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    asmyan

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    asmyan

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    『特等席』2ページ目
    C翼、ジュニアユース中のお話です。
    メインは若林・翼・岬。
    森崎、石崎、三杉も出てます。カプ要素無しです。

    #キャプテン翼
    captainTsubasa
    #翼
    #岬
    #若林
    wakabayashi
    #三杉
    mitsurugi

    特等席(2/2)


    「石崎くん」
    「? 三杉か」
     宿舎の玄関先で石崎と三杉は顔を合わせた。
    「翼くんと岬くんと、若林くんの姿が見えないんだが、居場所を知らないかい?」
    「あいつらならまだピッチにいたぜ」
     溜め息混じりの、どこか苛立ったような、諦めたような、なんだかとても複雑な、普段の彼からは想像できないような雰囲気で告げられた三杉は、正直に首を傾げて見せた。
    「どうかしたのか?」
    「別に。ちょっと前に森崎から、若林のヤツが居残り練習してるって聞いてさ。……あいつ、久し振りだってのにムカつくだろ? 文句のひとつでも言ってやろうって思って。で、行ってみたら翼と岬に先越されてた」
    「……」
     そこで彼は、何かを思うように口を噤んだ。そして
    「まあ、翼がなんか言ってくれてたら、おれはそれでいいし。ってことで戻ってきたとこだったんだ」
     と、静かに言った。
    「……若林くんの言うことには、一理あると僕は思うよ」
     三杉の言葉に石崎は気色ばんだ。
    「そりゃそうかも知れねえけどよ! 言い方ってもんがあるだろ、言い方ってもんが! ったく、ヨーロッパがなんぼのもんだよ。おれたちだって日本で必死で戦ってきたんだぜ。ついこないだまで全国大会……で……」
     言いながら、何かに気付いたようにハッとした表情になる。その様子を三杉はじっと見つめている。
    「にしたって、あの言い方はねえだろ! ったくいやみったらしくなりやがってよ!」
     肩を怒らせながら石崎は三杉を残してさっさと部屋へと引き上げていく。
     ひとりになった三杉は、軽く溜め息を吐いて宿舎を出た。
     若林のチームへの煽りは相変わらずで、石崎のように反発したり、もしくは戸惑ったりする選手も少なくはない。
    「ヨーロッパがなんぼのもん、か……」
     今さっき言われた言葉を繰り返す。そうなのだ。若林は知っている。『ヨーロッパがなんぼのもん』なのかを。そして、日本国内のレベルが『なんぼのもん』なのかも。
     ここまでチームの敵愾心は若林に向けられていて、遠征最初の親善試合の惨憺たる結果にも意気消沈する暇はなかった。つまり。
    「なかなか、ストレスの溜まる役目を負ったものだね」
     宿舎に隣接する練習場まであと少し、のところにさしかかった時、三杉の耳に弾むような声が聞こえてきた。
    「ったく! ちょっとは手加減しろっ、お前ら!」
    「コンビプレイしてもいいって言ったの若林くんだもん」
    「手加減なんかしたら怒るくせに」
    「くっそ! もう一回だ、もう一回!」
    「じゃあまた決めよう岬くん」
    「そうだね、翼くん」
     瞳を瞬いて練習場のフィールドへ足を踏み入れる。そこには、嬉々としてボールを蹴る翼と岬と、ゴール前に陣取る若林の姿。
     フィールドの中央からややゴール寄り。アタッキングサードからバイタルエリアに向けて、三角コーンが点々とまっすぐに並べてあり、それを挟むように翼と岬がスタンバイしている。かけ声と共に、翼が岬とパス交換をするのだが、コーンとコーンの間を抜けるように意識してパス出ししているところを見ると、あれは敵のプレイヤーを想定しているのだろう。
     それにしても。
     三杉はほぅ、と息を吐いた。
     何度見ても無駄のない、美しいパスだ。全くの赤の他人同士が、あんなに完璧で素早いパス回しができるなどとは本当に信じがたい。
     見惚れている間にふたりはバイタルエリアに入り込み、若林の守るゴールに向けてシュートを蹴り込む。さすがに左右に振り回されては理想的なセーブには結びつかないはずだ。だが彼はギリギリまで残しておいた足を伸ばして、岬の放ったシュートを見事にセーブしてのけた。
    「よし!」
    「あ~~~」
    「今のは若林くんのナイスセーブ!」
     まるで子犬たちが戯れているようだ、と三杉は思う。試合中は張り詰めてキャプテンシーを遺憾なく発揮し、時にはチームメイトを叱咤激励する鋭利なプレイヤーが、どうだろう。こんなにも少年らしい表情で、騒がしく、楽しそうにサッカーボールを蹴り合っている。
     羨望に似た何かを感じて、三杉は胸をそっと押さえた。
     と、突然、翼が真っ暗になった空を仰いで「あ~あ!」と叫ぶ。
    「やっぱり勝負したかったよ! 若林くん!」
    「翼……」
    「おれも諦めが悪いよね! 分かってるけど!」
     苦笑する若林と首を傾げる岬。三人はふたたびペナルティアークあたりに集まった。
     遠征初日の親善試合のことを、どちらかが説明したのだろう。岬は柔和な笑顔を見せて何度か頷く。
    「なるほどね。でもそれはさ、翼くん」
    「?」
    「きっと、もっと先にあったほうが楽しめるってことなんだよ」
    「もっと先?」
     うん、と頷いて岬は翼の肩を抱く。そしてもう片方の腕で若林の肩も。
    「きみの体調が万全で、そして、もっと強くなった頃に対戦する方がきっと楽しいってこと。それに、若林くんはクラブチームって組織の中で鍛えられているけど、翼くんはそうじゃない。これだとやっぱり差が出ちゃうかもしれない」
    「まあ、確かにそれはあるかもな」
     若林も岬と翼の肩を抱いた。呼応するように、翼も岬と若林の肩に腕を回す。
     とてもちいさな、円陣ができた。
    「おれ、中学を卒業したら、ブラジルに行く。……そしたら、条件は一緒になるよね」
    「岬、お前もフランスでどこかに所属したらどうだ? フランスのサッカーはお前のプレイスタイルに合ってるしな」
    「ボクも若林くんや翼くんみたいに、プロを目指していけるかな」
    「! 岬くんならきっと大丈夫だよ!」
     瞳を輝かせて翼が岬を見つめる。そのまなざしを眩しそうに気恥ずかしそうに岬は受け止めた。
    「岬もプロを目指すんだとしたら、俺と翼の対戦だけじゃなく、岬と翼の対戦もありうるな」
    「!」
    「?」
     ふたりは驚いたように視線を交わす。
    「それはとても」
    「楽しみだね!」
     けれど、彼らの夢は『プロサッカー選手になること』ではない。あくまでもそれは過程。その先にはオリンピック金メダル獲得があり、さらには日本のワールドカップ優勝がある。
     その高みへ行き着くために、彼らは彼らの道のりをしっかりと踏みしめて前に進まなければならない。
    「まあ、まずはこのジュニアユースで結果を出すことが必要だがな」
    「うん、分かってるよ若林くん」
    「ボクたちは絶対に勝ち進む。そして……」
     岬の言葉に翼も若林も力強く頷く。互いの肩に回した腕に力がこもる。
    「ジュニアユース大会、優勝するぞ!」
    「「おう」」
     かけ声と共に解かれた円陣と、互いを見つめる決意と覚悟。それはとてもきらきらしていて、三杉は思わず瞳を瞠る。先ほど出会った石崎の複雑な表情を思い出す。
     彼らは僕たちの先を走って行く。追いつくまで待ってくれたりはしないはずだ。彼らですら、追い求めるものは彼らの遥か先にあるのだから。ならば、僕たちが死にものぐるいで追いつくしかない。羨ましがってばかりはいられない。そんな暇はない。
     どんな手段を講じたとしても、なりふり構わず追いかけるしかない。
     彼らと同じ、フィールドに立ちたいと望むのならば。
    「……」
     深呼吸をひとつ。顔を上げ、三杉は声を出した。
    「翼くん、岬くん、若林くん。君たち、そろそろオーバーワークだよ」
    「三杉くん? もしかして、迎えに来てくれたの?」
     翼の言葉に軽く頷き、サイドラインを跨ぎ越す。
     幼い頃から今まで、数え切れないほどこうしてピッチへと足を踏み入れたというのに、三杉はこんなに緊張したことはない、と思う。速く打つ鼓動を覚らせることなく、平然とした表情を作ることには慣れている。
    「ごめん! そろそろ上がろうって思っていたところなんだ」
    「じゃあ片付けるか」
    「僕も手伝うよ」
     コーンを重ね、散ったボールを集め、数を数えながらカゴへ入れていく。
    「ん? ひとつ足りない」
    「これで最後かな。はい、若林くん」
    「ダンケ、三杉」
     手渡したボールを受け取る若林の表情は柔和で、つい三杉は目元を緩めてしまった。三杉の表情に気付いた若林ははっとして小難しい顔を作ろうとしたのだが、今頃取り繕ってもこいつには通用しないだろうとでも思ったのか、苦笑を向けた。
    「今のは見なかったことにしといてくれ」
    「貸しひとつってことでいいのかな?」
    「は!? なんだそりゃ」
     涼しい顔をする美丈夫に苦々しい顔を向ける。そこへ翼と岬も戻ってきた。若林と三杉の短い会話に興味津々な顔をしている。
     しかし若林は無言でキーパーグローブを外し、外したグローブで翼と岬それぞれの頭をぽんとはたいた。
    「部屋に戻ったらしっかりストレッチしとけよ、ふたりとも。付き合ってもらって言うのもなんだが、三杉の言うように少しオーバーワーク気味だからな」
    「うん、大丈夫。岬くん、晩ご飯どうするの?」
    「ミーティングもあるし、一緒にお願いしてあるよ」
     若林を挟んで三人は並んで歩いて行く。その後ろを三杉は歩く。今は選手としてではないけれど、これからはじめて世界に向けての一歩を踏み出す、自らの先を見るように。
     不意に若林が三杉に目を向けた。全く予想していなかった彼は一瞬ぴくりと肩を震わせる。それに気付いているのかいないのか、若林は口元に僅かな笑みを敷いた。
    「三杉、ちゃんと食えてるか? こいつら顔に似合わず大食漢だからな。負けてんじゃねえぜ」
     え、ちょっと若林くん。ぼくたちそんな大食らいじゃないよ。ねえ?
     パスのように言葉を交わす彼らに微笑みながら、三杉は軽く足を速めて翼の隣に並ぶ。胸にひっそりと、けれど揺るがない決意を抱いて。
     僕も必ずここに立つ。シビアだとしても譲れない、居心地のいい、この場所に。
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    asmyan

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    「石崎くん」
    「? 三杉か」
     宿舎の玄関先で石崎と三杉は顔を合わせた。
    「翼くんと岬くんと、若林くんの姿が見えないんだが、居場所を知らないかい?」
    「あいつらならまだピッチにいたぜ」
     溜め息混じりの、どこか苛立ったような、諦めたような、なんだかとても複雑な、普段の彼からは想像できないような雰囲気で告げられた三杉は、正直に首を傾げて見せた。
    「どうかしたのか?」
    「別に。ちょっと前に森崎から、若林のヤツが居残り練習してるって聞いてさ。……あいつ、久し振りだってのにムカつくだろ? 文句のひとつでも言ってやろうって思って。で、行ってみたら翼と岬に先越されてた」
    「……」
     そこで彼は、何かを思うように口を噤んだ。そして
    「まあ、翼がなんか言ってくれてたら、おれはそれでいいし。ってことで戻ってきたとこだったんだ」
     と、静かに言った。
    「……若林くんの言うことには、一理あると僕は思うよ」
     三杉の言葉に石崎は気色ばんだ。
    「そりゃそうかも知れねえけどよ! 言い方ってもんがあるだろ、言い方ってもんが! ったく、ヨーロッパがなんぼのもんだよ。おれたちだって日本で必死で戦っ 3982

    asmyan

    DOODLE『特等席』1ページ目
    C翼、ジュニアユース中のお話です。
    メインは若林・翼・岬。
    森崎、石崎、三杉も出てます。カプ要素無しです。
    特等席(1/2)

     練習時間が終わり、選手たちは三々五々フィールドを後にしている。その中でひとり、ぽつんとゴールマウスに立つ影がある。
     彼はキーパーグローブをしっかりと両手に嵌め、リストバンドを適度な圧力で締め直し、ぱん、と気合いを入れるように両手を打ち合わせた。
     おもむろに腰を下ろす。それからゆっくり体を伸ばし始める。練習後のクールダウンというよりも、これからが本番だというように。
     念入りに準備をし、ようやく立ち上がると、片方のゴールポストに近付いて手のひらを当て、それから反対側のポストへ向かい、そこにも手のひらを当てた。仕上げにぴょんと跳び上がりゴールバーを掴んでぶら下がる。右、中央、左。跳び下りて深呼吸。これは彼がゴール前に立つ時のルーティンだ。
     左右の肩を回してほぐし、サッカーボールの入ったカゴを引き寄せる。と、誰かの気配を感じた。
    「若林さん、自主練付き合います!」
    「森崎」
     名前を呼ばれた彼があまりに嬉しそうに笑うので、ついつられて破顔しそうになった若林はトレードマークのキャップを被り直す。
    「俺に構わずさっさとあがれ」
    「いえ、付き合わせて下さい。若林さんの動 6408

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