同等の喜びをふわりと微睡みから意識が浮き上がる、今日もまた新しい一日がやってきた。目を覚ましたアルジェンティは隣で寝ているブートヒルの頭を撫で、彼を起こさぬように静かにベッドから抜け出し洗面台へ向かった。
「⋯おや?」
アルジェンティは鏡に映ったの自分の首元の赤色に気がついた。少し身を乗り出して近づいてみるとそこにはいくつかの赤い痕が散らばっていた。いつの間に付けたのか、僕の気がついていない間にこのような事をするなんて、なんて可愛らしい事をするのでしょうとアルジェンティは微笑んだ。この喜びを彼に返したくなりふと思う、僕は彼にキスマークをつけた事があっただろうか?
「ということで、キスマークを付けさせて頂きます」
「普通ここはオレにお願いする所だろ」
ベッドに座り向かい合うようにブートヒルを膝に乗せ真剣な顔でそう言ったアルジェンティにブートヒルはため息をついた。それでも腰と首に腕を力強く回され逃げる事が出来ないブートヒルは渋々と了承した。
「では失礼します」
顔を首元に埋め唇で肌触りの良い首筋をなぞる、その感覚がくすぐったいのか震える腰を逃さぬようしっかりと捕まえ直しある一点に狙いを定める。相手が痛くないようにと弱々しく吸い付き唇を離す。目の前の肌は変わらず真っ白だった。
「上手く付きません、どうしてでしょう?」
「アンタ相当下手だな、もっと力強く吸うんだ」
アルジェンティはもう一度、彼の言葉通り先程よりも強く吸い付いた。それでも首筋には一つの赤色も付かない。
「おかしいですね」
それから何度も何度もリップ音が聞こえるほど吸い付いたり、口の開き具合を変えたり、位置を変えたりしながらアルジェンティは目の前の白い肌を吸ったが全て失敗に終わった。
流石に何かがおかしいと思案していると上の方からクククッと笑い声が聞こえてきた。
「アンタ本当に面白いな」
「僕は本気なんですよ!そう笑わないで下さい」
「アンタ気づいて無いのか?」
ニヤリと鋭い歯を見せながらブートヒルが言った。
「オレの肌はシリコンで出来てるんだ」
だからキスマークが付くはずが無い、そう言外に言われアルジェンティはショックで固まってしまう。その間もブートヒルは笑いながら子供みたいに必死に吸い付く所が面白かったと言っているが、その言葉の一つすら頭に入ってこない。
「それなら僕はどうやって貴方にこの喜びを返せばいいのでしょう?」
捨てられた仔犬のように悲しむアルジェンティを見てブートヒルは呆れたようにため息をついた。
「そんなに悩むくらいなら代わりにアンタの匂いがオレに染み込むくらい愛せばいいだろ」
そう言ってブートヒルは腕をアルジェンティの首に回し後ろへ倒れ込んだ。突然の事に目を白黒させながらもブートヒルを押しつぶさないようにと彼の顔の両脇に腕を立てた。それが結果として赤い髪と腕が檻のように囲み、薔薇の香りで退路を閉ざす。ブートヒルは未だ状況が理解出来ていないアルジェンティを気にする事無くトドメとなる言葉を放った。
「アンタはどうオレを愛してくれるんだ?」