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    lychee_lulled

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    lychee_lulled

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    Valkyrie版深夜の一本勝負
    第43回「スチームパンク」

    #みか宗みか

    オートマタは喝采のステージの夢を見るか?



     おれ、あの人に組み立ててもらったオートマタなんよ。右の目と左の目にそれぞれアンバーとラピスラズリを入れてもらって、色違いの瞳で世界を見てる。人間のみんなは毎日いろんな難しいこと考えながら生きてて大変そうやんな。おれは、あの人に教わったことを教わった通りにやるだけ。失敗作やからそれしかできひんの。そういう訳やから、みんなおれのいう通りに着いてきたってな。万が一道に迷って秘密の部屋に辿り着いてしまったら、どうなってしまうか誰にもわからんからね。


     今日も博物館は盛況やった。朝昼二回の観覧ツアーは満員御礼。紳士淑女の皆様は展示物に興味津々、ついでにおれの精巧さにも驚いてはった。まじまじと目をみられたり、お触り厳禁や言うてるのに人間と変わりないねっていっておれに触ろうとするお客さまがいるのはちょっと嫌やけど、そうされるくらいにみんながおれという機械人形を、つまりはあの人の生み出した作品を賞賛しているということやから、それがおれには嬉しい。今日の観覧ツアーの最後で行ったちょっとしたショウ。あの人と一緒に、一曲だけ歌って踊った時、あの人だけでなくておれにまで拍手をくれる人がいて、とっても嬉しかった。それを思い出して、ぽろりと涙がこぼれそうになる。あかん。

    「おれ、またおかしなってもうた。メンテナンスして?」
    「またか。君、最近は頻繁に調子が悪いと言うね」
     
     博物館の奥、秘密の部屋っていうのは館長室のことで、ここにはあの人の蒐集物が所狭しと飾られている。美しく着飾ったアンティークドールたち。いっぱいのフリルとレースに埋もれたあの子達は、あの人のいっとうお気に入りのマドモアゼル以外はみんな、埃が被らないようにガラスケースに入れられている。ああいう風に美しく飾られるのも少し羨ましいなと思うことがある。でもおれは動ける人形やから、あの子らの分まであの人に尽くしたい。

    「なんか、今日の最後のショウのこと考えてたら、涙が出てきてしまうねん。でも、オートマタが泣くなんておかしいやろ?」

     あの人は黙り込む。おれ、なんかおかしいこと言うてしまったかな。じっとあの人の目を覗き込めば、少し考える素振りをしてから、あの人はふっと笑った。いつもは厳しいお人なのに、こんなにもやさしく笑えはるんやね。それからおれの髪を柔らかく撫でてくれる。嬉しくて、心がぎゅっとなって、思わず胸の辺りを掴んだ。だめ、あの人に作ってもらった服がくしゃくしゃになる。

    「今日は、君にしてはよくできていたよ。頑張ったね、影片」
    「褒めんとって。また涙が出そうになってしまう」
    「君、もう泣いてしまっているよ?」

     ぽたぽたと服に落ちる涙。いよいよ壊れてしまったのかもしれん。捨てられるのは嫌やなあ、そう思って目をぎゅっと閉じる。

    「今日はゆっくり休みたまえ。……ねえ、君が寝ている間に、僕が君の心を準備してあげようか」
    「心? そんなんオートマタには必要ないで?」
    「君に拒否権は無いよ。いいから、早く上着を脱いで眠りたまえ」
    「わかった。じゃあ、おやすみなさい」

     その夜、おれは夢を見た。おれとあの人はお揃いのワインレッドに身を包んで、この博物館よりももっと大きなステージで歌をうたい、踊っている。数え切れないほどのお客さまがおれたちのパフォーマンスに心を震わせ、割れんばかりの拍手を送った。おれはあの人のことをお師さんと呼んでいて、舞台袖に引っ込んで二人で抱き合って泣いている。体験したかのようにリアルで、でもそれはおれの知らない出来事だった。

     次の日、おれが目を覚ますとジャケットについているハートの色が変わっていた。いつもの緑じゃなくて、あの人がつけている赤。なんで、どうしてと騒いでいると、あの人は不機嫌そうな顔で紅茶を啜った。あっ、目の下にくまができとる。それは寝不足の時の顔やね。

    「僕の衣装の装飾と交換したんだ。君にも心を分けてあげよう」
    「お、おおきに。……でも、なんで」
    「心があれば君が泣くのもおかしいことでは無いだろう」
    「ほっか……」

     着せられたジャケットの左胸、真っ赤なハートを見るとなんだかぽろぽろ涙が出てくる。夢で見たようなあんなステージを、いつかあの人と、お師さんとしたいって。心を持った機械人形は、望みを持つことも許されるんかな。

     涙が止まらないおれの頭をあの人は優しく撫でてくれる。何にも変じゃないよ、とあの人に繰り返し掛けられた言葉のせいでひどく変な、でも確かに救われたような気持ちに、おれはなってしまったのだ。
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    lychee_lulled

    DONEみか+宗で夏っぽい話
    烏の目 もしも『影片みかは何人いる?』って質問をされたら、言ってみたい答えがあった。影片みかはファンの数だけ存在してるんよ、って。
     おれのことを好きになってくれた人は、その心のうちに理想の影片みかを作り出してる。だっておれは、偶像(アイドル)やから。アイドルとして、それら一つ一つに応えていきたいとおれは思う。だから、おれはおれを好きでいてくれる人の数だけ存在するんよ。
     まあそれは、今は特に関係のない話。


     子どもの時に変な特技が身についた。
     例えば部屋の隅っこで三角座りをしている時、三角座りをしているおれを天井から眺めることができるとか。寝ている時に口が半開きなのがわかったりとか。  
     眠る時によだれをこぼしてしまうと、しばらくの間シーツがよだれ臭くなって最悪やったから(なぜなら寝具は週に一回の決まったタイミングでしか洗われなかった。あの施設で優先順位が高かったのはおねしょシーツやったし)、口が半開きなことに気づいたら、ぴたりと口を閉じてまっすぐ上を向いて寝直すことができたおかげで、よだれ臭いシーツとは縁が切れた。そのほかにも、起きた瞬間に後ろ髪の寝癖に気付けたりと、地味に便利やったから、おれはこの特技を重宝していたんよ。
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    lychee_lulled

    DONEValkyrie版深夜の一本勝負
    第43回「スチームパンク」
    オートマタは喝采のステージの夢を見るか?



     おれ、あの人に組み立ててもらったオートマタなんよ。右の目と左の目にそれぞれアンバーとラピスラズリを入れてもらって、色違いの瞳で世界を見てる。人間のみんなは毎日いろんな難しいこと考えながら生きてて大変そうやんな。おれは、あの人に教わったことを教わった通りにやるだけ。失敗作やからそれしかできひんの。そういう訳やから、みんなおれのいう通りに着いてきたってな。万が一道に迷って秘密の部屋に辿り着いてしまったら、どうなってしまうか誰にもわからんからね。


     今日も博物館は盛況やった。朝昼二回の観覧ツアーは満員御礼。紳士淑女の皆様は展示物に興味津々、ついでにおれの精巧さにも驚いてはった。まじまじと目をみられたり、お触り厳禁や言うてるのに人間と変わりないねっていっておれに触ろうとするお客さまがいるのはちょっと嫌やけど、そうされるくらいにみんながおれという機械人形を、つまりはあの人の生み出した作品を賞賛しているということやから、それがおれには嬉しい。今日の観覧ツアーの最後で行ったちょっとしたショウ。あの人と一緒に、一曲だけ歌って踊った時、あの人だけでな 1906

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     おれ、あの人に組み立ててもらったオートマタなんよ。右の目と左の目にそれぞれアンバーとラピスラズリを入れてもらって、色違いの瞳で世界を見てる。人間のみんなは毎日いろんな難しいこと考えながら生きてて大変そうやんな。おれは、あの人に教わったことを教わった通りにやるだけ。失敗作やからそれしかできひんの。そういう訳やから、みんなおれのいう通りに着いてきたってな。万が一道に迷って秘密の部屋に辿り着いてしまったら、どうなってしまうか誰にもわからんからね。


     今日も博物館は盛況やった。朝昼二回の観覧ツアーは満員御礼。紳士淑女の皆様は展示物に興味津々、ついでにおれの精巧さにも驚いてはった。まじまじと目をみられたり、お触り厳禁や言うてるのに人間と変わりないねっていっておれに触ろうとするお客さまがいるのはちょっと嫌やけど、そうされるくらいにみんながおれという機械人形を、つまりはあの人の生み出した作品を賞賛しているということやから、それがおれには嬉しい。今日の観覧ツアーの最後で行ったちょっとしたショウ。あの人と一緒に、一曲だけ歌って踊った時、あの人だけでな 1906

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