」
    不敵に告げられてしまえばあの晩、鼻にかかった甘えた声や湿った息を漏らしながら、あなたの髭や鼻筋、頬を夢中で啄んでいた記憶がありありと蘇る。口の中にじわ、と思い出す大好きなおとこのひとのはだの味。
    初めて、の練習の日。あなたから滲む色気にあっという間に堪らなくなってしまったのだった。
    指摘されついかっと耳が熱くなるのだが――
    「……イヤ噛んではないでしょ!」
    「どうだか。この辺りを齧られた覚えがある」
    「ちっっとも凹んでませんよ!?ちょっとからかわんでくださ、マーしてやったみたいな顔して!いーですよもうその顔撮っちゃいますからね!」
    悪い顔してみせるあなたからぱっと手を離すと、真面目なこの人はそのままの顔の角度をキープしてくれてるんだから表情とちぐはぐだ。
    いつものあなたみたくプリプリと怒りながら距離を取る俺をすっかり気を良くしたエンデヴァーさんがニヤリと見ている。
    こんなに格好良いのにあなた、浮かれ方が完全にオジサンのそれなんですよね。
    今晩本当に齧ってやりますからね。知りませんよ。そんなにお鼻高いんだから俺がちょっと齧って低くなったところで、あなたが格好良いのちっとも減らないんですから。遠慮なくいくんで後悔せんでくださいよ。
    なんて。
    穏やかに、そしてふざけ合いながらカメラに対する鎧を脱がせていったけれど、いざ距離を空けた俺が一眼レフを顔元まで持ち上げれば――反射かそれとも長年の無意識か、エンデヴァーさんの肩や腕にやはり少し力が入りかけて。
    俺の顔がレンズの向こうに隠れてしまったから、だったら堪らないのに。
    「あ、カメラ覗いてるの俺ですよ。俺でーすあなたのかわいいホークスですよーあと齧ってませーん」
    「わかっとるわ、子供相手の様な真似をするな。それに往生際が悪いぞ」
    「えー譲らんこの人……」
    すかさずファインダー覗いたまま挙げた手をひらひらさせ指でキツネを作ってみせれば、呆れたとばかりに肩がさっき覚えたばかりのなだらかさを思い出してくれた。
    うん、もう大丈夫そうだ。
    片目を閉じたままピントをあなたの青い目に合わせて、未だにぎゅっと嬉しそうに跳ねる心臓に合わせてシャッターを切る。
    「……あーあ!かっこい!知ってましたけど!」
    背面に映った写真を確認すると、頭のけ反らせて放りだすみたいなぞんざいな声をあげる。見上げたこぼれ落ちんばかりの天井桜は、どれどれと身を乗り出してあなたの写真を覗き込んでくるみたいだ。
    他者を寄せ付けんばかりに肩肘を張り浮かせていた腕組みは穏やかに身体に沿って。
    太い首からなだらかな肩のシルエット。
    俺を見るあなたの顔の角度。鼻の雄々しさと眉山の高さが際立って、それでもその下から見つめてくる眼光はさっきの桜越しの光みたいに眩しいけど今まで見たよりずっと穏やかで。
    絵になる男が桜を背負ってそこにいた。
    片目で見つめる俺のはじまりの人はやっぱり最高に格好良い。撮影する立場になって改めて見れば、精悍な顔立ちも鍛え抜かれた肉体も撮り甲斐がある。
    「ずるくないです?急に海外俳優みたいなんですけど」
    「忙しい奴だな、むくれるのか褒めるのかどっちかにしろ」
    「あ、」
    ここだ。


    「エンデヴァーさん」
    「どうした」
    「いいですよこれ」
    駆け寄るとエンデヴァーさんの隣に寄ってカメラの背面に今さっき撮った写真を表示させる。
    「……これが俺か?」
    「そうですよ」
    俺が切り取ったあなた自身をあらためては目を瞠る様に少し得意げになってしまう。
    「あなた、たまに笑う時ゆっくり瞬きするでしょ。あれ好きなんですけどさっきしたから捕まえてみました」
    まるでろうそくの火消しがそっと炎に蓋を被せる様に。
    瞼が下りきった時、うんと優しい顔になる。
    腕組みをしているけど穏やかで、印象強い青い目が瞼の向こうに身を隠せば今度は顔立ちの精悍さが際立ってくる。
    「……ふむ……」
    毎日鏡で見ているだろう自分の顔を珍しげに眺めている。
    もしかしたら両の瞼を閉じたあなたを見るのは初めてなのかもしれない。
    こんなに素敵なのに四十余年知らずに生きてきたんですか?勿体ないですよ。
    「炎出してると見えないですけど、睫毛も赤いの素敵ですよね。伏せ目になると頬に少しふっさりしてる睫毛が乗るのが好きなんです。ほら引きでもここちょっとだけ見えるでしょ。結構濃く生えてますよね。炎で囲まれる目を守る為ですかね」
    そう好きなだけ補足してから元の距離感へ戻ろうとする俺を、被写体の恋人さんは何も言わず、ただそうっと見送ってくれる。
    次に俺が片目をつぶってレンズを目の代わりにした時には、あなたの肩はなだらかなままだった。
    よし、この調子でどんどんいきましょう。
    「おいどこに行くんだ」
    「あ、こっち向かずにそのまま!そのままそっち向いててください」
    正面に戻ってからそのまま左にずれようとすれば、顔で追いかけてこようとするエンデヴァーさんに待ったをかける。あなたの知らないあなたの角度も撮りたいんですよ。
    大きな恋人の周りを少し距離とってくるくる回っていると、太陽の周りを回る惑星みたいな気持ちになってくる。水星よりもずっと近い。

    「ホラ格好良い。知ってました。どうです見てくださいよこれ」
    「はい最高。また今日イチを更新しちゃいましたよこれどうぞ」
    「……エンデヴァーさん。ヤバイ。これは大変」
    一枚。また一枚。俺の好きなあなたのとこを撮って、ぱっと映ったそれを確認して、あなたへ駆け寄る。
    「知ってました?真っ直ぐ前を向いてるあなたの、ちょっと後ろからの角度格好良いんですよ」
    「正面も最高ですけど角度つけるとほら。鼻筋の向こうに見える目許とここ、くってなってる眉の下の窪み。いいですよね」
    「あなた、たまにこっち見ながら眩しそうにしますよね。それも好きです。ほら」
    「瞬きした後って水分いっぱいで目が一番綺麗な瞬間らしいですよ。あなたの目が瞬きするの見てるとあー本当なんだなぁってすごい分かります」
    「ここからの耳の形もいいと思ってました。どうです?」
    と。肩をあなたの胸にくっつけて、俺ずっとあなたのここがいいと思ってましたと解説して、満足してから次の最高を切り取りに焦点距離へと駆け戻る。振り向くと俺のことを見てくれている恋人。
    そうしてまた一枚撮ってはまたあなたの素敵な部分を切り取って、あなたの許に帰りどうですと差し出して。きっと雛鳥にご飯を持って帰る親鳥と同じ動きをしている。
    ヤバイなどうしよう。楽しい。
    好きな人を撮るのがこんなに楽しいなんて、あなた知ってました?
    「これはですね――……」
    最初は「そうなのか?」とか「む…」とか逐一小さく反応くれてたエンデヴァーさんは何度か前からは瞬きだけを返してくる様になって。
    その顔もいいな、でもこんなにくっついてたら撮れないんですよね、と見上げて考えていると、そのまま柔くエンデヴァーさんの胸にバックパックごと抱きしめられた。両手でカメラを
    「エッ何もうおしまいです?まだ全然撮ってませんけど!?」
    「……」
    「もー邪魔せんでくださいよ!まださっきの齧った濡れ衣怒ってますからね俺!」
    「……スマン」
    俺にしては珍しくあなたの腕の中で暴れると、苦々しい何か言いたそうな顔で離してくれはした。
    いや怒ってるは嘘ですけど。
    だって本当に怒ってる奴はまだ怒ってるなんて言わないのだから。
    それはそうと俺を捕まえる為にとうとう腕組みを崩してくれたのだ、これを逃す手はない。
    「今度はこう、髪をかき上げてみてくれません?撫でつけるみたいな」
    「お前がよく雑誌でしているようにか」
    チェックしてくれてる、うれしい。後で言いますね。照れちゃうと困るので。
    エンデヴァーさんが右手を持ち上げて、根元からしっかりと立ち上げた髪に指先を差し込む。
    肘から曲げられて、コートの袖が引っ張られて太い手首がみえる。薄手のダークグレーのニットの下、中に着込んだままのヒーロースーツがちらりと垣間見えるのが嬉しくてまたシャッターを切る。
    さっきまで撮影ポーズなんて腕組み仁王立ちしかしたことがないみたいだったのが嘘みたいだ。
    「そう、……うん、いいと思います飲み込みが早い!お手本がいいからですかね?」
    「ぬかせ」
    俺の軽口を諫めてくれる時の目を細める様もしっかりと逃さず撮ってしまう。
    そのまま一枚、また一枚。そしてあなたの許に帰る。
    「これ、さっきのも良かったですけどーー」
    「ム」
    ずっと一枚撮っては駆け寄って再生ボタンを押していたのだが、そこで初めて前のと見比べようと左右のボタンを押した。すると戻るつもりが進んだのか、次がない最後の写真から飛んで――一番最初に戻って表示されてしまった。
    今日の記念すべき一枚目は覚えているだろうか。事務所の所長室で試し撮りを消させてもらえなかったやつだ。
    明るい筈なのに薄暗く映った室内で、机にかけたエンデヴァーさんの炎だけが浮かび上がって鬼火みたいになってる。
    うわ、と思った時にはもう遅い。完全に隣にいる本人に見られてしまった。
    「スミマセン消します!」
    「駄目だ」
    オニマーさんが本当に教えてくれなかったので、この機種を検索かけて調べた削除ボタンを押そうと慌てた指が泳ぐのだが、先に上から覆われて捕まえられてしまう。
    「あなたのことこんなでっかい誕生日ケーキのロウソクみたいにするつもりじゃなかったんですって!」
    「さっきも言っただろうが、消すな」
    「一枚目が失敗なんで嫌ですよ俺ー」
    「駄目だ。残しておけ」
    「エー…」
    「お前だって俺が撮り損ねた写真を保存しているだろうが」
    「やって……」
    ぶれた、と添えられて送られる写真、かわいくて堪らないんですもん。トーク画面ごとスクショしてありますもん。
    「お前にも上手くできん最初がある証拠だ。これは後で現像する」
    「チョット!」
    「日頃の仕返しだ」
    「やめてくださいよー!」
    カメラが俺とエンデヴァーさんの大きな手に挟まれる。ぐっと向こうに引き寄せられたかと思うと。
    「それとだな。俺にも一枚撮らせろ」
    「今日の趣旨変わってません!?」
    あなたのカメラ嫌いを和らげるんじゃなかったですっけ!?
    けれどエンデヴァーさんは譲らない。更にぐいぐいとカメラを持っていこうとする。俺、首から提げてるのに。
    「えー~…エンデヴァーさんに一から使い方教えるのめんど、複雑だから今度にしませ」
    「おい今面倒臭いと言ったな」
    「そこまでは言ってませんね〜」
    ぐっと俺の方に一眼レフを取り返すとエンデヴァーさんがまたそっちに引っ張る。俺の手ごと。それを今度は俺が抱え込むようにしようとして、また引っ張られる。
    折角こんなに絶景なのに。桜の下、カメラの取り合いなんてどこのカップルよりもしょうもないことをしてるこの国のツートップヒーロー。
    「寄越せ。俺も撮る」
    「もー何なんですこのやり取り~」
    他のおともだちが遊んでるおもちゃが欲しくなっちゃう赤ちゃんですか。
    「やけに楽しそうにしおって」
    本当にそうでした。
    ――なんて俺が思ったからか。
    不意に植え込みの向こうから高い子供の声が聞こえてきた。
    こっちのがあなば?なんだって、秘密基地!と奥まった入口ではなくがさがさとツツジを掻き分けてこようとする気配。そちらに気を向けたエンデヴァーさんの手の中から抜け目なくカメラを救出すると、ヌウ、と隙をつかれた彼が呻くもそれ以上は口にせず睨んでくる。
    「行きましょっか」
    潜め声でエンデヴァーさんに告げて声のするのとは反対側の入ってきた方向へと背を押してしまうのだ。
    不服そうだが俺の提案には賛成なのか押されて動いてくれるエンデヴァーさんと同時に座らずじまいだったベンチに置いてあるコーヒーもつつがなく回収して。
    「秘密基地に誰かいたらガッカリでしょうし。子供の夢を守るのもヒーローの仕事でしょ?」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍❤❤❤🙏🙏🙏😭💕💞💒💞💞
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    かつみぽいぴく

    PROGRESS12/12炎ホプチの新刊の冒頭らへんを進捗上げです。
    ホ視点と炎視点バトンタッチ文体。
    ホちゃにテディベア扱いされて焦らしプレイされる炎さんのさらっと読めるイチャイチャすけべ本の予定。
    前半は焦らしプレイ、後半はケダモノセッ気味のいつものやつです。
    全年齢部分は終わったのですけべを呻きながら書いてます。
    3万字ちょい、文庫70~80P予定。通販もあるよ!
    【12/12新刊全年齢部分】カワイイのはオレだけにして?

    今日の俺たちのパワーバランスはこちら。

    「エンデヴァーさん。俺、まだ怒ってますから」
    「……」
    「理由、わかってますよね?」
    「ヌ……」
    あなたが恋人羽毛の触り心地を追い求めて買った高級クッションを我が物顔で抱き締めつつ、俺は唇をツンと突き出した。
    ソファに陣取り足まで乗せてる俺と、そばに立ったままのあなた。
    こうまでしたら分かるでしょ? ヒーローとしては異音一つ見落とさないのに、恋人の扱いにはまだまだ疎い雛鳥さんへ、『ご機嫌ナナメですよ』のサインを贈る。
    爪先でエンデヴァーさんの脛をつんつんと柔くつっつくのもオマケだ。
    叱られる子供みたいに佇むエンデヴァーさんも、「何だその口は」とか「足を乗せるな」とか言わない。居心地悪そうに唸るだけ。ここあなたの家なのに。
    16801

    かつみぽいぴく

    PROGRESSトップ2の恋愛事情はデートひとつもセワしない!後編その1
    ベッドで恋人撮影会する炎ホ すけべの導入のムード作り頑張りました
    以前Upした書きかけ進捗の改訂版です~
    もうちょっと先まで続けてぽいぴく投げます
    「フム……」
    大きな親指がやさしく俺の下瞼を引き下げる。
    俺はされるまま、それに合わせて見上げていたあなたの顔よりも視線をもっと上へと飛ばした。
    まず右目、そしたら次は左目。
    終わると今度は顎をとられるので、分かってますよと促されるより先に舌を伸ばして差し出した。
    でもキスする為じゃない。
    口のなかの粘膜の色を確かめる用だ。
    ――個性増強剤〝トリガー〟を摂取した者は舌が黒く変色する特徴があるから。ヒーローとして当然だ。だけど、ですけど。
    あなた、ついさっき事務所でもおんなじことしたのに。
    あれから三十分も経ってませんよ。
    俺のとった部屋に入って初めてするのがキスじゃなくてこれなのだから、もうこの人はって呆れる様なあなたホント裏切らないなぁって笑ってしまう様な心地になる。


    エンデヴァー事務所に戻りホテル並みの来客用宿泊室をお借りして、きっちり二時間経過観察。結果は良好問題なし。
    シャワーも浴びて、現場からちゃんと回収したカメラで今日撮った桜とあなたを見返していれば二時間なんてあっという間だった。
    肩にカメラを提げて所長室に顔を出せば、もう私服に着替えたエンデヴァーさんが帰り支度をして 9962