春になっても 吐く息が少しだけ白い朝、六頴館行きのバスの中で辻はよく知った人の姿を見つけた。
明るい髪が目立つ、ネックウォーマーにもカバンにも手を抜かない隙のない格好の先輩。犬飼だ。
つり革に掴まってスマホを見る彼の表情は朝の高校生らしく少しだけ不機嫌に見える。
バス停に停まって乗客が動いた流れに乗って、辻は犬飼の隣に立った。
「おはようございます。」
犬飼は一瞬気づかなかったようで、耳のワイヤレスイヤホンを片方外すとパッといつもの笑顔になって、
「おはよ、辻ちゃん。」
と挨拶してくれた。
「あっという間に3月ですね。」
「ホントだよ。ランク戦やってると学校の行事とか全然気にしてるヒマないね。」
窓の外の並木も蕾をつけ始めた。若葉の芽がのぞく木もある。
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