マニイヴァ 新刊のスタート案機械の統治には、誤作動がつきものだ。
マニは目の前の存在を見つめながら、そう思った。誤作動と呼ぶのは不適切か。そもそもこいつは、最初からプログラムの外にある存在なのだから。
「僕はイーヴァン!」
快活な声とともに、戦禍の神が勝手に名乗りを上げる。軽快な足取りで近づいてくる彼を、マニは静かに観察した。
──鬱陶しい。
初対面のはずなのに、妙に馴れ馴れしい。
それに加えて、その態度には何の警戒心もない。
神々は多かれ少なかれ、自らの力を示そうとするものだ。力を誇示する者、威厳を漂わせる者、あるいは計算ずくで立ち回る者。だが、この男にはそのどれもがない。あるのはただの気まぐれと、厄介な好奇心。
「やあ、君ってすごく面白そうだね!」
「……どういう意図だ」
「そのままだよ」
目を輝かせながらイーヴァンは笑う。
「君みたいな神、今まで見たことないんだよね。戦わないくせに、何かを壊すつもりでいる……そんな気がする」
マニの眉がわずかに動く。
──こいつ、何を知っている?
だが、イーヴァンは続ける。
「それでね、君みたいな神は、たぶん僕とは正反対なんだろうなって思うんだけど……うーん、だからこそ気になるっていうか?」
「……話が通じない」
「そう? 僕はすごく理にかなってると思うけど」
理にかなう? どこがだ。マニはイーヴァンを睨みながら淡々と答えた。
「合理性がない。目的が不明確だ」
「目的?」
イーヴァンは少し考え込むような素振りを見せたあと、再びにこりと笑う。
「じゃあ、目的は……君がどんな風に変わるのか、見てみることかな」
「……何?」
「だって、君は絶対に変わらないって顔をしてる。でもさ、それってすごく面白いんだよ。変わらないって決めてるやつほど、どこかで変わるものだから」
それは確信めいた言葉だった。まるで、すでに何かを知っているかのような――。
マニは、イーヴァンの笑顔を見据えながら、ゆっくりと息を吐いた。
この男は、ただの気まぐれではない。
本能的に、何かを見抜いてくるタイプの厄介な存在だ。
そして、何より──
「……時間の無駄だ」
マニは背を向けた。だが、イーヴァンの声が追いかけてくる。
「これからよろしくね」
「関わってくるな」
「つれないなあ。じゃあ時々会いにいくよ」
この男は話を聞いているのか? 瞬間、マニは確信した。こいつは本当に、勝手に絡んでくるつもりだ。機械統治の計算外の存在。誤作動。ノイズ。そして、放っておくにはあまりに厄介な何か。
―イーヴァン。
その名だけが、マニの記憶に残った。