ブルガリない!ない!ない!!
聡実は焦っていた。
大学の先輩から格安で譲り受けたキィキィと軋む音を奏でる赤い自転車。
その鍵が見つからない。
古いけれど、なんとなくハンドルが歪んでいる気がするけれど、譲る前にラッカーが残っていたからと、飼ってもいない犬の犬小屋を制作した先輩が塗り直してくれた赤い車体のママチャリを、聡実は気に入っていた。
近場での買い物にも、歩けない距離ではないけれど、乗っていけば格段に楽になるバイト先の道程にも便利な、キィと鳴く愛車。
その鍵が、見つからない。
玄関横の冷蔵庫の上。そこが定位置。
靴を脱ぐのと同時にいつのも場所へ置いたはずなのに、出掛ける直前に、手を伸ばしてもシルバーのキーリングが付いた鍵はそこになかった。
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