嵐イコ 世の中がハロウィン一色の世界からクリスマス一色の世界に染まる頃、生駒はゆったりとした足取りで隣を歩く恋人に「クリスマスはどうするのか」と聞いてみることにした。答えはわかりきっていたが一応『恋人』という肩書きを持つ以上、聞かないわけにもいかない。
「家族でパーティーして、プレゼント交換して、ケーキを食べる予定だ。広報の方でも少し仕事が入ってたな」
「相変わらず忙しいやっちゃなぁ」
思った通りの返答に生駒はしみじみと呟いた。
「生駒は?」
澄んだ目で当たり前のように返されてほんの少し詰まる。特に優先すべき予定があるわけでは無かったからだ。
「特に予定は無いな。まぁ年末年始は向こうに帰るつもりやけど」
「いつぐらいにこっちに戻るんだ?」
「3日やな、遊ぶ?」
「ああ!なら初詣に行こう」
とんとん拍子に決まった年始の予定を書き込むため生駒は自身のスマートフォンを取り出すと、カレンダーのアプリを開き指を滑らせた。
「ならみんな誘お、ん?」
触れていたはずの指が画面から離れていく。
「嵐山?」
見れば隣にいた嵐山がいつもと変わらぬ表情で生駒の肘を掴んでいた。
「……っふん!」
力を入れ、再び画面へ指を伸ばすが嵐山の方もそれをさせまいと腕に力を込める。画面を触ろうとする生駒とそれを阻止する嵐山の謎の攻防が数秒続いた。こう着状態に焦れた生駒がスマートフォンを持つ手の方を動かし、震える指先へとその画面を触れさせる。
「あかん、打ちにくい」
「指を動かさないようにしてスマホの方を動かすのはどうだ?」
「指プルプルしてまう」
「こうやって引っ張り合いをしているからできないだけで、普通の固定状態ならできそうだな」
「あホンマや。いやあかんわ、フリックめっちゃ迷う」
生駒は嵐山の目の前にスマートフォンを掲げ『はたもうて』と書かれた文字を見せた。
「通常の動きと違うとなかなかうまくいかないんだな」
「んで、予定いれたらあかんって話?」
「いや?そこはふたりでだろうと思って」
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この後、クリスマス前にいこさんちのポストに綺麗なグリーティングカードが届いたり、イブの日の夜中にその日の用事を一通り終えた嵐山がやってきていこさんにプレゼントあげるだけあげて帰ったりする。
3日の日どういう顔して会ったらええねん…となるしプレゼントもろたからには俺も何か…と年末年始唸り続けるいこさん。無難にマフラーあげる。