腕の中の妻は安らかな寝顔で、静かに寝息を立てている。
珍しくふと夜中に目が覚め、目の前のかわいい寝顔をなんとなく眺め。二人分の体温に程よくぬくい布団の中で、うとうとと再び眠りの波がやってくる。
そのリズムに身を任せるように瞼を閉じたり緩く開いたりしながら、御行はかぐやの背後に流れる艶やかな黒髪をそっと梳いた。
男の節だった太い指も引っ掛けることなく通す、絹糸のように繊細な髪。就寝時にはどこも結われることなく下されたままのそれは、まるで眠り姫を守るベールのようだ。……そんなことを夢現に考えて、御行は悪戯心のような、ほんの些細な誘惑に駆られた。
彼女の耳元に指先を伸ばして、壊れ物を扱うような力加減で流れる黒髪をゆっくりとかきあげる。耳にかけられた艶髪の下から現れた白皙の小ぶりな耳に、御行は淡い微笑みを浮かべた。
あくまでかぐやを起こしてしまわないように、しかしどこか遠慮のない動きでその耳に触れる。ふにふにと特に目的もなく暫し弄んで、やがて満足したように指先から解放すると、彼女の顕にされた耳を再び漆黒のベールに覆い隠した。
——もしかぐやが起きていたら、何がしたいんですかって怒られそうだな。
拗ねて頬を赤くする様子を思い浮かべて、御行は喉の中だけでくつりと笑う。学生時代は殆ど髪を結い上げていたし、今だって特別耳が隠れているわけではないのだけれど。覆われていると何だか暴きたくなるのは何かの性なのか。
そういえば、彼女が氷のかぐや姫などと呼ばれていた頃。周りの一切を遮断するように冷たく下された黒髪の、その間から時たまちらちらと覗く、小さな耳の雪白がやけに目に痛かったことを思い出す。
考えることは変わらないものだ、と御行は妙に納得して——そこで微睡んでいた意識が闇に引き込まれた。