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    クローゼット⑫
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    ##クローゼット
    #ホ室長
    headOfTheEChamber
    #サンウォン
    #ギョンフン
    #クローゼット
    closet

    週末「えっ……?」
     訪問者を出迎えたサンウォンは戸惑いを隠せず、そう感嘆した。
    「サンウォンさん、はじめまして」
     ゴージャスな美女がにっこりと微笑んで、右手を差し出す。
     一筋縄ではいかないと初対面でもわかる迫力で、人格者であると感じさせる。
     これがオーラというやつだろうか。若く見えるが、その落ち着き方からして五十は過ぎているだろう。実年齢が読めない。
     ギョンフンがやけにめかし込んで出掛けたと思ったが、このためか。『退魔師 ホ室長』には無駄で邪魔ですらあるルックスの良さが、彼女の横ならしっくりくる。
     おい、何の補足説明も無しかよ。
     そう目で訴えるも、ギョンフンは彼女の後方で完全に『無』の表情で棒立ちしている。
    「――はじめまして」
     握手に応じた瞬間、サンウォンの雑念は飛び、彼女の不敵な瞳に捕まった。



     前の晩は、ギョンフンと映画『パシフィック・リム』を観ながら、ピザを食べていた。
     仕事が忙しくなければ、イナの不在時はゆっくり恋人として過ごしている。
     ギョンフンはイナが、父親の恋に拒否感を示すのではと思っていたようだが、いらぬ心配だった。サンウォンの予想通り、ギョンフンが居候することに特に異論は無いようだ。
     未成年の少女にやたらに成人男性が関わることも良くないのでは、そうも心配していた。だがイナはボディガードのような存在を求めており、成人男性であることはむしろ安心材料だったらしい。それなら、行方不明事件を知る人にも納得のいく説明であったし、サンウォンの助手と紹介するより送迎や同伴も自然だ。事実ギョンフンは、未払いの報酬を盾にちゃっかり転がり込んだような顔をして、さりげなく父娘を守ってくれていた。わざわざ身分を偽る必要は無かったのだ。
     やっと父娘らしくなったら今度、イナはサンウォンを放ったらかしで、ティーンらしくいきいきとし始めた。今夜は友達の家でパジャマパーティーをやるそうだ。初めて行く場所では何が起こるかわからないと、念のためギョンフン同伴で送り届け、安全確認した。
     そのうち、この家にもイナの友達が泊まりに来たりするのだろうか。
     男の一人親だから、よっぽど保護者に信用されないといけないだろうが、ギョンフンもいると思えば随分、気が楽だ。もちろん、二人揃って振り回され困り果てる可能性も高い。
     イナとの予定がなければ、ギョンフンと遠出したり、雑談の中に出てきた映画を見せられたりする週末が恒例となりつつある。
     薦めてくる映画は大概、食べたり話しながらでも観ていられるし、文句を言っても怒られないようなツッコミどころが多数ある。完全に乗れなくとも、眠くなるほどの退屈はしない絶妙なサブカル度で、学生時代の友達とのやり取りに近い過ごし方ができている。
     異世界に繋がった海底の裂け目から突如出現した怪獣を、巨大ロボット、イェーガーで倒す。『パシフィック・リム』はそんな話だ。
     特徴的な設定は、操縦のために相棒と意識を繋げる「ドリフト」と呼ばれる同調行為。
    「どうせ同調するなら霊体験じゃなくて、イェーガーを操縦して怪獣を倒したりする方がときめくなぁ。まあ、街を破壊されるのは嫌ですし、できれば自分は闘いたくないんで、あくまでフィクションとして眺めるならって話ですけど」
     ギョンフンはサンウォンと恋仲になる前にも、車の中でテーマ曲を流しながらそう語っていた。
     自分は面白いとは思わなくても、ギョンフンが何故その映画を好きなのかは理解できる。
     同調、異界との通路。人知を超えた力、因縁、仲間を得てそこから離脱する物語。
     サンウォンとギョンフンも意識を繋げ、ドリフトと似た体験をしてしまった。
     自分がつまらない人間なのはよく知っている。ギョンフンだって出会ってすぐそう言い捨てたから、いつ愛想を尽かされても何も不思議ではない。
     それなのに実際は、ギョンフンはサンウォンといる時もずっと楽しそうだ。
     妙に発声のいい笑い声を聞いていると、面倒で細かいことはどうでも良くなってくる。
     ルールのよくわからない武術で対決する主人公たちを観ながら――前々から気にはなっていたが、ギョンフンの師匠はどんな人物だろうか――そんな疑問が浮かんだ。
    「俺が一番、君を知ってると言ってたが、師匠はどうなんだ?」
    「あー……師匠は別です」
     ギョンフンは視力の悪い人間がするように目を細め、低い声で答えた。
    「それは、ちょっと妬けるな」
    「師匠に嫉妬?へぇ、アジョシが?まあ、親代わりみたいな人ですから、そこはアジョシとは別枠ですよ」
    「会ってみたい」
     単純にギョンフンの師匠がどんな人間なのか興味はある。
     ギョンフン以外の退魔師を知らないから、人物像を予想するのは難しい。
     発想が貧困過ぎて、フィクションによくいる白い髭の仙人のような老師しか浮かばない。
     少なくとも、ギョンフンが二十歳前後の時に退魔師として師事される立場だったわけだ。親代わりと言うなら、サンウォンよりもかなり年上なのは間違いないだろう。
    「紹介はしたくないです」
    「なんで」
     サンウォンの見る限り、ギョンフンは仕事でしょっちゅう怪我をして帰ってくる。いつまたミョンジンのような強敵に出くわさないとも限らない。一度限りでも、挨拶と連絡先の交換くらいはしておいた方がいいだろう。恋愛関係になってしまったし、意外なことで世話になることもあるかもしれない。
    「会えばわかります」
     ギョンフンは何とも言えない顔で、矛盾した答えを吐いた。
    「どっちだ」
    「師匠には何も言わなくても顔を合わせたら全部、ばれちゃうんで――未熟者なのが露呈して気まずいです。会うならアジョシ一人で会って」
     なるほど。お説教でもされるのだろうか。
     イナの事件の時だって、悪霊に罠を張って待つ間ビールで酔ってソファで寝こけていたら、結界を破られて腹を刺され死にかけた。
     確かに、師匠には知られたくない大失態だろう。
     おそらく、依頼人を異界に送るのも禁忌だ。真面目な人なら、この家に転がり込んでヒモみたいに暮らしているのがバレるのもまずいのかもしれない。
    「未熟者?国内ナンバーワンだろ?あんなに強気に売り込んできておいて結局、詐欺かよ」
     しかし、油断して痛い目にあったものの死にはしなかったので、ある意味運はいいのか。
    「上には上がって言うでしょ。ナンバーワンといっても、同率一位も有り得るし、大会があるわけでもないです。宗派の中での序列みたいなものは、ありますけどね。でも、国内で名乗りが退魔師の同業者限定なら多分、師匠が一番で僕が二番だって言われてたから、別に嘘はついてないですよ。まあ、師匠は中国の人なので、単純にこの国での母数が少ないって話ではありますが」
     なるほど。その師匠がほとんど他国にいるから、自分が一番でいられるということか。
    「いずれは挨拶させてくれ」
    「そういう話をしてると来ちゃうんで、やめてください」
    「それは凄いな」
     ギョンフンの母親もサンウォンの夢枕に立ったわけだから、そういう勘が作用すること自体には、もう驚かない。でもギョンフンがそれを当たり前のことのように語ると、普通の人間と世界の見え方が全然違うのだと思うことはある。
    「凄い人なんですけどね」
     けど、なんだろう。
     映画の中で、少女が泣いている。
     怪獣が両親を奪ったのか、彼女は独りで逃げ回っている。
     親を呼びながら泣き叫ぶ彼女の声が、サンウォンが見たミョンジンの記憶と重なった。
    「なぁ。イナが――ミョンジンとまだ同調してるって話はどうなった?」
     ギョンフンの母親を思い出したことで、先日ギョンフンから報告された、イナの夢の話を連想する。
     行方不明になったことは、イナ本人には伏せてある。記憶がないのは体調を崩して外出中に倒れたせいだと言ってある。
    「怖い夢を見たらパパか僕に話してとは言ってあったんです――でも僕、イナから直接言われるまで全然気がつかなかったんですよ。自信が無くなってきました。本当に詐欺師になっちゃうかも」
     ギョンフンはイナにおかしな後遺症がないか、かなり入念に確認してくれたはずだ。
    「気付けるものなのか?」
    「さすがに、同じ家で寝起きしてる人間の夢枕に立てばわかりますよ。魔除けもしたから、何かしら気付けるはずだったのに」
    「ビールさえ飲まなければな」
    「アジョシ、しつこいな。あの時だってちゃんと、助けてあげたでしょ」
     今のところボディガードということで落ち着いたが、成長期の女子が今後どう意見を変えるかは読めない。報酬の件も浮いたままだし、いつ誰の気が変わってもいいようにと、ギョンフンの倉庫のリフォームは予定通りすることになった。
     とりあえず、給湯室レベルのキッチンスペースとユニットバスを組み込み、処分に困っていたものを専門家に引き渡す経費をサンウォンが負担した。
     空いたスペースに仕切りを付け、空調を整え、ソファベッドを置いて、何とか人間らしい暮らしのできる居住空間に仕上げた。ただし、仕事には全く向かない部屋だ。
     ギョンフンの仕事は探偵業に似ていて、依頼によってはその辺のカフェで聞くには個人的過ぎる相談が含まれる。個室は必要だろう。
     腕がいいのは嘘ではないが、相談と簡単なお祓いやお札で済む案件が一番多い。相談の半数は気のせいか、単純な心身の不調だ。サンウォンのように、その状態がもっと悪いものに繋がる段階の一つでもあるから、何割かが空振りになることにもきちんと意味はある。
     思った以上に早く、住居周りの不具合が原因の怪奇現象に対応するのに、サンウォンの知識や人脈が役に立ち始めた。
     ギョンフンも昔からある現象にはそこそこ詳しく、大工の知り合いもいたが、具体的にどこをどう直せばいいかはサンウォンの方が的確にやりとりができる。
     最近はオンラインでの相談も増え、ギョンフンは、通信環境の安定しているヨン家の応接間を使って対応している。サンウォンの依頼人と予定が重なってもいいように、ギョンフンの倉庫にも応接用のスペースを作るのが次の課題だ。
     仕事は順調と言えるが、個人事業だ。調整すればそこまで忙しいというわけではない。
     イナが学校や音楽教室に行っている間はほぼ、二人で家にいる。
    「夢で死んだ人間と会っても大丈夫なのか?」
    「それって、一般的にもよくあることでしょう?僕が気付かなかったってことは、イナにミョンジンの記憶が残っているだけという可能性が高いです。イナの部屋には魔除けをしてあります。霊だとしても、魔除けに反応しないなら、ミョンジンはもう悪霊じゃない。あの蝶のネックレスにも、お守りになるように術をかけました。外出する時はほとんど着けて行くからまず大丈夫でしょう。この家で眠る時はあまり意識しなくても、両親が揃った友達のうちに泊まる時は寂しかった時のことを思い出しやすいのかな。それか、何かの拍子に今の家やあなたのことを思って不安が発動するのかも。イナもあなたと同じで異界帰りですからね。将来、退魔師になる素質もあるかもしれないですよ」
    「それは勘弁してほしいな」
    「今のところ考えられるのは―悪霊の力が弱って素のミョンジンでいた時に何か、思い出になるようなやり取りがあったんじゃないかな。その時の会話を繰り返してるのかも」
    「君じゃなく、セラピストの管轄か?」
     イナはこの映画の少女のように泣き叫んで助けを求めたりしなかった。サンウォンを頼れず独りで抱えて、悩んでいた。こういうシーンで思い出す度、自分を戒める。
    「イナはあなたが連れ戻した時の安心感もちゃんと、感覚として覚えています。イナもあなたも弱っている時に同調力が上がるタイプだから、定期的にセラピーを受けるのはいい効果があると思いますけどね」
    「一度ドリフトした相手とは、感覚を共有しやすいんだったな?」
     それは今観ている映画の設定だが、ギョンフンが観る前から言っていたネタだ。
    「ははは、話が早いな」
    「だから、観ろってしつこかったのか」
    「腕にタトゥーのある、よく喋る変人も出てきますしね」
     ギョンフンの喋る余計な情報があれば、もしかしたらどんな映画でもそこそこ楽しめるのかもしれない。少なくとも、彼との共通言語にはなる。イナともそうやって共通言語を得ればいいのだろう。もしイナが面倒でなければ、解説してもらえばいいのか。
     あいにく、ギョンフンが好きな映画は年齢制限がイナよりやや上からのものが多いから、二人で観ている。機会があれば今度、ギョンフンとイナと三人で観られるような映画を観るとしよう。
    「異界から何かが襲ってくる話でもあるしな」
     ギョンフンが紙を突き破って作った裂け目を思い浮かべる。『インターステラー』ももう観た。あの映画も、父と娘の繋がりが軸になる映画だった。
     自分を襲ったのは子どもたちだったから何とか勝てたが、怪獣みたいな魔物だったら一体どうなっていたのか。
    「建築設計に携わるものとして、街が破壊されるのがストレスだったりします?」
     ピザの持ち方を誤って、ギョンフンの手に具がこぼれる。
    「別に――架空のビルだしな。君のピザの方が気になる。そのまま食うな。一旦置け」
     皿とフォーク、布巾を差し出しながらそう答えると、ギョンフンは素直に皿にピザを置き、手を拭いた。
    「そのまま食べるつもりだって、よくわかりましたね。ドリフトしたからかな」
    「食べるかどうかはどうでもいい。周りを汚されるのが嫌なんだよ。そんなもの、君を見てれば誰でもわかる――俺だって、君の記憶を全部見たわけじゃないし」
     師匠のことも、弟のことも、それ以外のことも――ギョンフンの口から聞かないと知れないのだから。そんな単純なことにふと思い至り、対話することで思考の扉が少しずつ開いていくのを実感する。
    「知らなくても通じ合えるんなら、それはそれでいい」
     もぐもぐとピザを頬張るギョンフンに、何故か安堵した。
     いっそ自分の記憶を全て知ってもらえないかと思うが、それは横着なのだろう。次は一気に頬張り過ぎたギョンフンが喉を詰まらせると予想し、サンウォンは呆れながらビールを差し出した。



    「アジョシぃ」
     徹夜明けみたいな顔のギョンフンは、スマートフォンを手に弱々しくそう呼び掛けた。
    「ンー?」
     パスタを茹でながら生返事をする。ちょうど、ソースの好みを聞こうと思っていたところだ。
    「師匠が来てます」
    「へぇ?どこに」
     昨夜『パシフィック・リム』を観ながら、師匠の話をしたばかりだ。ギョンフンが言った通り、話をしていたから来てしまったのなら、本当に超人的な霊能力者だ。
    「ソウル」
    「迎えに行くなら車、出すか?……何だその顔。どういう感情だよ。いい師匠なんだろ?」
     振り向いて、余りにげっそりした顔にそう確かめる。ギョンフンはソファに座り込み、両手で顔を覆った。
    「そうですよ。ですが、僕が最も恐れる存在でもあります。何故なら――どんな妖魔より悪霊より強いので」
    「仕事で来てるのか?」
     腕がいいなら忙しそうだ。国家やら世界の命運がかかるような規模の案件で飛び回っている想像を勝手にする。
    「いえ、僕が呼んだんです。だいぶ前に……イナちゃんとアジョシが異界から戻らなかった時のために」
    「え?」
     もうあの事件から、三か月は経っている。
    「あと、夢で繋がった後、何かあったらと、念のため……あぁぁ、撤回したのに」
     落ち着かないのはいつものことだが、狼狽するギョンフンは珍しい気がする。
    「一度呼び出したら取り消せない悪魔か何かか?君はいつも挙動不審だが、更に様子がおかしいぞ。自分で呼んだんなら、そりゃ様子を見にも来るだろうな」
     見たことのない顔で、本気で困っている。財布を失くした人ぐらい不安げだ。
    「だって、好きな人と夢で繋がったって言っちゃったんですよ!恥ずかしいでしょうが」
     なんだ。大したことではなかった。今時、隠すことでもないだろう。そんなに聡い人なら、ギョンフンがゲイなのも知っているのだろうし――
    「相手が俺だってことは?」
    「言いましたぁ……あ――あぁぁ、だから来るのかもしれない!」
     単純に恥ずかしいだけか、何かまずいのかわからない。とりあえず、サンウォンは別に困らないから、話を進める。
    「じゃあ、ここに来るんだな。どこかに会いに行くのか。俺だけで会えって言ってたが、どうする?」
    「メッセージを見たのはバレたので、嫌ですけど――僕が……ここに連れて来ます」



     メイ・リンと名乗ったギョンフンの師匠は、オーラは強いが落ち着きがあり、優しそうだ。握手した右手を、強く握られる。ギョンフンと同じ引き合うような感覚があり、びくりとすると、彼女は全てを理解したように笑んだ。
    「ちょっと、失礼しますよ」
     今度は左手を取られ、もう全く見えなくなった手の傷――イナを連れ戻しに異界に行く際の儀式で、ギョンフンが切ったあの傷――を親指でなぞられる。
    「っ」
     傷痕が熱い。不快感は無いが、眠っている感覚を呼び覚ますような熱さに戸惑う。
    「ギョンフン」
    「はいマダム」
     ギョンフンは拗ねたような顔でそっぽを向いていたが、返事はした。
     対外的には『師匠』と言っていたが、実際の呼び名の方がしっくりくる。そう呼んでいてくれたら、女性であることにもここまで驚かなかっただろう。
    「あなたの手も出しなさい」
    「やです」
     はっきりそう言い捨てられ、笑顔を消した彼女はギョンフンを睨む。
    「あぁ?」
    「や・で・す」
    「往生際が悪いな。電話で泣きついてきたのは、どちらのホ室長でしたかねぇ?」
     マダムは彼のハイネックの首元をつかみ、ドアに押し付けるように締め上げて迫ったが、ギョンフンは不貞腐れたままだ。
    「僕ですけど?大丈夫でしたし?家庭訪問まで頼んでませんし?どうせ来るなら、もっと早く来て欲しかったな」
     殴られたりはしないようだが、玄関先でこれ以上揉められても困る。
    「ちゃんとフォローしてやっただろ」
    「リモートじゃ足りないって言ったでしょ。僕はちゃんと早めに助けを求めたのに、死ぬかと思ったじゃないですか」
     リモート?遠隔で援護してくれていたのか。というか、そんなことができるのか。
    「こっちはこっちで命懸けてんだよ。あんた、油断して腹まで刺されたらしいじゃないか。相手を見くびるなっていつも言ってんだろ」
    「刺されたのに無事に成功したんだから、ちょっとは褒めてくださいよ」
    「いいから、さっさと手を出しな」
     二人にはこれが日常なのだろうと、容易に想像がつく。
    「あ~……とりあえず中でお茶でも」
     サンウォンの提案に、師弟は組み合ったまま揃ってこちらを見た。
    「「ビールで!」」
    「ああはい……ビールね」
     よく似た師弟だな――そう呆れながら、サンウォンはのろのろと冷蔵庫に向かった。
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