プロローグ「こんなに長く拘束される現場のお仕事は、内容は承知しているし、ありがたい話なんすけどね」
「離れててもBeitファミリーの絆は強く結ばれてるよ!」
「みのりも、恭二も、がんばって! えいえい、おー!」
「おー!!」
「おー」
いつもの商店街のたこ焼き屋にて、みのりと恭二の壮行会が行われていた。参加者はBeitの三人とカエールとピエールのSPだけだが。
「恭二、朝ドラへの出演なんて、すごいよね」
「みのりさんこそ、みっちり稽古合宿なんて、ハードっすね」
「二人とも、すごい!」
恭二は主演ではないものの、物語上重要な役のため、舞台となる地でしばらく撮影が続く。一日二日で終わるものでもないため、しばらく東京を離れることになる。みのりはアクションシーンが見どころの舞台に出演が決まった。身体を作ることも必要であるため、生活が徹底管理された中で稽古が行われる。大変にストイックな合宿稽古であることが有名だ。
ピエールはピエールでソロの仕事。つまり、一ヶ月間三人で顔を合わせることができないのである。
「ほんの何年も前までは、お互いのこと会ったこともない、何も知らない同士だったのに、不思議なものだよね。一ヶ月間、会えなくて寂しいって思うなんて」
「ボクたち、いっぱいなかよしなった!」
「うんうん、そうだね。Beitファミリーの! 絆は!」
「それ、さっきも言ったっすよね」
許容範囲ならばかまわないということになっているが、しばらくお酒を断つことにしたというみのりは、たこ焼きをつまみに名残惜しそうにしみじみビールを飲んでいる。
「ピエールは一人で大丈夫?」
「ひとり、ちがうよ。みんな、いっしょにがんばろう、いってる」
ピエールはまだ日本語や日本の文化に疎いところがあり、完全に一人で仕事に出向くことはなく、フォローできる者がつく。だいたいは恭二、みのり、プロデューサーである。しばらくは事情を知る事務所の仲間がつくように調整してくれている。
「ピエール、立派になって……」
涙腺が緩むほどのアルコール量ではないのだが、みのりのピエール優先度は大変に高いため、しかたがないことなのである。
「みんなでがんばる、Beitのためになる! えいえい、おー!」
「おーっ!!」
「おー」
「あっ、ピエールにはさっきも言ったって言わないんだ」
みのりに隠れがちだが、恭二もピエールの優先度は大変に高いのである。