雨が、降り続いている。
外は暗く静かにしとしとと雨粒が地面に落ち続けていた。
リュウがもう使われなくなった部屋を掃除しながら畳の上で荷物を広げていると、誰が来たのか見なくとも分かる足音が聞こえた。
顔を上げて襖の方に視線をやるとケンが思い切り襖を開け、大きな荷物を担いで駆け寄ってきた。
「よ、買い物終わったぜ。雨だから流石に時間掛かっちまったよ。」
「すまん、まさかここまでずっと降っているとは。」
「いいんだよ。どうせリュウに作ってもらってるし掃除もしてもらってるしな。」
「少しは手伝え。」
「苦手なんだよ、しってるだろ?」
肩をすくめて大の字になるケンの額を指で弾いてやった。久しぶりだというのに相変わらずで、何だか安心してしまったけれど。
「…なぁ、リュウ。」
「ん?」
「俺達、またいつでもこうして会えるのかな。」
「…何を…」
「もし、お前までいなくなったらって考えちまうんだ。馬鹿馬鹿しいとは思っていてもリュウはそういう旅をしているから、つい…な。」
珍しく、弱気だなとリュウが目を伏せた。
ケンは時折こうして本心をさらけ出すことがある。つまりそれは今まで思っていたことを不意に漏らしているだけなんじゃないかとも考えられる。
果たして本当のところはどうなのだろうかと思いつつ、確かにいつまでもこうして顔を合わせられるとは限らないなと思った。
「……それなら」
「ん?」
ケンの顔を覗き込むように、覆い被さり顔を見合わせた。
言ってしまっていいのかと一瞬だけ不安がよぎる。それでも、ほろりと崩れた様に口は動いていた。
「ずっと、俺とここにいればいい。」
「え…?」
「そうすれば昔の様に居られる。」
表情を変えることなく、小さく漏れた声がケンの本音だ。驚くとは言わずとも恐らく理解ができていないのだろう。
「……………ふ…なんて、な。」
力を抜いた様にケンから目を逸らし、再び正座をする。
どこまで本気で、嘘なのか。自分でも分からない。
…自分がこんな事を言うなんて、どうかしている。
連日の雨で湿っぽくなってしまったのだろうか。
驚いた様に体を起こしたケンの方を見て張り付いたような笑いを浮かべ、立ち上がろうとした。
「リュウ。」
「どうした?」
「…ここにいても、お前はいずれいなくなるだろ?強い奴を求めて。その体はここに留まるだけでは居られない。…だから俺達もこうして離れちまったんだぜ、本当なら、お前を…俺のそばに置いとくことだって出来るんだ。どうしようも無いことがあるって分かってるから…しないだけで…。」
真っ直ぐと強い瞳を見つめられたまま聞いた言葉は、ケンにとって何を意味するのか。
分からない程鈍いつもりは無い、ただここで何を答えれば正解なのだろうと口を閉じたままだった。
「…その言葉、もっと早く聞きたかったぜ。」
悲しげなそれでいて優しいままの声音で話すケンをこれ以上見ていられなかった。
自分が吐いた言葉で、一気に崩れた様に話すケンに見つめられていてはもう何も言える気がしなかったから。
(本音を、本音だと言い切らない限り俺は、ずっと…)
知った以上、知らぬままでいられるなんてある訳がないのに。
まだケンに甘えている。
相変わらずなのは自分の方じゃないのかと雨が降る空と同様に表情を曇らせる事しか、リュウには出来なかった。