Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    7nka29tteru4

    @7nka29tteru4

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    7nka29tteru4

    ☆quiet follow

    読んで字のごとく。現パロで峡谷が人間の男女の双子になっています。パネキがお料理しているお話です。カップリングでは無いですが、距離感が近いです。
    峡谷ということになっていますが、双子のそっくりさんと言って過言でないです。私が支部に上げている「剥片の双生児」という話と同軸ですが、読んでいなくても問題なく読める作品となっています。
    2022/2/19:加筆修正しました。

    バレンタイン前日の台所 小麦粉、バター、グラニュー糖、卵黄。そして忘れてはいけないチョコチップとココアパウダー。台所の作業台は、材料で埋め尽くされている。その内、ボウルの中に入っているのはバターとグラニュー糖。グラニュー糖は先程、ざりざりと音を鳴らしながらバターと混ぜ合わさったばかりだ。白っぽいクリーム状のバターを作るだけでも、既に一仕事したように感じる。しかしこれはまだまだ最初の段階に過ぎない。
     今度はそこに卵黄を混ぜて、バターを白から黄色へ近づける。よく混ぜ合わさって黄色っぽくなった生地に、今度は薄力粉とココアパウダーを。最近料理に凝ってる父さんが買ってきたカップ型の粉ふるいを使って入れていく。シャカシャカと粉を振るう下で、黄色っぽくなっていた生地が白と茶で埋め尽くされていった。
     おまけにチョコチップも加え、さてさて今度はゴムベラを……と、調理器具を掛けてある棚に手を伸ばしたところに、不意に背後から足音が忍び寄った。何しに来たの。私が疑問を口にするのを待たずに、足音の持ち主は自ら私へ話しかけてくる。
    「何してんだ?」
     私はゴムベラでさくさくぽろぽろとボウルの中身を混ぜながら、声の方へ顔を向けた。
    「お菓子作ってんの」
     答えると、台所の入り口に立っていた片割れは興味深そうに「ふうん」と相槌を打った。それから彼は、そのまま台所に入って来て私の傍に立ち、ボウルの中身と料理本を交互に見る。
    「クッキー?」
    「そうだよ」
    「ふぅん……」
     片割れはそう言ったきり、無言で私の作業を見つめた。そうしている内にボウルの中身は上手いこと混ざり合い、そぼろ状の生地になった。頃合いと見た私は、ゴムベラを流しの方に置き、手を軽く洗ってからボウルの中身を作業台の上に落とした。度々手の中にチョコチップが食い込むが、つぶれていないし大丈夫だろう……と信じながら、ぽろぽろした生地を作業台に擦りつけていく。そうやって捏ねている内に、生地は徐々にクッキーの生地らしい滑らかさになっていった。
     そうした工程を、やはり片割れが無言で見続けている。私はつい堪え切れず片割れに言った。
    「……ずっと見てるつもり?」
    「え? まあ……どうなるのか気になるし。悪かったか?」
     この男、我が片割れながら絶妙にずるい聞き方をするな、と思う。断じて、私はブラコンとかそういった類の人間ではない。ただ、片割れの私でも、こいつの絶妙なあざとさを認めざるを得ないというだけだ。例えば今みたいに、小首を傾げて何の悪気も無さそうに――それどころか少し申し訳なさそうに――「悪かったか?」と聞くところとか。
     私は「悪い」と言えずに、顎で料理本を示した。
    「別に良いけど……この後生チョコも作るからさ、暇なら材料量っててくれない? ページ勝手に捲ってくれていいから」
    「わかった」
     そこで素直にうなずくのも良くないと思うぞ、可愛い奴め。だからバレンタインに危険なチョコが紛れているんだ。そう言いたくても言えないことが悔しい。危険なチョコを貰うことに関しては、私も人のことを言えないからだ。
     そして私が茶色く滑らかになった生地をひとまとめにして、ラップにくるんで冷蔵庫に入れている間に、片割れは言われたとおりに材料を用意してくれた。私は息をつく間も無く、作業台を一度綺麗にして、まな板を用意する。そこでばりばりと包丁でチョコを砕くように刻み始めると、片割れは面白そうに「おお」と笑った。
    「すごい勢いだな」
     どうやら私があまりにもばりばりと遠慮なくチョコを刻んでいくのが面白いらしい。私は手を止めて溜息をついた。ノンストップで慣れない作業をしていたことが祟り、肩の辺りから疲れが出始めている。私は半目で片割れを見遣った。
    「結構疲れるんだぞ、これ。やる?」
    「いいの?」
    「やれるならやってよ」
     私は半ば投げ槍に言った。ついでに休もうという魂胆だ。すると片割れは案外乗り気な様子で包丁を受け取り、ばりばりとチョコを砕き始めた。それから一分と経たずに、決して少なくはないチョコの塊を半分以上を刻んでみせると、一度包丁を置いて私を見遣った。
    「確かに意外と疲れるな」
    「でしょ?」
     わかってくれたか、と私がにやりと口角を上げると、片割れも釣られたようににやりと口角を上げた。そして
    「全部やった方が良いか?」
    と尋ねてきた。私はちょっと悩んで、首を横に振った。これ以上やってもらったら、私のお手製とは言い切れなくなるように思ったからだ。
    「いいや、後は私がやる。ありがとう」
    「ん、わかった」
     そのまま私たちは、また元の位置に戻る。私がばりばりと残りのチョコを砕き、片割れがそれを見る。手持無沙汰になった片割れは、ちらと流しの方を見たと思うと
    「洗い物やっておこうか?」
    と尋ねてきた。
    「やってくれると助かる」
     チョコがばりばりと音を立てる度、包丁の背越しに伝わる振動によって手の平に感じる痺れるような感覚に、溜息をつきながら言う。すると片割れは「わかった」と二つ返事で言われたとおりの事をやってくれた。……こいつがここまで従順なのは珍しい。そんなに私が料理するところを見ていたいのだろうか。たしかに、珍しい光景であるのは否めないが。
     少々疑問に思いつつ、ようやく全て刻んでぱらぱらになったチョコの山ををボウルに入れていく。他の材料は小鍋に投入し、火にかけた。クリームの海を遊泳するバターを見ていると、これが一人分ではなくて良かったと思わずにはいられない。沸騰させたクリームの海をチョコにかけ流してチョコを溶かし、洗ってもらったばかりのホイッパーで混ぜ……とやっている間に、気が付けば片割れが再び同じ位置に戻っていた。
     再び手持無沙汰になった片割れが私に話しかける。
    「それ、明日学校に持っていくのか?」
    「そうだよ。生チョコが友達の分で、クッキーが部活の分」
     片割れは一瞬黙り込んで、
    「……俺と父さんの分は?」
    と、恐る恐るといった風に尋ねた。
    「もらえると思っていたのか?」
    「えっ、無いの⁉」
     悲痛な叫びが台所を木霊する。私は思わず目の前のチョコの海に満ちたボウルから顔を逸らして笑った。
    「冗談だよ。余りは全部うちの分になるから、それがお前と父さんの分」
    「そうか……」
     それでも片割れはなんとなく不服そうだった。理由は明白だ。自分への贈り物が「余り物」であることが気に食わないのだろう。思う所がある様子で作業を見つめる片割れを見て、心の中の悪魔と天使が同時ににんまりと悪戯気な笑みを浮かべる。そんなに気に食わないなら、私にも考えがある。

     その後も片割れは台所に居続けた。生チョコの生地を型に流し入れる時も、冷蔵庫で寝かせたクッキーの生地を型抜きする時も、片付けをしたり私と駄弁ったり型抜きに参加するなどして、私の傍らに居座り続けたのだ。でも、私も私で彼を追い出すようなことは一言も言わなかった。それは、一人で黙々と作るよりは、二人でああだこうだ言いながら作る方が楽しいと知っていたからである。生チョコを冷蔵庫に入れてからクッキーを冷蔵庫から取り出すまでの時間は勿論、型抜きやクッキーを焼いている時間にも、片割れとの会話は良い暇つぶしになった。
     毎年両腕に大袋を抱えるほど貰うチョコに二人で思いを馳せたのは、リビングに居てもクッキーの匂いが漂ってくるほど、家中が甘い香りで満たされた時のことだ。焼き上がって行くチョコクッキーの匂いは、私たちの胃袋を刺激し、翌日山ほど贈られる甘い味を想起させた。
    「明日どれくらい貰えるかな……」
     思い浮かべた甘い味は自然と私の声をうっとりとさせる。それに対し、片割れは案外冷静だった。
    「女子は良いよな。友チョコとかあってさ」
     これはよく意外だと言われることだが、私たちは貰えるチョコの数を競わない。しかし片割れの口ぶりは、遠回しに私の方がチョコを貰えると言っているようだったので、私は茶化すように言った。
    「おっ、それは敗北宣言か?」
    「ちげぇよ。ただな……」
     片割れがそう言って口ごもったので、私は彼の顔を見た。彼は言いづらそうな様子で私を見ると、悲壮に満ちた面持ちを俯かせて言った。
    「安全なチョコが多そうだなって……」
     私は思わずきょとんとした。それは珍しく片割れが私に見せた「羨望」だった。私の胸の奥から、なんとも言えない優越感がじわじわと込み上げてきて、口角が勝手に上がる。こいつが私を羨んでいる。しかも、私たちが競えない最大の理由によって。
     そう、私たちがチョコの数を競わないのは、チョコの安全性が原因だ。競うことに夢中になって、危険なチョコを口にするのは不本意である……というのを中学生の時に二人仲良く学習して以来、私たちはチョコの数を競い合うのを止めてしまった。
     ――だがたしかに、私は友チョコという安全性と信頼性の権化のような物を貰えることを思うと、この片割れよりも多くの安全なチョコを貰えることは間違いない。おお哀れな片割れよ……。俄然私の中に慈愛の気持ちが湧いてきて、私は片割れの肩を優しく叩いて言った。
    「安心しろ。一般的な女子から見れば、私もお前と大差ない……」
    「逆に不安になったんだが」
     片割れが眉間に皺を寄せたのと、オーブンが焼き上がりを知らせるのはほぼ同時だった。片割れの視線を躱すように台所へ飛んでいき、熱々のオーブンをそっと開ける。熱気と共に溢れたチョコクッキーの香ばしい匂いを、思わず腹いっぱいに吸い込んだ。少し遅れて台所に来た片割れが、「おお」と感嘆の息を零す。少なくとも、今の段階ではかなり美味しそうだ。味も心配することは無いだろう。
     そう信じて、またリビングに戻って駄弁ったりしながら待つこと十数分。台所へ舞い戻った私は熱さも硬さも良い具合になったクッキーを一つ手に取った。クッキーが完全に完成するまで私と駄弁り続けた片割れが、何の気なしにクッキーを手にした私の指先を見る。その指先を、片割れの前へ持っていった。
    「ほれ、味見」
     片割れはこれまた何の気なしに私からクッキーを受け取り、できたてほやほやのクッキーを口に運んだ。もぐもぐと頬張る口から聞こえる「うん」の声は好感触である。うむ、良好良好。内心でほくそ笑む私に、片割れはクッキーを飲み込んで言う。
    「いける。皆喜ぶと思うぞ」
     本当にかなりいける味らしい。口元には満足そうな笑窪が姿を見せている。そんな片割れに、私は勝ち誇ったような気持ちでこう言った。
    「そうかそうか。それはよかった。ところで、今年の私のバレンタインチョコを最初に受け取ったのはお前ということになるな?」
     片割れはようやく気が付いたらしく、はっと息を呑んだ様子で天板の上のクッキーを見てから私を見た。言うべき言葉が見つからない、と言わんばかりである。実に滑稽だ。
    「良かったな、世界一安全なチョコを真っ先に食べられて」
     揶揄うように言えば、片割れは余計に困ったような顔をした。彼は言葉を探すように私とクッキーを交互に見るとこう言った。
    「俺からもお前の分のチョコを用意した方が良いか?」
     私は思わず天板から顔を逸らして噴き出し笑った。私の行動を、自分が一つでも多くチョコを貰うための行動だと思ったらしい。実際にはただ、余り物を寄越すだけでは可哀そうだと思っただけなのだが、余計な気を使わせてしまった。
    「用意しなくていいよ。私は友チョコ貰えるからさ」
     片割れは何とも言えない顔をした。私のちょっとした気遣いが信じられないが為の反応であるなら、少し不本意である。私だって、チョコと一緒に貰うメッセージカードには毎年必ず「誰にでも気遣いできるところが好きです」とか「紳士的なところが好きです」とか書いてあるんだぞ。
    「後悔するなよ?」
    「しないって」
     尚も微妙な表情をする片割れにそう返しながら、私はただの美味しいチョコクッキーの袋詰めを始めた。片割れはやっぱり台所に居座り続けた。私の作業が気になるのか、単純に暇なのか、もはや私には分からない。そうして私たちは結局、クッキーの袋詰めが終わるまでああだこうだと他愛のない話をしていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤☺☺☺💖💖👏👏👏😭👏😭😭😭💘💘💘💘💘💞🙏👏💖🍫❤😭👏👏💘❤❤🙏🙏🙏💞💞🌋💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    7nka29tteru4

    DONE読んで字のごとく。現パロで峡谷が人間の男女の双子になっています。パネキがお料理しているお話です。カップリングでは無いですが、距離感が近いです。
    峡谷ということになっていますが、双子のそっくりさんと言って過言でないです。私が支部に上げている「剥片の双生児」という話と同軸ですが、読んでいなくても問題なく読める作品となっています。
    2022/2/19:加筆修正しました。
    バレンタイン前日の台所 小麦粉、バター、グラニュー糖、卵黄。そして忘れてはいけないチョコチップとココアパウダー。台所の作業台は、材料で埋め尽くされている。その内、ボウルの中に入っているのはバターとグラニュー糖。グラニュー糖は先程、ざりざりと音を鳴らしながらバターと混ぜ合わさったばかりだ。白っぽいクリーム状のバターを作るだけでも、既に一仕事したように感じる。しかしこれはまだまだ最初の段階に過ぎない。
     今度はそこに卵黄を混ぜて、バターを白から黄色へ近づける。よく混ぜ合わさって黄色っぽくなった生地に、今度は薄力粉とココアパウダーを。最近料理に凝ってる父さんが買ってきたカップ型の粉ふるいを使って入れていく。シャカシャカと粉を振るう下で、黄色っぽくなっていた生地が白と茶で埋め尽くされていった。
    4979

    recommended works