タイトル未定「あぁ、こりゃまた事故だね。最近、多いなぁ。お客さん、悪いけど歩いた方が早いよ」
タクシーの運転手の声に、落ちかけていた瞼をはっとさせ、五条はその視線を前方へと向けた。
延々と続く車の列と、どこか遠くから聞こえるサイレンの音。
これなら確かに歩いた方が早そうだ。
五条は小さくため息をつきながら、高そうなカシミアのコートのポケットから財布を取り出して、札の額を確認もせずにタクシーの運転手に押し付ける。
季節は2月上旬。東京では1番寒い季節だ。
吐く息は白く、車内との温度差に思わず首を竦めながら、五条はいつもなら車で5分程度の道のりを歩き出した。
日本人離れした190センチを越す身長と、癖のないサラサラと流れる髪は白い。
2634