冬の帰り道夕食の済んだ食卓の上に、デザートのりんごが置かれている。母にフォークを渡された父と弟が、嬉しそうに手を伸ばすのに、俺は同じようにできなかった。
緊張していたんだ。
「杏寿郎も食べなさい」
母の優しい声にうながされ一度持ち上げたフォークを、食卓に置く。ダメだ。やっぱり食べる気になれない。
「今夜はあまり食がすすまなかったようね…何かあった?」
緊張して、あまり喉を通らなかった。とはいえ普通に食べたつもりだったが、母にはお見通しだ。
俺は腹を決め、両親の顔を順番に見た。
「父上、母上。お話があります!」
ただでさえうるさいと言われる俺の声が、ビリッと響いたのが自分でもわかった。弟が視線を逸らすのを見て、さらに付け加える。
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