お題:無意識、蒼、赤*
「蒼月くん、赤色好きなの?」
退屈な授業から漸く解放された放課後。不意に蒼月に声をかけてきたのは、隣の席の女子生徒だった。冷めた目つきで彼女を一瞥してから、蒼月はぱっと明るい表情を作って「どうして?」と質問に質問を返す。
新しいクラスになってからそろそろ三か月は経とうとしており、生徒は近づいてきた夏休みの気配に浮足立っている。そこまで至っても、蒼月はまだ彼女の名前すら覚えていなかった。昔から見た目がよいと褒められることの多い蒼月にとって、親しくもない人間に唐突に声を掛けられることは経験則上大抵ろくなことにならない。それが蒼月の好みにまつわる質問ならば猶更だった。
「だって、小物とかほとんど赤ばっかりだから」
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