微睡みの中ザクザクと雪を踏みしめながらまっすぐ愛しの家に帰る。玄関前のラグで靴に張り付いた雪を振り落とし、木のドアを通ると暖かい空気に包まれ冷えた手足がジンジンと痺れる。冷たい空気を吐き出し少し濡れた外套をハンガーに掛け、一直線にリビングへと歩いていった。
「帰ったぞ」
部屋へ入ると控えめな寝息と共にパチパチと暖炉の薪が弾ける音が聞こえてきた。暖炉の火が揺らめいて暖かい空気が頬を撫でる。今日は特段寒くはないにしろ、この温度に自然と気が抜ける。
「シーッ、2人が寝てるんだからもう少し静かに」
「おお、すまんすまん」
グレイはソファーに座りながら編み物をしていた。籠の中の毛糸はマフラーが伸びていくにつれどんどん小さくなってゆく。どかりとグレイの横に座り背もたれに身を預ける。部屋の暖かい温度が全身を包み込み寒さで強ばっていた体が少しずつ解けていく感覚がする。
グレイが編み物をしていた手を止め部屋を離れた。少しすると木のボウルとスプーンを手に戻り暖炉の中で温めていた鍋の蓋を開けた。ふわりとシチュー香りがしてくる。
「寒かったでしょう」
「ああ、ありがとう」
そう言ってボウルにたっぷりと入れられたシチューが手渡された。トマトの酸味に肉の旨み、野菜の甘さが加わってとても美味しい。シチューとグレイの心遣いで体の内側からじんわりと暖かくなる。
暖炉の方を見ると傍にあるロッキングチェアがゆらゆらと揺れていた。そこにはブランケットを掛けられ赤ん坊を抱きしめている俺たちの子供がいた。2人は安心しきった顔で寝ている。
視線の先に気づいたグレイは元の位置に戻り編み物の続きをし始めた。
「まさかあいつ一人で育てると言うとはな」
「あの子、存外頑固だもの。でも今日は面倒を見るのに疲れて寝てしまったみたいね」
「まるであの頃の俺らみたいだな」
「懐かしいわ、いつの間にかこんなに大きくなって」
優しげに目を細めたグレイの横顔を見たニックは彼女の肩に腕を回し引き寄せた。笑った時に出来る目尻のシワが昔よりも深くなっている、そんな俺も昔より体力が落ちてしまった。腕に収まるほど小さかったあの子はいつの間にか立派な男に成長し、あの頃の俺たちのように赤ん坊の世話をしていた。
「あいつには幸せになって欲しいな」
「何を言ってるの?私たちの子供なら必ず幸せになるに決まってるわよ」
きっぱりと言い切るグレイに自然と笑ってしまった。
「ああ、そうだな、それもそうだ」
その夜、ログハウスは優しい光と小さな笑い声に包まれた。