慈善家、うらみをかう「それは一体何だ?」
「ああ、ただのゴミだよ、ライリー」
肌色の布とその中から飛び出たワタがぐちゃぐちゃに混じりあって、時々その中に血のような赤色の布と硝子の破片が見える。
どこか人間を思わせるそれは、少し不気味だったが、生き物では確実になかった。
「荘園ではよくあることさ」
少年フレディ・ライリーは、バグというもののせいで荘園という場所にいるらしい。
早く家に帰って勉学の続きをしなければ、両親に怒られてしまうのだが、荘園の外には一度入ったら出られない。
外に出たら死んでしまうぞ、と目の前の浮浪者じみた男クリーチャー・ピアソンは言っていた。
「さあ、腹が減っただろう。食堂へ行こう」
人間を模したようなそれを箪笥の中にしまいこむと、ピアソンは立ち上がり、何か欠けたような微笑みを浮かべて先導する。
ライリーはこの男の事を好きにはなれないが、この優しい笑顔を浮かべている内には利用価値があると思った。
今のうちに彼のしたいようにしてやり点数を稼いだら、荘園を出る方法をこの男と探り、家に帰ろう。
そんなことをぼんやりと考えながら彼の後ろへついて歩いていると、人の足音が幾らか聞こえてくる。
周りの人間たちはバグにあったライリーのことを、よくないことのように言ったり、或いはラッキーだったかもしれない、などと好きにのたまっていた。
囁き声だろうと彼の耳には届いていたが、興味はなかった。
己の体にとっては少し高い椅子に腰掛け、つかない足をふらりと浮かせて、喉仏と同じくらいに並ぶ食事を見る。
「は、運んでやるから、ほら、口を開けて待っていてくれ」
ライリーの食事を不器用にナイフとフォークで切り分けるピアソンは、上機嫌で、しかし、どこか上の空のようで、瞳は虚を映していた。
あのピアソンが、弁護士に親しげに振舞っている。
それは小さなライリーへの噂よりも耳にすることであり、不気味がられることだった。
この男は、どうやら大きい頃の少年と仲が悪かったらしい。
いずれ取って食う気じゃないか?などとライリーは考えたが、そうだとしても幼い自分の頭脳よりも男の思考回路は劣っていると判断した。
だから、ライリーは今日も整った唇を開いて、男の手ずから食事を摂った。