リュウの身に着けていた鉢巻を手に取る。もう何年も経ってボロボロになってしまっているというのに。それでも彼はいつも身に着けてくれているのだと思うと悪い気はしなかった。何度も新しいのをやると言っても俺はこれがいいんだと譲らなかった。
その鉢巻を見ては、俺のものだから良いんだとひっそり嬉しく思っていた。
「どうした?」
「んー?いや…」
「この前洗ったばかりだぞ」
「洗っても洗わなくても変わんないだろ」
「む、そんなことは無いぞ」
眉を顰ませている顔を見て無意識に口元が緩む。そのまま顎を掬い寄せて、そっと唇を重ねた。多分こんな事しなくたって言葉にすれば彼は受け入れてくれるのだろうが、気がついた時には行動に移していた。
(…相変わらず、口を頑なに開けないな…)
催促する様に舌で口を開かせようと突くと小さく開けてそのまま好きなようにさせてくれる。困ったような表情をして、キスを受け入れていた。
顔に似合わない睫毛の長さ、薄い唇の奥にある分厚い舌をじんわりと味わう。
「ん、ッ…う、ぅ」
戸惑いながらも必死について来ようとする姿勢に微笑ましさすら感じる。昔キスしては息ができない!と顔を真っ赤にしていた頃が本当に懐かしいくらいだった。今でこそそんなことはあり得ないが、目を伏せて期待する表情を浮かべながら待つリュウを見るのもケンにとっては楽しみだった。
まるで褒められるのを待つ子供の様な姿を否定する様に、欲に濡れた素肌が晒されていく。その瞬間がたまらなく好きだ。
「…リュウ」
「ん…」
「………俺以外に許すなよ。こんな、こと」
返事を待つ前に押し倒して先ほどとは比べ物にならない息を奪い合うような深い口付けをした。
リュウの手を握り締め、強く握り返されるのを横目でちらりと覗いた。
「お前以外と、することなんかないだろう」
そうであってくれ、と擦り寄る。もうあの頃と違ってお互いに年を取った。滑らかな肌を持ち、柔らかく触り心地の良かった少年はもう居ない。手入れされていない素肌と年相応とも言える髭の濃さ。それでもリュウはリュウだった、何も変わらない。
寧ろ、それを願っているのは自分の方だろう。
ケンが添えた手に頬を寄せて目を伏せ、小さく微笑んでいる。それすらもああ、俺の知るリュウはいつの間にか少しずつ増えてしまっているのだと唾を飲み込んだ。
「…変わらないまま、生き続けるというのは存外難しいことなんだ、ケン。」
ガッカリしたか?と顔を上げながら言うリュウに首を振り、そんな訳は無いと額を合わせながら瞳を隠した。
(俺が望む姿をし続けているなんて、結局リュウじゃ無いんだ。誰でも良い訳じゃない、…俺はお前にこれ以上何を望んでいるんだろうな…。)