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    ミズアワ

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    ミズアワ

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    Margaret/坂伴

    ※記憶あり現パロ


    ※1時間位で勢いで書いたので齟齬あったらすみません。
    ※イメソンは🍎嬢の『シドと白昼夢』
    ※タイトルの花言葉とその語源の『Margarites』はわだつみらいふっぽいなと。(けっっして韻踏んだ訳ではないです(苦い言い訳))

    Margaret 最後に会ったのはもう三ヶ月以上前だと、ショートメールの日付で確認した。
     元々、こんな関係が易々と続く訳なく、正気の沙汰でもなかった。前世の記憶がきっかけでズルズルと引きずってきた関係なんて。
     特に前世で彼との思い出はなかった。いや、作る間なぞなかった。二ヶ月にも満たない瞬く間を、鮮烈に出逢い交わりそして二人で砕けた。
     今世で互いに記憶を残して再会した時は、ショックだった。
    「伴!!」
     絶えない往来を人の波を掻き分けて、こちらにやってきた彼のあの顔を見て、血の気が引いた。伸びてきた腕を振り払えず、あの夜、酔っ払って大きな声で笑いながら抱き締めてきた腕だと確信した。
     あゝ、まただ。またこの男を巻き込んでしまったと。
     最初の頃は食事をするだけで終わっていた。それで充分だった。
     きっかけは単純な事だった。
     終電間近のホームまで見送りにきたあの人の「じゃあ」と微笑む口元が、嫌に寂しそうだったから。そのまま、自動ドアの閉まった車両が流れていくのを見送ったのは唇を離した時だった。
    「庚二さん」
     名前を呼ぶと、きつく抱き締められ半ば強引に手を引かれて、走った。入ったばかりの改札を抜け出し、歓楽街の外れのホテルに駆け込んだ。
     上手くいっていないのはなんとなく分かっていた。薬指の煌めきは本当にただの飾りだと。
    「今は子供はおらんよ」
     そう言ってベッドの中でひっそりと笑う横顔。この男が時折見せるそれには前世での最後の交わりで魅せられて絆された。しかし、こんな顔を見せられては放っておけなかった。自分も充分にお人好しだ。
     それからは何度も何度も、夜を重ねた。あの頃とは違う――一方的な搾取でなく――、互いに確かめ合う交わりはとてつも無く、気持ちが良かった。時々、あの頃の様な特殊な交わりも求められたが、その時は「相変わらず、変態ですねぇ」と笑うと興奮して可愛かった。
     手仕事が好きだから就いたリフォーマーの仕事をほつれの直しやボタン付けで見せると喜んだ。
    「いつも店に頼んでいたが、貴様は本当に手先が器用だ」
     一片だけ話した過去を、今世でも覚えていた様子で、直した箇所を目を細めて見つめていた。
     たくさん話もした。自分の話はあまりしたくないから、日々の話を。天気のこと、仕事のこと、この間食べた美味しかったもの、ふと思い出した記憶……どれも真剣に耳を傾けてくれた。だから、同じように彼の話を聞いた。こちらでも頭が良いのか博識だったが、相変わらずのしょうもない駄洒落を言って笑った。
    「あいつは笑わんかったが、貴様は笑ってくれるんだな」
     こんな下らなくて笑えるのに、その人は笑わないらしい。
    「はっ。あんたの顔で、こんなしょーもねー話するんですよ。面白くねー訳ないでしょ」
     んへっと鼻を鳴らしていると、布団の下で濃い臑毛の脚を絡めてくる。
    「そう言うのは貴様だけだ、伴」
     乱れた前髪のまま笑う顔は幼く見えて、なんとなく見られるのが恥ずかしいので手を伸ばして掻き上げていた。
     硬い、黒髪を指の間にすぅと触れさせるのがなぜか好きだった。

     『貴様』と呼ばれるのが好きだった。『伴』と呼べと言ったのは、この人にはこの正気でない繋がりを忘れさせないため。『伴』と言う亡霊のせいにさせる為。

     朝と夕にショートメールを確認する癖がついたのはいつからか。
     最初の一ヶ月は「仕事で忙しいんだろう」と思っていた。いつも連絡をくれるのは向こうからだった。
     こちらからのメッセージを送ることは控えた。これで正気に戻るのなら、それで良い。それが正しい。未練がましい。三ヶ月以上、音沙汰がないのはそう言うことだろう。
     起きがけの一本を吸いながら、やっとの思いでそのアカウントをブロックした。

     仕事が終わり家路につく。鍵を開けるためにポケットを探る。
     開いたドアが閉じる瞬間、まさかと思って振り返った。
    「伴ッ!」
     ドアの隙間に差し入れられたスーツの袖は見覚えのあるもので、身を捩じ込んできた姿に息を飲んだ。
    「すまん。連絡が着かんので直接来た」
    「………いや、いやいや。あんた、その頭なんですか?」
     玄関先に立った姿に瞬きを忘れてしまった。
     いつも整髪料でしっかりセットされていた長い黒髪が短くなっていた。それも、自分と変わらない坊主頭に、丸刈りに。
     思わず、笑ってしまった。腹を抱えて、しゃがみ込んで、俯いて。その時、薬指に煌めきがない事を見た。いつも夕暮れに光っていたあれが彼の指から消えていた。

     馬鹿だ。

    「ああ、これか」
     ドアを背にしたまま、自分と同じ目線に合わせてしゃがんだ彼はザリリと頭を掻いた。
    「その、俺なりの、誠意だ」
    「そんな事して、余計に怒らせるでしょう」
     引き攣り笑う自分の声が聞きたくなかった。しゃがんだまま俯いて顔を上げない。上げたくない。
    「いや、最後は、互いに納得したよ」
    「嘘じゃないですよね」
    「貴様に嘘は吐かん」
    「どうだか」
    「なぁ、伴。顔を見せてくれ」
     弱気な声。あの寂しそうな顔を思い出させる。
    「嫌です」
    「頼む」
     懇願する声は少し震えて聞こえた。
    「頼む、も一回。ここで貴様に捨てられてもいい。も一回、貴様の顔をこの目で見たい」
    「ぜってぇ、嫌だ」
     今見えているのは、あの人の爪先。オーダーメイドの革靴。こんな物を履く人がここにいてはいけないのだ。
    「伴」
     もう、そんな声で呼ばないで欲しい。そう呼ばれると、仕方がないのだ。
     恐る恐る顔を上げる。熱くなった鼻を鳴らさない様に上目遣いに。
     坊主頭になってはいるが、口髭も眉も、あの目も変わらず、まっすぐにこちらを見つめてくる。
     あゝ。やっぱりダメだ。
    「ふへへ、あんた。ほんと、なんすか、その頭」
    「前世ぶりだ。こんなに刈り上げたのは」
     渋い顔をして、恥ずかしそうに目を伏せるのが、もう可笑しい。
     込み上げて来たのは笑い声で、腹を押さえていた手をスーツの背中に回して寄りかかった。あの人は体幹が良いから、すぐに抱えてくれた。
    「んへっ。あんたもそんな時、あったんすね」
     笑いながら、鼻先を埋めたスーツの肩を濡らす。そんなことを気にも留めず、あの人―坂ノ上庚二は俺の背中を叩いて言った。
    「貴様が笑うのならそれでいい」





    「庚二さん」
    「ん」
    「おもしれーけど、ちゃんと元に戻してくださいよ、髪」
    「いかんか?お揃いだぞ!?」
     布団の中で聴く庚二さんの声が久しい。
    「絶対嫌です」
     
     だって、あんたの髪を梳けないんですもん。





    (((多分、この後暫くお互いの家に通うけれど、離婚後の諸々が落ち着いた坂ノ上が伴との住みやすい戸建てを見つけて、やっと同棲を始めるでしょうね。)))
     
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