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    すずか

    お試しに 男女カプが主食

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    すずか

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    縦書きテスト掲載にだいぶ昔の書きかけを このまま永遠にお蔵入りいきですね…

     一人部屋が欲しい、という極めて普遍的な欲求は、年頃の男子高校生たる白銀御行もまた例外なく持ち合わせていた。
     突然——いや、あの親父のことだから案外以前より機を伺っていたのかもしれないが、兎にも角にも降って湧いた引っ越し話。実家を離れる日も遠からぬ時期にようやく一人部屋というものを手に入れた御行は、しかしその恩恵を十二分に享受していた。
     耳朶を震わす、繊細でどこか甘い声音。
    『——それで、その時は決着がつかなくて』
    「藤原はどこからそんなゲームを持ってくるんだ…」
     わざわざ深夜に話すにはささやかな、否、こんな夜更けだからこそくすくすと笑えるような日常の小話を、携帯越しに交わす。
     二人のひそやかな会話を覆うのは薄い布団一枚だけではなく、部屋を形作る四方の壁に鍵のかけられたドアという堅牢な構え。鍵までかけるのはかえって露骨かもしれないが、どうせ一度バレてしまっている以上筒抜けだろうし、いっそ牽制するぐらいがきっと丁度いい。
     彼女と何も気にせず話せる時間ぐらい、確保させてもらっても文句はあるまい。
    『…あ、会長。雲が晴れてますよ』
    「え?」
     言われて、窓際に歩み寄って閉じられたカーテンを開ける。真夜中でもちらちらと瞬く星明かりたちを下目に、漆黒に沈む空の中にもくもくと漂っていたはずの雲が薄らと分散し、いつの間にか確かに月が顔を見せていた。
     煌々と照る光が、やや眼に眩しい。
    「本当だ。月がよく見える」
    『今日明日は曇りだという話でしたけどね。せっかくの満月なのに』
     試しに窓を少し開けてみると、ぬるいながらもわずかに清涼感を感じられなくもないような風が、御行の肌を静かに撫でていく。ああ、夏だなぁと取り留めもない思考が泡沫のように浮き上がってきて、消えた。
    「……綺麗な満月だな」
     相手に聞かせるとかどうとか、など気にせず零れた呟きだった。純粋な感嘆にも似た何か。
     御行の意思に関係なく、最近の高性能なスマホはおそらくその声を拾い向こう側の彼女に届けたであろうが、かぐやはただ、一言を囁くように漏らした。
    『……いま、会長と私は同じ月を見ているんですね』
     まるで小説や漫画の一節に出てきそうな言い回しだった。ただそんな雰囲気を満喫できる年頃の、甘酸っぱい恋人同士の片割れである彼は、ふと気づいた。
     まるで遠い距離に隔てられている恋人たちのように空を確かめあわずとも。
    「四宮。月見、しないか」
     歩けば手をのばせる距離に、いるのだから。
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