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    MASAKI_N

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    怪物jwds②

    ##怪物
    #怪物
    monster
    #ジュウォン
    #ドンシク
    #ジュウォンシク
    jewish
    #jwds

    ジェイ「どうしてドンシクさんと会わないの?」
    「は?」
     ジェイはジュウォンの姿を認めると、開口一番そう質問した。
     マニャン出身者について調べる必要があり出向いたら、ジフンに見つかった。見つかったも何も、派出所に行けば高確率で会うのは想定していた。事件関係者の家を訪ねるのに付き添ってもらい、そのまま、流れで精肉店に来てしまった。この界隈で邪魔にならない駐車スペースは、ここしかないからだ。当のジフンはさっさと仕事に戻って、ジュウォンは話すこともないのに、ジフンがご親切に二人分頼んだ水を、仕方なく飲んでいた。
    「好きなんでしょ?」
     あまりに迷いなくそう言い切って、答えを待っている。いや、答えではない。納得のいく説明をしてみろと、挑発されている。
    「……あなたに詳細を語る必要はないです」
     否定はしない。ジュウォンはドンシクが好きで――それはもう、自覚せざるを得ない欲とともに、ここ二年間ずっと、ジュウォンを悩ませているのだから。
    「上手くいくように手伝ってあげてもいいよ」
     否定しなかったことは評価されたのか、彼女は表情を和らげ、ジュウォンに歩み寄った。
    「どうしてあなたが?」
    「面白いから。ついでに、一生あたしに頭が上がらないようになればいい」
     本当に、面白がっている顔だ。
    「面白がらないでください」
    「誰かに盗られちゃってもいいの?ドンシクさん最近、お母さんの介護施設の職員の人と仲いいみたいだけど、知ってる?」
     知らない。
     ジュウォンがドンシク本人に直接、そういう相手がいるのか確認することなんて、できるわけがない。
    「どんな人ですか?」
     口が勝手にそう言い返す。好意を知られているとわかったことよりも、苛立って、拗ねて、動揺している。
    「ほんと、ぜ~んぶ顔に出るよね」
     呆れたようにそう言って、質問には答えてくれない。
    「何が」
    「ストレスが眉に集まってる」
     このジェイがわざわざ手伝ってあげると言うのなら、多少はジュウォンに勝算があるということか。仲がいいのは事実でも、その職員とドンシクはまだ、特別な関係ではないのだろう。
    「――ドンシクさんに迷惑かけたくありません。これ以上」
     どんな手伝いをされようと、急に、今までと違う自分を見せる気にはなれない。
    「感謝もしないの?」
    「感謝って……ドンシクさんはそんなこと、望まない」
    「ごく一般的な、迷惑かける以外の関わり方の一つだよ。恩を感じて感謝してるから、今後も関わりたいと言えばいい。ドンシクさんがあなたのことを大事に思ってるのは、わかるでしょ。少なくとも、元パートナーとしては」
     ドンシクは人の手助けをする時に、見返りや礼なんて求めない。それでも、礼は伝えた。ドンシクはただ、『頑張ったね。お疲れ様でした』と言って、いつものように笑んでいた。
    「諸々の裁判が終わったので、メッセージは送っています」
     ただ淡々と、休憩中や就寝前に、近況に変化があれば伝えている。それなりに忙しいから、いつもジュウォンが先に、仕事に戻るとか寝ると告げ、ドンシクに『身体に気を付けて、頑張って』と言われ、会話は終わる。
    「電話はしないの?」
    「仕事のことで、どうしても聞きたいことがある時は、します」
     保護した人への対処法や、捜索すべき場所など、ドンシクが得意そうなことは助言を求めることもある。対応を急いだ方がいい場合、情報は多い方がいい。
    「どうしてそこだけ我慢するの?大人になったつもり?ハン警部補」
    「……所長のことを、まだ後悔してるから」
    「だったら、反省の意思を示し続けたら?」
    「職務を頑張ることで、示そうとしています」
     ドンシクがジュウォンを責めないから、そうするしかない。
    「それを、きちんと説明してる?過ちを償うためにも頑張りますって――それは、伝えていいと思うよ」
    「同僚にドンシクさんの知り合いがいて――その人が様子は伝えてくれていますし……ジファさんも、ジフンさんも、仕事の話のついでにドンシクさんの話はしてくれますから」
    「面倒臭いな。あんたもドンシクさんの知り合いでしょうに。間接的にお互いの様子がわかればいいって話じゃなくてさ。こまめに直接話せば、そんな伝言ゲームは要らないって言ってんの」
     ジェイはまた苛立って、ジュウォンを睨んだ。
    「……迷惑なら、ジェイさんも無理に僕に話しかけてくれなくてもいいです」
     単純に、苛立たせたのが申し訳ないと思ってそう言うが、彼女は更に眉をしかめた。
    「ほんっと馬鹿。あたしの迷惑を気にしてないで、ドンシクさんに迷惑がられたら?」
    「なんですかさっきから。いじめですか?」
     そもそも、手伝ってくれなんて言っていない。ジュウォンから話しかけてさえいない。ジェイが勝手に絡んできているのに、苛々されても困る。
    「いいよ別に。一生そのままでいたいなら。どうせ、手伝いっていっても『ハン警部補がドンシクさんと話したいらしいけど、遠慮してるみたい』って伝えるだけだし」
     ジュウォンは遠慮などしない。電話も、話も、普通にできる。
     ただ、核心に迫る話ができないだけだ。
    「わかりません――迷惑かどうかが」
    「それは二人にしかわからないから、直接話せってこと。今、電話してあげようか?」
    「ドンシクさんに、『ドンシクさんを好きで一緒にいたいけど、どうしたらいいんですか?』って、聞くんですか」
     馬鹿みたいに素直にドンシクへの気持ちを白状してしまって、自分でも驚く。
    「わかってんじゃん、正解。答えが聞きたくないの?それが、いい答えでも?」
    「そうは思えないから」
    「思ったより臆病なんだ。人を傷付ける失礼なことは平気で言えるのに、自分が傷付くのは嫌なわけ?所長への後悔と反省を、自分も傷付くことで示したら?」
    「僕をちゃんと愛してくれるのはドンシクさんだけなのに、ドンシクさんを愛する人はたくさん、いるでしょう」
     感情を煽られて、また、意図せず本心がこぼれる。
     ドンシクがジュウォンを愛してくれていることは、とっくに知っている。でもそれは、ドンシクが生来持ち合わせた慈愛の一部で、ジュウォンが独り占めできるようなものではない。少なくとも、これまでと、現時点では。
     それでも、あの人が全部、自分のものになったらいいのにと思ってしまう。
    「答えは、もう知ってるんだ。でも、そういう人だから愛してるんでしょ」
    「僕だけを愛して――僕だけに愛されて欲しいと伝えたら、困るでしょう」
     そう思っているだけなら許される。
    「さあ、あたしはイ・ドンシク氏じゃないから知りません。どうせ積極的に会うつもりがないなら、振られて会えなくなるのも一緒じゃない。それで会えなくなって、様子が知りたいなら、あたしが教えてあげてもいいよ。また我慢できなくなったら伝えて、何度でも振られなよ。叶わなくたって、言うのは自由なんだから。うまくいくかもしれないし。独占するのは難しくても、いつかは誰より一番愛してもらうことは、できるんじゃない?」
    「そうなっても、どうすればいいか知りません」
    「さっき、一緒にいたいって言ったでしょ。ドンシクと一緒にしたいことがあるから、これは恋だとわかったんじゃないの?」
     それはジュウォンがしたいことであって、双方向でないと成立しない。そうできるか確認する時の正解を知りたくても、ドンシクにしかわからないから困っている。
     単純な話なのはわかっている。傷付くことより、長い間悩んだことが一瞬で終わってしまうのが嫌なのかもしれない。
     ただ、双方の人となりを知るジェイがその単純な方法をすすめてきたことで、勝算がある気になるから不思議だ。
     それとも、悪いことでもないのに秘密にして、独りで抱えるのが辛かったのか。
    「あなたは凄く――親切なのかな」
     ジェイは元来、世話焼きなのだろう。何の得にもならないのに人に親切にしてしまう自分が嫌で仕方がなさそうなのに、問題解決方法を知りつつ放っておくのはもっと嫌。
     多分、そんな感じだ。
    「今頃わかったの?」
     疲れてはいるが、嫌そうではない。
    「すいませんでした」
     ジェイの前ではいつも素ではあったが、つい喧嘩腰になってしまっていた。それが急に楽になって、素直にそう謝った。
    「それだけ?」
     不満気に睨まれ、考える。
    「……ありがとうございます」
    「よくできました。今日のところはこのくらいで勘弁してあげます」
     得意気にそう言った彼女に、コップを返し、店を出る。
     特に危険のない道だが、車や人が来ないか見守る彼女に軽く会釈すると、窓をコツコツと叩かれた。
    「なんですか?」
    「ナム所長の命日に、ここにみんな集まって食事するの。ドンシクさんは執行猶予期間で遠慮して、挨拶するだけで帰ってたけど、今年はちゃんと最後までいるって。さっきの話は無理しなくてもいいけど、会って話せば?話すのが怖いなら、みんなと話すドンシクさんを眺めればいいし」
    「毎年、ジファさんは僕も呼んでくれます。でも――」
    「迷惑だったら呼ばれないから」
    「……わかりました」
     彼女はやっと満足げに息をつき、精肉店に戻る。
     初めて会った時もこんな風に話したのを思い出す。マニャンという場所が自分にとって、かけがえのない場所なのだと噛みしめながら、ゆっくり車を進めた。
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