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    はねず

    @hanez_swallow

    腐女子

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    はねず

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    ハンドラおもしれ~~~
    本編ネタバレは特にないです

    拓カルSS あれは――多分、中学に上がったばかりの時だったと思う。短パン履いて走り回っていた小僧が、学ランに着られる時期。ランドセルを背負っていた女の子が、セーラー服を纏った少女に変わった頃。……小学校ではみんなで仲良く遊びましょうという方針だったのに、ただ進学しただけで男子と女子の間に見えない壁が出来てしまう、急激な変化にオレがショックを受けた際の出来事だった。
     カルアとは同じクラスだったが、なんとなく話しかけにくい空気があって、学校でのオレたちは少々疎遠になっていた。女子は露骨に男子と距離を置いていたし、男子の中でも、女子とつるまない方がかっこいい、なんて暗黙の了解がまかり通ってしまっている。
     そんな急激な変化に、ただ中学に進んだだけだと思っていたオレは狼狽した。オレは何も変わらないのに。カルアとオレの関係も変わらない筈なのに。それなのに、周囲がそうさせてはくれない気がして、恐ろしかった。今日の夕飯の話とか、今度の休日の予定とか、そういう話をカルアとしたかったのに、教室の中で切り出すのは悪いことのように思えていた。
     
     ――それでも。
     小学校の頃と同じように、オレとカルアは一緒に帰路につく。それはどちらかがそうしようと言い出した訳ではなく、ただ、当たり前のように。当たり前として。昇降口で相手を待って、二人そろったら、歩幅を揃えて歩き出す。
     
     ……毎日、学校が苦しかった。変わってしまった環境の中で、他人の価値観で、オレ達を測られるのが怖い。オレとカルアの関係を茶化されることで、変わらなくちゃいけなくなることが怖い。……カルアが変わってしまうことが、特別怖い。恐怖で身が竦み、身動きできない毎日が、息苦しい。
     
    「たっくん」
    「……何?」
     
     そんな苦々しい日々の、いつも通りの帰り道。ぼんやりとそんなことを考えていたら、ふとカルアが足を止めた。何かあったのかと思い、オレは振り向き彼女を待つ。
     
    「……たっくーん」
    「なんだよ」
    「たっくん、たっくん!」
    「ど、どうしたんだよ……」
     
     しかし彼女はその理由を明かしはせず、ただ畳みかけるようにオレを呼んだ。もしや怒っているのかと一瞬怯んだが、カルアは終始笑顔のままだった。むしろ、繰り返しオレを呼ぶほど、楽しそうに顔を綻ばせる。
     暫く、カルアがオレを呼び、オレが返事をするだけの謎の儀式を続けたのち、やがて漸く満足したらしい少女は、長い銀髪を風に靡かせながら、小走りでオレの傍に並んだ。
     
    「……あのね、今日クラスで、なんでたっくんのことたっくんって呼ぶのって言われたんだ」
    「…………そう、か」
     
     体が強張り、喉が詰まった。
     そうだ、オレの方がどれだけ気を付けていても、カルアの方がそうとは限らない。何気ない日常会話でオレのことを昔からの渾名で呼んでいてもおかしくない。
     
    「もう中学生なんだから、澄野くんって呼べばって」カルアが困ったように眉を顰め、苦笑した。その大人びた仕草に、オレは息を呑む。
     寂しいと泣いていた少女を思い出す。迷子になって泣いていた少女を思い出す。今のカルアはきっとそんなことでは泣かない。変わらないものなんてない。オレ達は変わる。あの日の少女は、いつか大人として羽化するのだ。二人して、いつまでも子供ではいられない。
     
    「……でもね、わたし思うんだ。澄野くんって呼び慣れちゃったら後々困るかなって」
    「……? なんでだよ」
     
     オレの疑問に、カルアが俯く。俯いたまま「だって」と呟く声は、僅かに上ずっていた。「……お嫁さんにしてくれるんでしょ?」
     
     ――しん、と静まり返る。
     人通りの多くない道であるとはいえ、その瞬間、世界中から音が消えたようだった。彼女の鈴を鳴らすような声が耳の奥で反響してから、ばくばくと跳ねまわる心臓の音が心地よい残響をかき消す。
     何を言えばいいのかわからず、どうすればいいかもわからず、暫く口ごもってから「二言は……ない」と呟く。そう呟いてから、いいやと首を振る。こんな言葉が言いたいんじゃない。こんな言葉が欲しい訳じゃない筈だ。
     
     カルアの肩を掴む。うつむいていた彼女が徐に頭を持ち上げた。夕焼けに照らされた頬が赤い――いや、夕焼けのせいじゃないのかもしれないけれど。
     
    「オレがカルアを、一生守るよ」
     
     しっかりと、そう口にする。「一生」のところに力を込めて言い放つと、カルアは元来大きな目をさらに丸くして、それから破顔した。幼いころから変わらない、見ているこっちが嬉しくなる、そんな笑顔だった。
     
     
     
     隣を歩く、上機嫌な少女の横顔を盗み見る。幼いころのカルアを思い出しながら、かわいいな、綺麗になったな、なんて気味の悪いことを考えていたら、ああ明日が楽しみだな、なんてするりと自然に思った。その事実に、オレは思わず自分の口を抑える。カルアが「たっくん、どうしたの?」と不思議そうにした。いいや、何でもない。何でもないんだ。……だって、明日のカルアに会えることが楽しみだって気持ち自体は、今までと何も変わらないのだから。
     ただ、理由が、ちょっと変わっただけで。
     
     
     
    fin
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