すきな惣菜「好きな惣菜って何?」
ランク戦前の話し合いで切り出された質問に、ほんの少しだけ張り詰めていた雰囲気が和らいだ。
「唐揚げっす!」
「おれはメンチカツやな〜」
素直に答えた年下組にイコさんは腕組んで頷く。
「俺もどっちも好きやな。あとカツも好きや」
「揚げもんに偏るな〜」
まぁ確かに。惣菜って聞かれたら、最初に思い浮かぶんがさっき言われたような揚げ物系やと思う。
「マリオちゃんは?」
「どうでもええやろ!」
「えー知りたいっす」
急に話を向けられたマリオは小さな声で「き……きんぴらとか」と律儀に答えていた。
「俺も好き。めっちゃ好き。水上は?」
話流れとわかっていても、イコさんの言葉に心臓が跳ねた。ほんの少し前に同じような言葉をかけられたから余計に。
「まぁ……豆、炊いたんとか」
「あー!あれな!名前なんやっけ」
「煮豆ちゃうんですか?」
「煮豆でええんかな」
「でもこっちやとちょっと味ちゃう感じで」
「あぁ、あるなぁそういうの」
買って食べるということはあまりしなくなった。かといって自分で作るわけでもないから、また実家帰った時にでもと思ってる。
「タイタン?」
「炊いたやつ、みたいな意味やで」
ひとり意味わかっとらんみたいな海にマリオが説明したとこで転送が始まった。
□□□
「なぁ水上」
ある日、さぁ帰ろかと立ち上がったところでイコさんに呼ばれる。なんですか?と近寄るとぐいぐいと壁際まで押されてしまった。
「……あんな」
声を顰めてるけど今この部屋俺とイコさんしかおらんのやけど。
「これ」
差し出された小さな紙袋を受け取る。思ったよりもそれはずしりと重たかった。
「ありがとうございます」
一応俺も小声で礼を言う。なんや渡してたっけ。中身の見当がつかん。
「俺のいつも食べてる味になってしもたから水上の思うようなもんとちゃうんやけど」
食べもんか。それにしては重い気もするんやけど。俺は持ち手を広げ、中身を見た。
それぞれ大きさの違う保存容器が三つ。
「豆……」
「ん。炊いたん好き言うてたやろ?あときんぴらと唐揚げも作ったんや。あ、ちゃんと帰ったら冷蔵庫入れといてな。煮豆は足早いから」
「はぁどうも」
そっけない声が出たというのにイコさんは俺の顔を見て「うれしそうな水上が見れてよかったわ」と宣った。
※
サプライズ耐性があまりない水上
地元で食べてたのと味が何かちゃうなーってなって食べなくなってた水上🫘
関東と関西の違いとかあるんやろかと思って作ってみたイコさん(調味料の一部は家から来たやつ)
イコさんちの味付けかぁってなってぺろりと平らげる水上