人倫の不在証明PM17:30
その山荘は深い雪に埋もれるようにして建っていた。山荘をぐるり囲む針葉樹林も雪に覆われ、視界に写るのは雪の白と空の濃紺の2色のみ。既に日は落ちているが雲もなく、穏やかに晴れている。雪山はこれから起きる事件をまだ知らない。それを知っている「彼」は今まさにこの場に姿を現さんとしていた。
「転送完了!」
ブブブ、という接触不良を起こしたテレビのような音ともに光が収束し、身体を形成するデータが変換されていく。2008年の世界では魔法のようにしか見えない未来の技術で「彼」はここにやってきた。
「お~! 今回の任務は雪山か」
処女雪のど真ん中に立つスーツの少年は白とのコントラストでかなり目立っている。雪の反射に眼を細める仕草は間違いなく年相応のものだ。この雪原に着のみ着のままで立っていることに違和感を覚えることはあっても、とある「任務」のために遥か未来からやってきた巻戻士だとはどんな名探偵でもわかるまい。
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