あの人は俺を可愛いと言う。なんでかは分からないけれど、とにかく可愛いらしい。
「丸くて形の良い頭」で「目尻が上がった大きな目」で「つんとした鼻先」で「やらしい腰」が、とにかく他にも細かく言ってたけど、まぁ、可愛いらしい。
馬鹿らしい。と思う。男に可愛いだなんてあの人は頭がどーかしてんだと思う。男に、いや本当に俺に可愛いって要素、あるのか?残念だけど、俺はこの人の頭を金槌で殴っちゃいない。
「んーなんだ、伴」
並んで寝転がったまま、何にもせずにあの人の顔を見る。佐官の上等な上布団の下は俺もあの人も生まれたまんまの姿でいる。
「別に。髭、濃いなって思っただけです」
なんとも思っていなかったけど、誤魔化して言うと「んはは」とあの人は笑う。良いもんじゃねぇぞ。と。
「手入れがな、大変なんだ」
「男なんざ、髭あった方がいーでしょうに。イゲン?とかいうやつで」
大体の上官連中は口髭や顎髭を蓄えている。頭はツルツルしてんのにここだけはとしがまえてやがる。
「俺は昔っから濃い方だったからな。手入れが本当に面倒だったよ。今は慣れちまったが」
あの人はそう言って、確かに濃くなった顎をザリザリと撫でる。
闇の中、手探りでぐちゃぐちゃにしたあの人の髪はポマードもほぐれて、後ろに撫で付けていた筈の前髪が四角いデコを隠してる。
ちょっとだけ、若く見える横顔。前髪を下ろしただけなのに。
頭の中に浮かんだのは、まだケツの青い頃の、見たことがないこの人の子供時分の姿。士官学校に居たんなら、身嗜みを整えるのは必須で、鏡と睨めっこしてたんだろうか。
「んへ」
「伴?」
笑った俺に不思議そうに目をトロンとさせたあの人は、少し眠いのだと思う。
そんな顔もきっと、この人は幼い頃にもしたんだろう。
あんたの可愛いところ、一つは見つけましたよ。少佐。