リュウからの連絡を受けては、折り返しの電話をかけようと指が画面を愛おしそうに撫でる。
今この状態で果たしていつもの様に話せるのか。そう思うと結局何も出来ずに布団に入り込むしか無かった。やる事はまだ終わっていない。
それまでは声を聞くことすら出来ない。
自分の中で、そう勝手に決め付けていた。
(……今の俺を見て、お前は何を思うんだろうな。)
到底想像がつかなかった。
どんな顔をするのか。それすら全くと言っていいほどに。
ただ、リュウにガッカリされたくないと常に思っている。昔からそうだ。どんなに忙しくたって拳も闘志も燃やし続けることに必死だったから。
置いていかれないように、背中を追い続けていつかずっと隣で並んでいられるように。
リュウの存在そのものが生き甲斐の一つだったようなものだ。
…だから、なのかもしれない。
「ケン。」
最近やけにはっきりとした幻覚が見えている。
白い道着に、預けた赤い鉢巻。
静かなまま正座をする姿は見間違いようがない。
「………リュウ…。」
「大丈夫か、やけに疲れているな。」
「はは………そう…だな、お前が見えてる時点で…。」
ゆっくりと立ち上がりこちらにペタペタと足音を立てながら近寄ってくる。顔を上げるとすぐ目の前に座り込んでスルリと頬を包むように手が添えられる。大きく、分厚い。その手に自分の手を重ねてすり寄る。
…せめて夢であれ、いくらなんでも馬鹿馬鹿しい。
そう思いながらも自分の中のリュウに縋るしかないまでに疲弊している自分自身に、ケンは乾いた笑いしか出なかった。
「……ケン…。」
「お前に…こうして、触れたいよ。今すぐ、本当に……」
「…もう、寝よう。酷い顔だ。」
「…ああ。」
都合良くリュウに言葉を言わせている。
何なのだろう、心地良くも違和感だけが残る感覚は。
(…夢なんだろうな、何もかも…。)
何もかもが自分の望みを反映させたような、夢だ。
こんな事をしているなんてバレたら、何と言うだろうか頭がおかしいなんて言われたって構わない。
それほどまでにこの男をケンは欲していた。
そっと口を付けられ、リュウに引っ張られてそのまま抱き締められたまま眠りに落ちようとした。
頭を抱きかかえる様に撫でるリュウにしがみついて、今にも溢れてしまいそうな涙を堪えたまま。
「おやすみ、ケン。」
眠るしかなかった。