入れ替わり五悠(タイトル未定) まぁ、俺は先生が好きで、先生も俺が好き。「ひとつになれちゃえばいいのにね?」って、甘く囁かれた昨日の夜の睦言を思い出すけど、いや、こーゆー意味じゃねぇよな?
鏡に映し出されたのは、まるでアンティークドールのように整った顔。もうすぐアラサーたというのに、シミひとつないつるりとした肌に、バッサバサのまつ毛。空みたいだねって何度も褒めた青い瞳に、雪のように真っ白なサラサラの髪。大好きな恋人の顔。
「う、嘘だろ……」
ぺたぺたと鏡に映るそのご尊顔を触って、すやすやと隣で眠る「自分」を見た。
ピンク色の髪に、両眼の目元には傷。日に焼けた肌に、ポカンの開いた口で気持ち良さそうに寝ているのは、俺だ。
「お、起きて!」
ゆさゆさとその身体を揺さぶると、ふぁ〜と間の抜けた声を出して、俺が再び頭から布団を被ろうとする。
「何、今日休みでしょ?…もーちょいねか、せて…」
「起きて! 先生!」
確信を持ってそう呼ぶと、呼ばれた俺はようやく違和感に気付いたのか、ガバリとその上体を起こした。
「あれ…? 僕?」
パチパチと瞬きをして、俺を指さす俺。ややこしい。
「先生、で間違いないんだよな?」
「……厄介な事になったねぇ」
状況を一瞬で理解したらしい最強は、俺の顔していつもの飄々とした顔で笑った。
「もう一回聞くけど、冗談じゃないんだな?」
目元を緩く押しながら、いつも憂鬱そうな顔をさらに曇らせて、硝子さんが椅子に仲良く並んで座った俺たちに問いかける。
「残念ながら…」
「昨日祓った呪霊の影響だろ? 悠仁と僕が入れ替わるなんて、本当にウケる」
げんなりしてる俺とは対照的に、どこか楽しげな先生。
目を覚ましたらお互いの身体が入れ替わってだなんて、どこの少女漫画だよ!と叫び出したい気持ちを抑えて、縋るように硝子さんを見る。
「本当、みたいだな」
頭痛の種を増やすな…と頭を抱える硝子さんに、俺の身体をした先生が硝子、大丈夫ぅ?とおちょくるように声をかけた。
「五条、宿儺は?」
「あー。朝起きた時はなんかうるさかったけどね。今は大人しくしてるよ。呪いの王が身体の中にいるだなんて、面白い経験出来ちゃった。まぁ、術式は魂に刻まれるもんだし、六眼はないけど僕最強だしね」
にっこりと俺の顔して笑う先生に、俺も改めて自分の身体をじいっと眺める。やっぱりどっからどうみても虎杖悠仁だ。
「で、どれくらいで戻りそう?」
「まぁ、私の見立てなら明日の朝には戻るんじゃないか」
「え! そんな早く戻れんだ」
安心したー!と笑う俺に、硝子さんが若干引き気味に頭を抱える。
「虎杖、五条の顔して満面の笑みを浮かべるな。イライラする」
「ちょっ、硝子酷くない」
「先生、めっちゃ嫌われてんね?」
「悠仁まで! もー!」
ぎゅう〜っと音がしそうなくらい強い力で自分の身体に抱き締められる。うーん、なんとも言えない感覚だ。
「まぁ、今日はオフなら2人とも大人しく過ごす事だな」
「えー! 今日は午後から悠仁と映画観に行く約束してたんだけど!」
「つか、この状況で行く気だったの?」
「あったりまえじゃん。1ヶ月ぶりくらいに被ったお互いの休みだよ? 悠仁と映画デート楽しみにしてたんだから!」
いつもなら可愛いなって思う、ぷんっ!と頬を膨らます仕草も、自分の顔なので複雑な気持ちになる。
「映画観に行くくらい平気でしょ?」
「…勝手にしろ」
すべてを放棄したかのように死んだ目で硝子さんが言うと、先生のやったぁと俺の顔して嬉しそうに笑う。
「じゃ、悠仁。デート行こ?」
「え、まじで行くの?」
「もっちろん。ほら、早く」
どこか楽しげな俺、もとい先生に連れられて、その日は映画デートを楽しんだ。