扉を隔てた中と外(開拓者視点)
開拓者が廊下を歩いていると丹恒の部屋からざらついた声が呆れたように話す。
「兄弟、アンタ本気か?」
「ああ、俺はいつでも本気だ」
興味が湧いてきて耳をドアへ付けると、緊張を解すかのように数回深呼吸のが聞こえてきた。
「⋯そうか、アンタがそう言うってんならオレも覚悟を決めるとするか」
ゴソゴソと布の擦れる音とカチャカチャと金属特有の音が聞こえてくる。
「⋯⋯コレは何処にさせば良いんだ?ここか?」
「その穴じゃない、こっちだこっち」
コツコツと鉄を軽く叩く音が聞こえた。
「ブートヒル」
「あ?」
丹恒の真剣な声がドア越しに耳に入ってくる。
「最後にもう一度確認する、良いんだな?」
「何度も言わせるな、ちゃんと狙えよ」
⋯これ以上は邪魔してはいけない、銀河打者だって空気を読めるのだ。ただ後で姫子に赤飯を炊いて貰おう。そこまで考え、開拓者は三月の部屋へと向かった。
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(丹恒視点)
今日はアーカイブの整理をする日だ。たとえ誰が来ても余程のことがない限りやめるつもりは無かった。整理をし始めて30分ほど経っただろう、ドアの開く音と共に楽しげにブートヒルが部屋に入ってきた。
「よう兄弟、久しぶりだな!」
「ブートヒルか、すまないが今日はアーカイブを整理するつもりなんだ。だから余りお前に構ってやれない」
「なんだよつれねぇな」
ズカズカと入り込んできた侵入者は我が物顔で俺の布団に寝転びこちらをじっと見つめてきた。ブートヒルからの視線を気にせず俺は資料の整理に没頭した。
そこからどれほど経っただろう、とあるアーカイブについて悩んでいた所肩に腕を回された。
「オレも手伝ってやろうか?礼ならモルトジュースの1杯でも奢ってくれ」
少し考え彼なら大丈夫だと思い例のアーカイブをUSBに複製し振り向いた。
「コレだ」
「おお!どんなのだ?」
「今この中に俺の過去に関する内容が入ってる、ただウイルスが入ってる可能性があって下手に手出しが出来ないんだ。ブートヒル、お前に頼んでもいいか?」
「あー、確かに前アンタにほとんどのウイルスは効かねぇから大丈夫だとは言ったが⋯」
ブートヒルにしては珍しく歯切れの悪い答えだった。続きを促すようにジッと彼を見続けると降参するように両手を上げ口を開いた。
「⋯アンタ、過去の事を言いたく無かったんじゃねぇか」
知られても大丈夫なのかと言外に聞かれた。
「ああ」確かにそうだった。
「だが、お前なら構わないと思ったんだ」
その言葉にブートヒルは機械がフリーズしたように固まり数秒かけて再起動した彼は呆れたように言う。
「兄弟、アンタ本気か?」
「ああ、俺はいつでも本気だ」
そうしてブートヒルは心を落ち着かせるように何度か深呼吸をして言う。
「⋯そうか、アンタがそう言うってんならオレも覚悟を決めるとするか」
手に持ったUSBと共にブートヒルに近づきふと思う。
「⋯⋯コレは何処にさせば良いんだ?ここか?」
背中を隠しているマントをめくり中央の丸い穴を指さした。
「その穴じゃない、こっちだこっち」
腰のUSB穴が見えるように腰を捻りコツコツと指で叩いた。
ちゃんと穴にささるように上下を確認して、USBが入る直前に一度深呼吸をして最後の確認をする。
「ブートヒル」
「あ?」
「最後にもう一度確認する、良いんだな?」
この中にはどんなウイルスが入っているのか分からない、もし変わったウイルスが入っていたらブートヒルにどんな影響を及ぼすか。少しでも不安や動揺を感じ取れたらすぐに中止できるよう彼の顔を伺う。けれども丹恒の想像と反対にブートヒルはしっかりと丹恒の目を見つめ返しその上ニヤリと笑って見せたのだ。
「何度も言わせるな、ちゃんと狙えよ」