「ふ…お前は本当に世話焼きだな、もういいんだぞ。俺にそんな事をしなくても…」
「え?」
「ケンにはケンの都合があるだろう。」
「ばぁか、そうでもしないとお前がでた大会とかの手続きが大変だろうが!自分でやれるようになってから言えっての。」
「む…」
確かにケンにはいつも世話になっている…というかなり過ぎている。気付けば大会で優勝した賞金や商品などすぐに使えない場合は預かって貰ったり、受け取ってもらったりしていた。
リュウ本人はあまり金銭に拘りもなくただその地での食事や宿代に使っていただけだ。
そんな話をすればじゃあ大半の金と賞品はどうしてるんだよ!とケンやら春麗やらに怒られ、呆れられた。どうしてそこまで気にするのか、と口にしそうになったが更に話が長くなりそうだなと口を閉じたこともある。
「しかしな、ケンにも仕事があるだろう。」
「今更だろ、それにまた探すのも大変なんだよ。お前携帯電話にかけても結局電源落ちてたりするし。お前の行動が分かるものが一つくらい無いといろんな意味で心配なんだよ…。」
「う、んん…す…すまない、それは…。」
「…なんて、言ってるけどホントはお前に会う口実の一つかもな。」
「ん…?」
ケンのガラリと雰囲気を変えた声音に顔を上げる。
スルリと頬を撫でられてそのまま流れる様なキスを与えられて思わず少し身を引いた。
「…ンッ」
「……は…、何だよ、今更驚くことでもねぇだろ。」
「…今のその、流れでどうしてそういうことを、だな…。」
「したくなったからだよ。…駄目か?」
唐突だ、と思いながらも受け入れる自分に驚く。舌を絡め取られたと思えば吸い上げられて深い口付けを繰り返される。
蕩けてしまいそうな動きに腰が砕け落ちそうだった。
「ん…っう…!」
じゅくりと音を立ててようやく開放されたと思えばジッと物欲しそうな瞳で見つめられて物申すことも出来なくなる。
立ち上がり、腕を引かれ連れて行かれるまま足を運ぶ。ただまだ行為をするには明るい時間だ。予定は無くてもまだ話したいことは沢山ある、と少しだけ手を引っ張る。
「ケ、ケン、まだ」
「明るくても暗くてもやる事は変わらないだろ。」
「ン…」
そういうものか?も黙ると思い切り引っ張られてベッドに放り出される。
「う、ぉっ」
「はは、偉い偉い。ちゃんと受け身取れてるな。」
しゅるりとネクタイを外しながら近寄ってくるケンに抵抗をしようものなら嫌なのかと甘えた様な声音で尋ねられる。そんな訳無いだろうと言えばそれは許しになってしまうから、簡単に口には出来ない。
それでもケンと深く触れ合うのは嫌じゃない。
…寧ろ会うたびにこうすることを楽しみにしている自分が何処かにいる気がして。
「…俺は、まだ…お前と話がしたい…。」
小さく、抵抗をする。
言葉で。嫌だからじゃない、ケンがリュウを知りたい様にリュウもまたケンの事を知りたいが故だ。
ピクリと一瞬動きを止めてシャツを捲ろうとしていた手が引っ込んだ。
もしかしてやる気が失せたかと伏せていた顔を上げ、ケンの顔を見ると何とも言えない口を尖らせるでもなく笑うでもなく笑いを堪えたような顔をしていた。
「…なんだ?」
「ふ、い、いや…随分、可愛らしいお願いだな…と」
「…可愛らしい…?」
相変わらず可愛いという言葉を言われることに慣れないリュウが首を傾げる。ンン、と咳払いをして今にも押し倒そうとしていたケンがリュウの隣にゴロリと横たわる。
「かわいいかわいいお前のお願いは聞いてやりたいからいくらでも話してやる、でも後で俺のお願いも聞いてくれよ!」
「む…すまん…。いや、したくない訳じゃなくて…ただ…ケンが、会えていない間何をしていたのか聞きたくてだな…。」
「はは、俺の事大好きだな。」
「そう、なるか。」
中途半端に放り出されて嫌な顔一つくらいしてもいいだろうに、何故か心底嬉しそうな顔をしていた。そんなケンの方に覆い被さるように近寄り、ちゅうと押し当てるキスをした。
上手く出来る訳じゃないからすぐ体を起こして驚いたケンを他所にそそくさと背中を向けて横たわる。
「あっ、お前っ!なんですぐそっぽむくんだよ!」
「…」
「…耳まで真っ赤なの見えてんだよな、折角収めたのにお前がその気にさせてどーすんだよ!」
「………すまん。」
「今日はやたら珍しいことするな…。」
身体を捩り、ケンの方に向き直すと上半身を起こして見下ろす顔と目が合う。
何とも言わずキスの雨を降らせ、リュウの頬に手を当てながら名残惜しそうに唇が離れて行った。
「…もしかして俺の事試してる?」
「そんなわけ無いだろう。」
「ま…だよな、リュウがそんな事出来るとは思えないし…。」
なんだか失礼な事を言われたような気がすると思いながら顔を見合わせながら手をそっと握られてポツリと昔を思い出すな、と言葉を漏らす。
師匠が居ない日はこうして誰にも聞かれない筈なのにこっそりと同じ布団に入り、二人で話していた。
いくつになってもこうして話していられたらとお互い言い合っていた事を思い出しながら、ケンの落ち着いた声音に安心を覚えた。