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    ですほわいとさん

    主に小説とか小ネタとかえっちなやつとかネタバレ絵とかを置いています。

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    POIPOI 35

    ※二次創作
    変わる事が怖い兄と、狡賢い弟の話。物騒な言葉が飛び交いますが、なんて事はない告白劇です。

    ##gnsn

    【ガイディル】三度目の傷心自殺 ディルック・ラグヴィンドは過去に二度、死を経験している。
     ならば今の彼は幽鬼か、と問われれば「人に寄りけり」と返す他ない。死の概念は人によって異なり、そもそも彼の死を死と捉えるか否かでその判断は覆るからだ。
     しかしディルックは自分の死をまごう事なき死と自覚しており、それ故に今、彼は三度目の死を迎えようとしている。
     
     
     
    「ディルック、俺と付き合ってくれないか──ああ、何処にとかそんな茶番は要らない。恋人として、って事だ」
     閉店後のエンジェルズシェア、その三階。通い慣れた一室で、いつになく真面目な顔でイグサの花束を自分に向けて差し出すのは、間違えようもなくガイア・アルベリヒだった。本音を漏らせば、いっその事間違えたかった。しかしつい先程まで遠回しな皮肉の応酬をし、互いに入手した情報を材料にそつなく取引し、さあ後は別れるだけという間際の出来事である。これで彼が偽物だと言うなら、とんだ手練れが居たものだ。
     頭の中では様々な言葉や記憶やこれからすべき行動が飛び交っていたが、ここ数年で拵えた鉄仮面は非常に上手くディルックの動揺を隠してくれた。だが、このままフリーズしていてはガイアはさらに駒を進めて来ることだろう。昔から狡賢く、頭が回る男なのだ。ディルックが衝撃を受けている間に話を進められては、出来るはずの対応も霧散してしまう。
     だから──ディルックは酷く焦っていた。とにかく、とにかく何かアクションを起こさなくてはいけない。軽口を叩くも、跳ね除けるも、まずは繋ぎとなるワンアクション。それだけでいい。
     時間にして数秒。赤く大きな目をぱちりと瞬かせ、ひとまず差し出された花束を受け取った。
     その柔らかい明かりが胸元で輝くのを目にして、はたと思い当たる。これは間違えたのでは?
     慌ててガイアの顔を伺えば、いつも通り余裕そうな笑みを携えているが、若干前のめりになっていた。
     まずい、喜んでいる。しかもかなり喜んでいる。
     ガイアは拾い子ではあったが、ラグヴィンド家の方針でディルック同様に厳しい教育を受け、人並み以上の技術と知識を身に付けていた。それこそ、急に空けられた騎兵隊長の席に突然座らさせられても遜色無いほどの実力だ。だからガイアの姿勢は軟派な外見に似合わないほど綺麗で、その背筋は氷柱のように真っ直ぐだ。その立ち振る舞いが彼の感情が動いた時、大きく揺れるのを何人のモンド人が知っているのだろうか。昔ベッドの中、二人で体を丸めながら朝まで語り明かした時に癖でもついたのか、丸まった両肩は彼が堪えきれない喜びを抱え込んでいる時の印だった。
    「受け取ってくれたって事は、そう言う事だよな?」
    「ま、」
     待て、とも間違いだ、とも言えなかった。つい数分前まで今シーズン最高の出来の葡萄ジュースを試飲していたのに、口の中が渇ききって煩わしい。だって、ガイアが喜んでいる。肩を丸めて、昔の癖を思わず晒してしまうほど喜んでいるのだ。ここから彼の気持ちを否定したらどうなる? きっと、酷く悲しむのだろう。けれども物分かりの良い奴だから、「俺の気持ちが正しく伝わっているって、分かっただけでも良かったさ」とか言い出すのだ。
     裏切られようと、曖昧な距離感を保とうと、ディルックの中でガイアは常に特別だった。好きとか嫌いとか、そう言った感情を度外視して関わらなければならない人物。例え今後数百年生きることが許されようとも、彼ほどディルックの人生に杭を打ち込む存在は無いだろう。
     そんな彼が喜んでいる。ただ向けられた花束を受け取った、それだけで。とんでもない事だ。目の前が眩み、たたらを踏む。床がみしりと歪んだ音を立てた。
    「その、ガイア。僕達は……」
     何とかしないと。喉が引き攣る。どうにかして彼が一番ショックを受けない方法で、この花束を返さなくてはいけない。どうして受け取ってしまったんだ。何故真っ先に断ってやらなかったんだ。嗚呼、こんな上げて落とすような意地の悪いことをするつもりは毛頭無かったのに。
    「僕達は、また変わってしまうのか」
     ──どうして、僕は彼を否定しなくてはいけないのだろう。みしり、みしり。崩壊の足音が聞こえる。ガイアの手が、ゆっくりと自分に伸びて来るのが見えた。避ける事も、その手に花束を押し付ける事だって出来たはずだ。しかし、チョコレート色の腕が背中に周り、彼のピアスが頬を掠める段階になっても、花を抱えたままの腕は解けない。
     ぎゅう、と少し冷たい体温を間近に感じて、抱き締められているのだと理解する。みしり。視界が軋む。駄目だ、死ぬ、死んでしまう。これまで二度死を経験したディルックだったが、死を自覚してから迎えるのは初めての事だった。
     
     
     
     兄のディルック・ラグヴィンドは雨の日に死んだ。
     騎士のディルック・ラグヴィンドも遠き日に死んだ。
     どちらも自ら死を選んだ。まごう事なき自殺だった。
     ならば、この死は何にあたるのか? 花束というナイフを向けてきたのはガイアだが、それを抱き止めたのはディルックだ。ガイアを加害者だと詰るのは、あまりにもお門違いだろう。ならばこれも自殺か。思わずはは、と笑いが溢れる。
    「ガイア、僕を殺してくれないか」
     突然の狂言を、ガイアは「うーん」と間延びした返答で受け取った。本当に良くできた子だ。
    「殺さないと駄目なのか?」
    「駄目だ。殺さないと、諦めがつかない。まだ生きているからと縋ってしまいそうになる」
     ただでさえ故人を偲ぶ時がある。あの美しき日々を夢に見ては、感傷に目を細めて立ち止まりそうになる自分がいた。歩みを止めてはならない。二度の死を経て尚も生きるディルックにとって、信念を貫く事は彼が彼である為のレーゾンデートルだ。
    「ディルック」ガイアの声が耳元で聞こえた。「俺が殺すなら、おそらく凍死だ。死体は残っちまうが、構わないか?」
    「えっ」
     それは大変困る。これまでディルックは自らを、蝿が集る一片の隙も許さないほど徹底的に燃やしてきた。その執念すら感じる焼却処理は、現実にあったら怪奇殺人事件として小説のネタになっていた事だろう。
    「残るのは困る。殺す意味が無くなってしまう」
    「なら、俺が良い殺人手段を思い付くまで先延ばしにさせてもらえると助かるんだが」
     ようやく、ガイアが身を引いて離れた。思わずほっと息を吐く。二人の間で押し潰されたイグサは、二つほど花がよれてしまっている。その花弁をガイアが謝罪するように撫でれば、指先から散った氷元素が室内のあかりを浴びて輝いた。
     キラキラと反射する光を、男はギュッと握り締める。見慣れた仕草に、彼が元素爆発を放つ時を思い出した。光を掴んで、纏う。どんな闇夜でも、彼の元素を見失わない自信がある。何しろ、ディルックにとってガイアは特別だ。
     特別から渡された花束を、拒める筈がなかったのだ。
     
    「それに俺なら、心を殺すよりもぉっと良い方法を提案できると思うぜ」
     
     
     画して、三度目の自殺は未然に防がれた。
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