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    mihai4718

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    mihai4718

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    #狂聡
    madGenius

    きょさとパロディside k
    「僕に相談されても、僕は何も言えませんよ。」
    油絵の修復家である岡聡実は、俺の恋人である。いつも東京と大阪で離れて暮らす俺たちだが、今日は諸用があり、彼を車で迎えに来た。
    外は暑く、聡実くんの白い額が光り、前髪が貼り付いている。車から出て、その額に掛かった前髪を指でそっと払った。彼は汗っかきなのである。元々、体温から高いのだろう。赤児のように生のエネルギーが身体に凝縮されていると思う。
    「ごめんな、呼び出して。待たせたか?」
    助手席を開けると、ありがとうございます、と律儀にお礼を言い、聡実くんは乗り込んだ。
    自分も運転席に乗り込んで、シートベルトをすると、聡実くんは先程の話を続けた。
    「組長さんからの依頼って絵のことでしょう? 価値とかも付けられませんよ、僕。僕の仕事ちゃうから。」
    「俺も組の仕事に君を巻き込みたくないねん。あの糞親父が。思い出すだけで腹が立つわ。どうしても連れて行けて。俺があまりにも東京に行きたい言うから、そんなに言うなら聡実センセにまたお願いできるなら東京で仕事与えたる言うて。ああ、でも、ちゃんと修復の仕事やよ。」
    本当にもう二度と組の仕事を聡実くんと共にするつもりはなかった。しかし、組長からの直々の命令に俺も背くわけにはいかなかったのである。
    「ふうん……でも、まあ、単純に、狂児さんと会えるのは嬉しい、です。」
    「えっっっ! かわいっ!」
    「うるさ。」
    横目で聡実くんを見たら、彼はそっぽを向いてドアに頬杖を付いて流れる外を見ていた。だが真っ赤な耳は隠しようがない。愛らしい。
    「あかんて。そんなに可愛ええこと言ったら。このまま拉致したくなるわ。」
    思わず彼への思いが溢れ出てしまう。何回でも口に出す。可愛い、可愛い。そんな浮かれている俺に、聡実くんが呟いた。
    「ふ、できん癖に。」

    ────できん癖に。

    どこか諦めを含んだような口調。

    ────意気地なし。

    言外にそう言われた気がした。
    驚いて聡実くんの方に顔を向けると、聡実くんは悪戯っぽい顔で笑っていた。
    「…………冗談ですよ。前見て。」
    窓から入る日差しが、聡実くんを強烈に白く照らす。じりじり。
    「驚かせんといてや。何か怒らせたんかと思たわ。」
    俺はすぐに視線を前に戻して運転を続ける。
    「ちょっと怒っとる。久しぶりに会うんに、仕事やし。後でお礼してください。」
    「よーし、狂児さんなんでもしたる! えっ!?なにがええ!?」
    なんだか気まずい空気を吹き飛ばすように、わざと戯けて大きな声を出すと、「ほんま、うっさいわ」と聡実くんがいつもの調子で言うので、僅かな違和感を俺を振り払い、見ないふりをしてしまった。


    side S

    狂児が車を走らせ、僕は先程のつい取ってしまった態度を反省している間に、目的の場所まで着いた。その間、狂児はやたらとでかい声で明るく振る舞っていた。きっと僕が怒っていると思っているのだ。実際はそんなことはなく、最近たまに訪れる寂しさを狂児にぶつけてしまったのだ。僕は、圧倒的に狂児に甘えている。申し訳なく思う。

    そこは、古めかしい一軒家であった。庭には緑が生い茂り、門から玄関にはところどころ苔むした煉瓦が敷かれている。だが、それは決して荒れた印象では無い。適切に管理されているのだろう。古い家に合った庭で、住人の人柄が垣間見える。
    家の中に上がると、黒く焼けたフローリングが僅かに軋んだ。
    僕らを迎え入れたのは、眼鏡をかけた品の良い70代位の男性であった。左手の薬指には指輪を嵌めているので既婚者なのであろう。その年代の人がつけるリングにしては珍しく、プラチナと思われるシルバーに深い青の線が入ったデザインリングだ。あれはラピスラズリだろう。宝石に詳しくない僕も、この家の持ち主である画家の名前を知っていればすぐに分かることであった。
    「さて、もうご存じでしょうが、私の………その、父は、郷中倫太郎と言います。そして、僕は息子の郷中友春と申します。」
    男性は、家の持ち主の息子であった。
    僕と狂児は案内された部屋で、革張りのソファに並んで彼の話を聞く。
    「はい。………ご愁傷様でございます。」
    郷中倫太郎とは、今年の春に亡くなった画家である。齢は確か九十歳。往生と言っても良い年齢であろうか。
    画壇でも名は知られ、中々人気も高い画家であった。彼の作品の特徴はなんと言っても、青を基調に描かれた油彩である。代表作は、倫太郎が好んで使った青色の絵の具で描かれた布だけを身に纏った男が窓辺に立ち、こちらを見ている絵である。男の顔は曖昧だが、鑑賞者を観ている強い目線だけは感じる。そして硝子に僅かに映った自身の姿を描いた作品は、さまざまな憶測を産んだ。発表は四十年ほど前だ。同性愛の示唆、などとも言われたが、なによりも男の肉体の美しさ、青の布の表現に取り憑かれた人間も少なくないだろう。
    そう、青。
    この画家は、フェルメールで有名なラピスラズリを好んでいたのである。それがこの目の前の男性の指輪に話が繋がる。きっと彼の父親に因んで、青の宝石が入った指輪をしているのだと僕は考えたのである。
    「ありがとうございます。父は、まあ父と言っても養父なのですが……。いえ、すみません。どうでもいいですね。あの、作品を沢山遺してくれましてて。」
    「はい。」
     郷中倫太郎の作品は市場価値は高い。だが、実際彼の手元にはそれほど多くの金が残るわけでもなく、現金は彼の作品の価値に比べると微々たるものであったと言う。
    そんな中、彼は亡くなった。
    画家の遺族にとって、問題は相続税である。
    彼の作品は人気はあるが、彼があまり作品を手放すことを好まなかった為に出回っていない。その為に、作品には高値がつけられる。
    相続税は、過去の売買の履歴によって算出される為に相続税は莫大になってしまったとのことであった。
    「あの、美術館などに寄贈される場合は免除されるとかはないのでしょうか?」
    「ああ、寄贈や委託の話も考えたのですが……どうにも作品数が多くて、なかなか引き取っていただけるところも見つからず……。」
    作品を残せば、残した分の相続税がかかってしまう。しかし、全てを引き取ってくれる場は無いということだろうか。
    それならば、作品を相続税を賄える程度に売る、ということが妥当ということだろうか。
    「もともと、故人は自分が死んだら絵は好きに処分してくれ、なんて言っていたのですが。それでもあちこち何処にあるかわからない状態になるのは僕も望んでいませんし、故人の作品は息子の僕が言うのなんですが、未来に残すべき作品だと、思うんです。」
    真っ直ぐな視線に既視感を覚える。この視線、氏の代表作に似ているのだ。老齢になっても、目の光は失われない。そう感じると同時に気付かされる。ああ、この人は画家を愛している。作品を愛している。僕はそう感じた。それならば、きちんと告げなければならない。
    「あの、失礼ですが、成田の所属する組織が、どのようなところかご存じですか?」
    友春さんは、驚いたように少し目を見開いてから笑った。
    その顔に答えがわかった僕は、隣の狂児の顔を見ることができなかった。
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