アカンツアー2021ロモス~体力はだいじネイル村で一夜を過ごした翌朝。
今日帰らなければならないのでこのままネイル村でのんびり過ごしてもよかったのだけど、ロモスアカンツアーで来てロモス立ち寄らないのも何だかな。
そしたらネイルを発つ時にレイラがピオラをかけてくれた。
「時間がないなら、少しでも早く動けた方がいいでしょう?」
なんだか体が軽くなった気がする。確かにこれは早く動けそうだ。
あたしは諸々お礼を言ってネイルを発った。
すごい。すっすっと体が動く。いつもより歩みが速くなっている。気が付くとあたしは走っていた。
森の中、風を切って走る快感。すっごく気持ちいい。
ピオラの効果が切れないうちにと、あたしはさらにスピードを上げた。
途中、コーラルのワニらしき姿を見かけた気がしたけど、加速が付きすぎてそのまま通過。静岡県内の駅を通過するのぞみはこんな感じなのかもしれない。
森を抜けて少し経ったところで、急に体が重くなった。ピオラの効果が切れたんだ。それでも思ったより長い時間効いてたな。
と、次の瞬間、あたしはその場にへたり込んでしまった。同時に息が上がる。
「ハァッハァッ」
うまい具合に道の脇が野原になっていたので、草の上にひっくり返った。
とにかく酸素。酸素が欲しい。しばしの間酸素を取り込むのに集中する。
あのさ、ピオラってさ、動きは素早くなっても、かけられた人間の心肺機能まで向上するわけではないんじゃない?
ピオラが効いてるときはどういうわけか内臓も筋肉の動きについていっているけど、効果が切れると一気に負担がかかるのでは?
ロカみたいに普段から鍛えている戦士だとピオラ切れても普通に動けるんだろうけど、日常生活で全力疾走することない人間が突然走ったからこうなったのでは?
んでたぶんレイラはロカ以外にピオラかけたことないから、こうなること分からなかったのでは?
いや、これは調子に乗って走ったあたしが悪いのか?体力ないのは認める。
まさかピオラ体験もサービスのうちってことないだろうしなあ……
呼吸が整ってきたところで進行方向に首を傾けた。ロモスのお城が見える。
まあ、貴重な経験ということでいっか。
しかし結局レイラは自分のことは話してくれなかったな。
お城に向かって歩きながら、記憶を反芻する。
それなりに二人でいる時間はあったのだけど、話題は終始世間話や周辺の案内だった。
旅人に気軽に身の上話をする人もそうそういないとは思うけど。
でも個人的な話になりかけると、さりげなくレイラは話題をそらした。なのであたしも聞かなかった。
激動の前半生を生きたレイラは、様々なことを一生ひとりで抱えていくんだろう。
彼女が一線を退いた理由、なんとなく分かった気がした。
ふうっと息を吐いて見上げた空は今日も青い。
間近に迫ったロモスのお城。その上空に白い雲……ではない。何か絵が描かれているっぽい。ロモス版ブルーインパルス?いや、この世界飛行機ないから誰かが飛んでるだろう。フォブスターはルーラ使えるけど、たぶん今サババだよなあ。
あれだけ空飛べるなんて、実はロモスは人材の宝庫なのかもしれない。
絵の完成を見ることなく城門をくぐったあたしは、それが見知った人物の手によるものとは想像すらしていなかった。