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    ポケモンパロ太中
    太宰少年とイーブイ中也のとんでもゆるふわ世界線です。
    IQ3、設定が大丈夫そうな人のみどうぞ…!

    #太中
    dazanaka
    #太中BL

    最悪な出会い♡編 ブイブイブイブイブイブイと、いっそノイローゼになりそうな賑やかな声が、だだっ広い牧場のそこここから聞こえてくる。
     ふかふかな芝生の緑の上を、三十センチほどの茶色い毛玉たちが、短い四つ足で懸命に走りまわり、飛び跳ね、戯れている。
     長い耳に大きな尻尾。もふもふしたクリーム色の襟巻き。ネコのようなイヌのような、あるいはキツネのようでもある、不思議な生物。
     イーブイだ。
     三、四十匹ものイーブイたちに囲まれているこの光景に、女の子たちはきっと「可愛い~!」と口を揃え目を輝かせるのだろう。
     が、僕の顔は思いっ切り歪んでいる自覚がある。生き物は大の苦手だ。
     じゃれ合いながら二匹の毛玉が足元を通り過ぎていったのを見下ろして、僕はため息を吐いた。
     正直、ポケモンに全く興味はない。
     彼らはそこら中にいて人間の生活に溶けこんでいるが、これといって関わる機会もなかったし、見かければ自ずと避けてきた。触れたことなんて、川に入水した時にうっかりぶつかる、コイの王様くらいなものだ。
     けれど今日こうしてわざわざポケモンが沢山いる場所に自ら足を運んでいるのは、僕の養父である、森さんの血迷った提案のせいである。
     日がな自殺に勤しむ僕に見かねたのか、睡眠薬を一気飲みしたのに耐性がついて死に損なった僕を介抱しながら、困り顔で言ったのだ。

    「太宰君も自分でポケモンを育ててみたら世界が変わるんじゃないかな」と。

     当然一も二もなく首を振った。育てるなんてとてもじゃないが面倒臭い。
     けれど森さんが、「うーん、じゃあアカデミーにでも通ってみる?」などと言いながら、表紙にでかでかと教育目標の書かれた入学パンフレットをちらつかせて脅してきたのだ。

    『――人とポケモンの共生―― "豊かな心"と"生きる力"を育成します』

     その時の僕の顔はゼニのカメよりも青ざめていたに違いない。そんな場所に通うなど真っ平ごめんだ。
     胃潰瘍になりそうな苦渋の決断のすえ、今僕は、ポケモンの譲渡をしているというこの長閑な牧場を訪ねているわけなのである。


     何でもいい。おとなしくて、手がかからなそうな子なら何でも。
     ブリーダーのお姉さんに案内されるまま、牧場内のポケモンを見て回る。と言っても、ここはイーブイ専門のブリード場。イーブイしかいないのだが。
     もちろん僕にイーブイへのこだわりがあったわけじゃない。たまたま家の近所でブリードをしていたのがここで、そこがたまたまイーブイのブリードで有名な場所だった、それだけのことだ。もしここがコラッタばかりを飼育していたなら、僕はコラッタを連れ帰り、森さんを家の配線で悩ませる未来が待っていただろう。

    「……それで、進化先が八種類もあるのは、イーブイの遺伝子が極めて不安定だからと言われてるんです。水中、火山、氷雪地帯、どんな厳しい環境にも適応できるように姿を変えて……、こんな小さな体に無限の可能性を秘めてるなんてすごいですよね。パートナーからの影響も受けやすくて、深い愛情を感じることで体が……」

     お姉さんは会った時からずっとこんな調子で、本当にイーブイが好きなんだなと感じられる熱量で喋り通している。
     それに適当に相づちを打ちながら、良さげな子を見繕おうと辺りを見物していたのだが、みんな同じような茶色い毛玉なので僕には見分けがつかない。

    「あ、あれ……」

     そんな中、不意に一匹のイーブイが目に留まった。
     一匹だけ明らかに異質だったのだ。
     それは他のイーブイたちから故意に距離を取り、ひっそりと隅の木陰で丸まっていた。遠目からも分かるくらい、一見色違いなんじゃないかと疑うくらいに色素が薄く、オレンジに近い赤茶色をしている。
     なにより際立っていたのは、

    「ちっちゃ!」

     その小ささである。平均のイーブイより二回りは小柄だ。
     思ったまま口に出すと、ギロっとそのイーブイが睨めつけてきた。地獄耳なのだろうか。

    「うっわ目付き悪……」

     お姉さんが僕の視線に気付いたようで、「ああ」と声を漏らした。客から尋ねられることに慣れている反応だ。

    「あの子はちょっと……、ご案内するには機嫌が悪いかも。数ヶ月前に仲良かった子が……いや仲は悪かったな……ケンカ友達……? のお迎えが決まっちゃって、それ以来ずっと寂しそうなんです。他の子ともあまり関わろうとしなくて……」

     どうやらここには沢山のイーブイがいるように見えて、これでも初めの三分の一ほどにまで減ったらしい。人気な種類なのだから頷ける。
     けれどつまり、言っちゃ悪いが、今ここにいる子たちは少々売れ残り組というわけだ。

    「まだ幼いんですか?」
    「いえ、他の子と同じくらいです。小柄ですが、すばやさと攻撃力がずば抜けてるんですよ。ただ体格が良い子の方が人気があるようですね……」

     口元に微苦笑を浮かべたお姉さんは、「ステータスにご希望はございますか?」と続けた。

    「いえ特には。戦わせるつもりもないし。でもおとなしくて手がかからない子がいいな」
    「それなら……」

     お姉さんは少し考える素振りをしてから、辺りを見回し、「あの子とかいかがでしょう?」と数メートル先を指差した。ぽかぽかと暖かそうな日差しの中、黄色い蝶が飛び囲う中心に、一匹のイーブイが仰向けで熟睡している。確かにのんきそうだ。

    「あー、いいですね」

     何でもいい僕は大して考えもせず頷いた。
     近寄って顔を覗きこめば、鼻に大きな提灯をこしらえて幸せそうに眠っている。お姉さん曰く、ステータスもサイズも平均的で、見ての通りとにかく眠るのが好きな子らしい。
     愛おしそうにイーブイの寝顔を見つめながら、少々オタク気質のあるお姉さんのポケモン語りが始まった。

    「人間と同じでポケモンにも一匹一匹みんな個性があるんです。遊ぶのが好きな子もいればずっと寝ている子もいるし、臆病な子もいれば誰彼かまわずバトルをしかける子もいます。急に川に飛びこむ変わった子なんかもいて、……あの子元気にやってるのかな……」

     僕は軽く聞き流しつつ、なんとなくまたあの珍妙なイーブイが気になって視線を向けた。なんと、まだこちらを睨んでいる。
     チビな癖してふてぶてしいヤツめ。
     軽く鼻で嗤って、お姉さんが近くにいる手前、声には出さずに「チービ」と口だけ動かしてみた。
     すると、ギラッと何かが光った。と思うやいなや、砂埃を上げ、弾丸のような速さでこちらに向かってくるではないか。

    「え……? いや、ちょっ、────アダっ!」

     避ける間もなく、ゴッ! と鈍い音を立てて僕の顎にヒットした。

    「わあっ、お客さま大丈夫ですか!? すみません!」

     慌てて駆け寄ってくるお姉さんの後ろで、小さな影が音もなく着地した。眩しい陽光が、僕に頭突きをかましてきた不届き者を照らし出す。
     目映いオレンジ色が目を焼いた。
     緩やかなウェーブのかかった柔らかそうな体毛が、けれどネコが威嚇するように、全身針のごとく逆立っている。今にも飛びかかりそうに身をかがめ、鋭い牙を剥き出しにしてヴヴヴと低く唸っている。

    「なっ……!」

     僕は尻もちをつき、涙目になりながらジンジン痛む顎をさすった。

    ────なんって凶暴なイーブイなんだ! 愛嬌だけが取り柄みたいなポケモンの癖に、可愛げをタマゴの殻に置き忘れてきたんじゃないのか!?

     毛色も手伝って、超絶ちまっこいライオンみたいだ。おまけに近くで見ると、吊り上がった目の奥が珍しい色をしていることに気が付いた。────青色だ。

    「……っ!」

     僕は思わず息を呑んだ。
     色といい、サイズといい、性格といい、そいつは僕にある人物を彷彿とさせた。
     数ヶ月前、親代わりの姐とともに町を出ていった、大嫌いな知人にそっくりなのだ。
     全身の血が一気に沸騰する思いがした。輪をかけて最悪な気分になった僕は、聞こえよがしに鼻を鳴らし、吐き捨てるように言った。

    「こんな性悪イーブイ、売れ残って当然だよ。それに君はもっとちゃんと食べた方がいい。あまりにもチビすぎてまだ赤ちゃんかと……ってイダーッ!!」

     この毛玉ァ! あろうことか今度は手に噛みついてきたのだ!
     ブンブン振り回しても全然離れない。悲鳴を上げてすっ飛んできたお姉さんに取り押さえられたが、それでも往生際悪く腕の中でジタジタともがいていた。
     僕と毛玉はしばらく互いを積年の敵のように睨み合った。
     断言できる。僕はこいつが死ぬほど嫌いだ!!

    「……プウ……、スプウ……」

     足元から聞こえてきた場違いな音は、こんな騒動の中でも起きない、もう一匹の毛玉の寝息だ。
     僕はそのツワモノを指差し、高らかに宣言した。

    「この子にします!!」





     ブリーダーからポケモンを引き取って数日間、人間とポケモンの互いの相性を見る、トライアル期間なるものが設けられている。アレルギーや先住ポケモンとの相性など、何か問題があれば返すことができる制度だ。
     僕が連れ帰った子は、イーブイの毛皮をまとったヤドンなのかもしれない。
     一日中ひたすら寝ていて、たまに起きた時に近くに置いてあるフードを食べ、また寝る。
     ポケモンの世話ってこんなに簡単なのかと拍子抜けするほど手がかからない。実に僕の理想的だ。
     今も、僕より断然飼育にノリノリの森さんが買ってきたポケモン用のベッドで──無駄に高級だから寝心地が良いのか──お腹丸出しで気持ちよさそうに眠っている。まだ家に来てほんの数日だというのに、あまりの警戒心のなさには呆れてしまう。
     もっふもふの手触りの良さそうなクリーム色の胸元が、呼吸に合わせて穏やかに上下している。

    「……」

     僕はほんの気まぐれに、ちょっとだけ、触れてみようかと思った。
     そっと腕を伸ばす。
     けれど、手の甲にくっきり付いた歯型が目に入り、瞬時に手を引っ込めた。

    「……チッ」

     思わず顔が歪む。この歯型が視界に入るたび、憎たらしい顔が脳裏に浮かぶ。僕に攻撃してきた、ちんちくりんで凶暴なあのイーブイだ。
     騒動のあと平謝りするお姉さんに聞いた話だが、珍しい色と小柄さゆえに、客に揶揄われることは少なくないらしい。けれどいつもは興味なさそうに無視するだけで、人に対してこんなに攻撃的になったのは僕が初めてだという。僕に対して、なにか特別なものを感じたのかもしれない、と。

    「こっちだって一目見た時から気にくわなかったさ」

     僕を睨み付けるふてぶてしい三白眼。体格が劣っている分せめて愛嬌があればよいものを、可愛げがないったらない。加えてケダモノ並みの凶暴さときた。

    「嗚呼やだやだ……」僕はそいつを頭から追い出そうと首を振った。
    「まったく、少しはこの子を見習ってほしいものだよ」

     再び柔らかなクリーム色に視線を落とす。
     この子はいい。おとなしくて全然僕の手を煩わせない。いささかぐうたらと言えなくもないが、乱暴よりは百倍マシだ。僕の静穏な暮らしを、おびやかすこともない。
     ここ数日で、イーブイが人気な理由が少しだけ理解できた気がする。この撫でてくれと言わんばかりにもっふもふな毛並みには、どこか抗いがたい魅力があるのだ。きっと触れれば深くまで手が沈み、空気をたっぷり含んだ柔らかな綿毛が、ふわふわと優しく指を包んでくれるのだろう。それもこの子ときたら、お腹を開けっ広げて大盤振る舞いなのである。
     僕はもう一度、綿毛に触れてみようかと腕を伸ばした。────ら、

    「ーッ!」

     またあのチビが脳内に帰ってきた。
     その時だ。

    『仲良かった子のお迎えが決まっちゃって、それ以来ずっと寂しそうなんです────』
    「……!」

     なぜか唐突にお姉さんの声が再生された。そしてその言葉は、僕にとある事実を知らしめた。
     つまりだ。あのチビにも、連れ合っていた片割れがいたってことだ。信じられない。
     他の子と無邪気に戯れている姿を想像しようとして……、無理だった。
     あの凶悪毛玉と付き合えるなんて、そいつも余程変わり者なのか、もしくは仏のように寛大な心を持っているかのどっちかだ。
     きっと後者に違いない。すでに誰かにお迎えされたわけなのだから。

    「……」

     なぜだろう。思い起こされるのは、木陰で小さく蹲っていた寂しい姿だ。
     片割れに置いていかれ、ひとりだけ取り残されてしまったイーブイ。
     この先もずっと、誰にも心開くことなく、あの柵の中で孤独と退屈に包まれて生きていくのだろう。

     ほんの少し、僕と似ている気がした。


    「────は?」

     うっかりそんなことを思ってしまい、僕は慌ててかぶりを振った。

    「いやいやいや似てるわけないだろ、あんなちんちくりんと……! 誰が!」
    「ブイ」

     思いがけない返事があって驚いた。
     肯定とも否定とも取れなかったが、やけにはっきり聞こえた。

    「……え」

     発生元を凝視したが、幻聴だったかのように、プウプウと健やかな寝息を立てている。

     僕はしばらくその場に佇んでいた。
     明日はトライアル期間の最終日だ。





     翌日。僕は再び牧場を訪ねた。
     イーブイを連れて現れた僕を見て、お姉さんは驚いた表情をした。

    「何か問題がありました?」

     僕はぶんぶん首を振る。問題なんて何もない。

    「この子、僕には勿体ないくらい良い子だから、ちゃんとしたトレーナーに育ててもらった方がいいと思います」

     お姉さんは少し目を見開いてから、「分かりました」と微笑むと、それ以上深くは追及しなかった。

    「他の子をご案内しましょうか?」
    「いえ、実はもう決めてて……」

     キョロキョロと辺りを見回すと────いた。この間と同じ場所にひとり、ちんまりと蹲っている。

    「あれにします」

     僕の人差し指が示した先を、お姉さんの目が遅れて追いかける。そしてその目は、思った通りこぼれ落ちそうなくらいまん丸になった。

    「えーっ! 大丈夫なんですか!?」

     お姉さんの言葉に僕は深く頷いた。なんなら名前だってもう決めてある。
     驚かれるのも当然だ。なんてったって僕が指差したのは、あの極小で性悪なイーブイなのだから。
     一晩中、僕は考えた。
     このおとなしい子とならそれなりの、今まで通りの日々が送れるだろう。けれど、あの生意気なクソチビを手懐ける方が、きっとよっぽど、僕の毎日は退屈じゃなくなる。もしかしたら森さんの言うように「世界が変わる」、なんてことも、もしのもしかしたらあるかもしれない。
     僕はお姉さんに隠れてほくそ笑んだ。
     それはもう犬のごとくこき使ってやるのだ。掃除に新聞取りに庭の草むしり。毎日の雑事はもちろんのこと、あの嘆かわしいほどに短い前足でマッサージをさせ、寒い日にはあの無駄にもっふりした体を、僕の足置き兼湯たんぽにしてやろう。
     ふふ、どうやって調教してやろうか。

    「よかったね~ご指名だよ」
     眠っていた赤茶色い毛玉を、お姉さんが優しく抱きかかえた。とろんと瞼が開かれ、まどろんだ青い瞳が、ゆっくり瞬きしながらピントを合わせている。それから────「おい冗談だろ?」とでも言いたげな剣呑な目付きで僕を見てきた。
     予想通りの反応に、僕の口角はにんまり吊り上がる。

    「よろしくね、チュウヤ♡」

     そんなわけで僕は、ブイブイ鳴らす凶悪な毛玉と暮らすことになった。
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